① このページで学ぶこと
このページでは、払出単価を決めるもう1つの方法である移動平均法を学びます。
- 移動平均法とはどういう方法か
- 先入先出法との違い
- 平均単価の計算式
- 平均単価を計算し直すのはいつか
- 払出だけでは平均単価が変わらないこと
- 複数回の受入がある場合の連続計算
- 期末残高と検算
- 売上原価・売上総利益への接続
商品有高帳の基本構造(受入・払出・残高の3欄、すべて原価で記入すること、締切のルール)はC03-T04で学んだとおりです。ここではその知識を前提に、払出単価の決め方だけが変わるという点に集中します。
② 移動平均法とは
移動平均法とは、単価の異なる商品を受け入れるたびに、在庫全体の平均単価を計算し直し、次の払出はその平均単価で行う方法です。
先入先出法との違いを整理すると、次のようになります。
| 先入先出法(C03-T04) | 移動平均法(本単元) | |
|---|---|---|
| 払出単価の決め方 | 古い単価の層から順に使う | その時点の平均単価を使う |
| 残高欄の形 | 単価ごとに層を分けて複数行になることがある | 通常は1行(受入後の単価を1本化して管理) |
| 単価が動くとき | 層が入れ替わるとき | 通常は受入時。仕入戻しなどで残高の原価構成が変わる場合も再計算する |
先入先出法が「古い順に使う」という層の管理だったのに対し、移動平均法は受入後の在庫を平均単価で1本にまとめて管理します。そのため、通常の基本問題では残高欄は1行です。
この2方式を比べる基本問題では、残高欄が単価別に複数行で示されていれば先入先出法、平均単価で1行なら移動平均法と見分ける手掛かりになります。
なお、どちらの方法も払出単価を決める方法です。問題で処理方法が指定されているときは、その指定を読み落とさないことが大切です。
③ 平均単価の計算式
平均単価 =(受入直前の残高金額 + 今回の受入金額)÷(受入直前の残高数量 + 今回の受入数量)
つまり金額合計 ÷ 数量合計です。
例を見てみましょう。
残高:20個 @400円 = 8,000円 ここへ 30個 @500円 = 15,000円 を仕入れた
- 数量合計:20 + 30 = 50個
- 金額合計:8,000 + 15,000 = 23,000円
- 平均単価:23,000 ÷ 50 = @460円
この@460円を、次に新しい受入れが起きるまで払出単価として使います。
単価の単純平均ではない
ここでよくある誤りが、(@400 + @500)÷ 2 = @450円としてしまうことです。
これは数量の重みを無視した計算です。上の例では@500円の商品のほうが多い(30個 対 20個)ため、平均は@450円より高い@460円になります。必ず金額合計÷数量合計で計算してください。
④ 平均単価を計算し直すのはいつか
通常の仕入れなどで商品を受け入れたときは、平均単価を計算し直します。通常の売上による払出では、平均単価を計算し直しません。
売上によって払い出したときは、直前の平均単価をそのまま使います。
通常の売上では、平均単価@460円の在庫が50個から30個に減っても、残った30個は@460円のままです。一方、仕入戻し(仕入返品)のように、直前の平均単価とは異なる取得単価の商品を在庫から取り除く処理では、残高の平均単価が変わるため再計算が必要になることがあります。したがって、「払出では再計算しない」というルールは、通常の売上による払出について理解してください。
「移動」平均という名前も、受け入れるたびに平均が計算し直されて動いていくことに由来します。
払出の例
先ほどの状態(50個・@460円・23,000円)から20個を払い出すとします。
- 払出原価:20個 × @460 = 9,200円
- 払出後の残高:30個 × @460 = 13,800円
平均単価は@460円のままです。ここで再計算をしてはいけません。
⑤ 記入例|受入と払出が繰り返される場合
C商品の8月の動きが次のとおりだったとします。
8月1日 前月繰越 10個(@200円) 8月4日 仕入 30個(@240円) 8月11日 売上 25個(売価@350円) 8月18日 仕入 25個(@262円) 8月24日 売上 30個(売価@350円)
商品有高帳(C商品)〔移動平均法〕
| 日付 | 摘要 | 受入 数量 | 受入 単価 | 受入 金額 | 払出 数量 | 払出 単価 | 払出 金額 | 残高 数量 | 残高 単価 | 残高 金額 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 8/1 | 前月繰越 | 10 | 200 | 2,000 | 10 | 200 | 2,000 | |||
| 8/4 | 仕入 | 30 | 240 | 7,200 | 40 | 230 | 9,200 | |||
| 8/11 | 売上 | 25 | 230 | 5,750 | 15 | 230 | 3,450 | |||
| 8/18 | 仕入 | 25 | 262 | 6,550 | 40 | 250 | 10,000 | |||
| 8/24 | 売上 | 30 | 250 | 7,500 | 10 | 250 | 2,500 | |||
| 8/31 | 次月繰越 | 10 | 250 | 2,500 | ||||||
| 65 | 15,750 | 65 | 15,750 |
※次月繰越の行は朱記します。締切のルール(前月繰越は受入欄・次月繰越は払出欄)はC03-T04と共通です。
計算を順に追います。
8月4日(仕入):単価の違う商品が混ざったので平均単価を計算し直します。 (2,000 + 7,200)÷(10 + 30)= 9,200 ÷ 40 = @230円 残高欄は40個・@230・9,200円の1行だけです。層は作りません。
8月11日(売上25個):直前の平均単価@230円をそのまま使います。 払出 = 25 × 230 = 5,750円/残高 = 15個・@230・3,450円 再計算はしません。
8月18日(仕入):また混ざったので再計算します。 (3,450 + 6,550)÷(15 + 25)= 10,000 ÷ 40 = @250円
8月24日(売上30個):@250円で払い出します。 払出 = 30 × 250 = 7,500円/残高 = 10個・@250・2,500円
この月は受入が2回あったので、平均単価の計算も2回でした。時系列どおりに「受入 → 再計算 → 払出」を繰り返すのが基本です。
⑥ 検算
C03-T04と同じ関係式が、移動平均法でもそのまま成り立ちます。
期首+当期受入 = 当期の実際の払出+期末残高
上の例で確認します。
- 数量:10 + 55 = 65 / 55 + 10 = 65 ✓
- 金額:2,000 + 13,750 = 15,750 / 13,250 + 2,500 = 15,750 ✓
数量と金額の両方で確認してください。
「払出欄の縦計」と「実際の払出」は別物
上の表で、払出欄の縦計は 15,750円です。しかしこれは次月繰越の2,500円を含んだ金額です。
売上によって実際に払い出された原価は、5,750 + 7,500 = 13,