決算の全体像、いま自分がどの段階にいるかがわかる地図です

この単元の標語:決算は複数の手続きの集まりであり、決算整理はその一部にすぎない。個々の処理を覚える前に、それが決算のどの段階の仕事かを見分けられるようにする。


① このページで学ぶこと

  • 決算の目的を説明できる
  • 決算と決算整理が同じものではないことを説明できる
  • 決算整理前残高試算表から財務諸表までの流れを説明できる
  • 決算整理が必要な理由を説明できる
  • 試算表・決算整理・精算表・財務諸表・帳簿締切のそれぞれの役割を区別できる

② 基礎概念

決算とは

決算とは、会計期間の終わりに、1年間の記録を整理して経営成績財政状態を明らかにする一連の手続きです。

当サイトでは、原則として会計期間を4月1日から翌年3月31日までとして説明します。

決算では最終的に、次の財務諸表へつなげます。

財務諸表 示すもの
損益計算書(P/L) 一定期間の収益・費用と当期純損益 ── 経営成績
貸借対照表(B/S) 期末時点の資産・負債・純資産 ── 財政状態

決算 と 決算整理 は同じものではない

これが本単元でいちばん大切な区別です。

決算 = 期末に行う手続きの全体 決算整理 = そのうち、日常記帳だけでは正しい金額になっていない項目を調整する手続き

決算には決算整理のほかにも、財務諸表の作成損益振替帳簿の締切りといった手続きが含まれます。

「決算で行う処理」をすべて「決算整理仕訳」と呼んではいけません。

決算整理前残高試算表

日常取引をすべて仕訳し、総勘定元帳へ転記したあと、各勘定の残高を集めたものが決算整理前残高試算表です。

名前のとおり、まだ決算整理を行う前の残高を示しています。この表の金額が、そのまま財務諸表の金額になるとは限りません。

[関連単元] 試算表そのもの(合計試算表・残高試算表・合計残高試算表の違い、作成手順、試算表で発見できる誤りと発見できない誤り)は C13-T01「試算表の基本」で扱います。

決算整理

期末には、日常記帳だけでは正しい金額になっていない項目を調整します。代表的なものは次のとおりです。

  • 期末商品の棚卸しと売上原価の算定
  • 貸倒引当金の設定
  • 固定資産の減価償却
  • 未使用の収入印紙などの貯蔵品への振替
  • 消費税の精算
  • 前払・前受・未収・未払の期間調整
  • 法人税等の計上
  • 現金過不足・仮払金仮受金など一時的な勘定の整理

これらに伴って行う仕訳を決算整理仕訳といいます。

[関連単元] 個別の決算整理をどう仕訳し、どう計算するかC14-T02〜T09 で1つずつ扱います。本単元では、それらが決算のどの段階の仕事なのかという位置づけだけを確認します。


③ 仕組み・理由

なぜ決算整理が必要なのか

簿記では、現金が動いた時点だけで収益・費用を決めるわけではありません。

たとえば1年分の保険料を先に支払っていても、その一部が翌期分なら、当期の費用にしてはいけない部分があります。また、当期中に使用した固定資産については、現金支出がなくても減価償却費を計上する必要があります。

このように、日常の仕訳だけでは当期分と翌期分が正しく分かれていない場合があるため、期末に決算整理を行います。

決算全体の流れ

本教材では、決算の流れを理解しやすくするために、次の段階に整理して説明します。

① 日常取引を記帳する ② 決算整理前残高試算表を作る ③ 未処理事項を確認して反映する ④ 必要な決算整理仕訳を行う ⑤ 決算整理後の金額を確定する ⑥ 精算表・損益計算書・貸借対照表などを作る ⑦ 収益・費用を損益勘定へ振り替える ⑧ 当期純損益を繰越利益剰余金へ振り替える ⑨ 帳簿を締め切る

手続きのまとめ方や区切り方は、教材によって異なる場合があります。 たとえば、全体を5つの段階にまとめて示すこともあります。

また、⑥(財務諸表の作成)と ⑦〜⑨(損益振替・帳簿締切)は、どちらも決算整理後の金額にもとづく手続きです。 大切なのは段階の数や順番を覚えることではなく、それぞれの手続きが何をしているかを区別できることです。

5つの手続きの役割を区別する

手続き 何をするか 扱う単元
試算表 転記が貸借そろって行われたかを確認し、決算整理前の各勘定残高を1枚に集める C13-T01
決算整理 日常記帳だけでは正しくない項目を調整し、当期の正しい金額を確定する C14-T02〜T09
精算表 試算表の残高に決算整理を横へ合成し、P/L欄・B/S欄へ振り分ける集計表 C15-T01
財務諸表 決算整理後の金額を、損益計算書・貸借対照表という報告書の様式にまとめる C15-T02・C15-T03
帳簿締切 収益・費用の各勘定を損益勘定へ振り替えて残高をゼロにし、資産・負債・純資産を次期繰越として引き継ぐ C15-T06

精算表と財務諸表は別のものです。 精算表は計算・整理のためのワークシート、財務諸表は外部へ示す報告書です。

帳簿締切は、財務諸表を作ることとは別の手続きです。 財務諸表は報告書を作る作業、帳簿締切は帳簿そのものを次期へ引き継げる状態にする作業です。


④ 基本例

青森商事株式会社の×2年3月31日(決算日)の決算整理前残高試算表に、次の残高があった。

  • 備品:¥600,000(借方)
  • 備品減価償却累計額:¥180,000(貸方)

決算にあたり、当期の備品の減価償却費 ¥60,000 を計上する必要がある。


⑤ 段階を確認する

段階1:決算整理前の帳簿には、まだ当期分が反映されていない

決算整理前残高試算表の備品減価償却累計額は ¥180,000 です。これは前期末までの累計であり、当期分の ¥60,000 はまだ含まれていません。

段階2:決算整理仕訳を行う

  1. 取引を読む:当期中に使用した備品について、当期分の価値の減少を費用として反映する必要がある。
  2. 勘定科目を決める:当期の費用 → 減価償却費/累計額を増やす → 備品減価償却累計額
  3. 5要素を確認する:減価償却費(費用)/備品減価償却累計額(資産の控除項目
  4. 増減を判断する:減価償却費が発生/累計額が増加
  5. 借方・貸方を決める:費用の発生は借方/累計額の増加は貸方
  6. 金額を記入する:どちらも ¥60,000
借方科目 金額 貸方科目 金額
減価償却費 60,000 備品減価償却累計額 60,000

段階3:決算整理後の金額が確定する

科目 決算整理前 決算整理後
減価償却費 60,000
備品減価償却累計額 180,000 240,000
備品 600,000 600,000(変わらない)

算定:180,000 + 60,000 = ¥240,000

決算整理前の残高をそのまま財務諸表へ写すのではないことが、この1本の仕訳だけでもわかります。

段階4:ここから先は別の手続き

この後、決算整理後の金額を使って精算表や財務諸表を作り(C15)、損益振替と帳簿締切を行います(C15-T06)。

本単元で確認したいのは、いま行った処理が「④決算整理」の段階だったということです。

[注意] この例で使った減価償却の計算方法(耐用年数・残存価額・償却率など)は C14-T04 で扱います。 本単元では、当期分の金額が与えられた前提で、段階の位置づけだけを確認しています。


⑥ 間違いやすいポイント

主なものを3つ確認します。 実際の誤りはこの3つに限りません。

1.「決算整理前残高試算表」を完成後の数字だと思ってしまう

「残高試算表」という名前を見ると、すでに正しい期末残高が完成しているように感じるかもしれません。

しかし決算整理前残高試算表には、まだ期末の調整が反映されていません。 問題では、決算整理前なのか決算整理後なのかを必ず確認してください。

2.決算で行う処理をすべて「決算整理仕訳」と呼んでしまう

決算には、決算整理/財務諸表の作成/損益振替/純損益の振替/帳簿締切という複数の段階があります。

とくに当期純損益を繰越利益剰余金へ振り替える処理は、決算整理ではなく損益振替・帳簿締切の段階です。この処理そのものは C10-T02・C15-T06 で扱います。

3.現金が動かないから仕訳は不要だと思ってしまう

減価償却や経過勘定のように、決算整理には現金の受払いを伴わない仕訳が多くあります。

簿記で確認するのは、現金が動いたかどうかではなく、当期の資産・負債・純資産・収益・費用が正しい金額になっているかです。


⑦ 試験での問われ方

当サイトの本試験形式では、第3問対策(決算)の基礎単元に位置づけています。

第3問対策

第3問では主に8桁精算表(E-T10)・財務諸表作成(E-T11)・決算整理後残高試算表(E-T12)を扱います。

いずれも決算整理前残高試算表に必要な修正を加えることが中心です。

複数論点の組合せ

決算問題では、現金過不足・当座借越・商品棚卸・貸倒引当金・減価償却・貯蔵品・消費税・経過勘定・法人税等などが複数組み合わされます。

そのため、個別の仕訳を覚えるだけでなく、「決算整理前の数字 → 修正 → 決算整理後の数字」という流れを意識することが重要です。

「未処理事項」に注意する

決算日に、すでに取引は発生しているのに帳簿へ記入されていない事項が示されることがあります。

この場合は、まず必要な仕訳を反映し、そのうえで決算整理を考えます。 未処理事項の反映は決算整理そのものではありません。


⑧ まとめ

段階 代表的な処理 詳しく学ぶ単元
決算整理前 日常仕訳を終え、決算整理前残高試算表を作る C13-T01
未処理事項 記帳漏れの取引を反映する C14-T09 ほか
決算整理 商品棚卸/貸倒引当金/減価償却/貯蔵品/消費税/経過勘定/法人税等 C14-T02〜T09
決算整理後 精算表・決算整理後残高試算表を作る C15-T01・C15-T05
財務諸表 損益計算書・貸借対照表を作る C15-T02・C15-T03
損益振替 収益・費用を損益勘定へ振り替える C15-T06
純損益の振替 損益勘定の残高を繰越利益剰余金へ振り替える C10-T02
帳簿締切 各勘定を締め切り、次期へつなげる C15-T06

決算は複数の手続きの集まりであり、決算整理はその一部です。 個々の処理を学ぶときは、それが決算のどの段階の仕事かを確認しながら進めてください。


⑨ 関連問題への導線

  • 一問一答:C14-T01「決算の全体像」(全10問)
  • 前のテキストC13-T01「試算表の基本」
  • 次のテキストC14-T02「商品棚卸と売上原価の決算整理」
  • 個別の決算整理C14-T02〜T09
  • 精算表C15-T01「精算表(8桁精算表)」
  • 財務諸表:C15-T02「損益計算書」/C15-T03「貸借対照表」
  • 決算整理後残高試算表:C15-T05
  • 損益振替・帳簿締切C15-T06「帳簿の締切り」
  • 純損益の振替C10-T02「当期純利益の振替」

本単元には仕訳問題を置いていません。 決算整理の仕訳は、論点ごとに C14-T02〜T09 で扱います。


⑩ 2級への接続

2級では、決算整理で扱う論点や計算がさらに増えますが、決算の基本的な流れは変わりません。

3級のうちに、「試算表 → 決算整理 → 決算整理後の金額 → 財務諸表 → 損益振替・帳簿締切」という段階の区別を確実にしておくと、個々の仕訳を「決算のどの段階で必要なのか」と位置づけられるようになります。


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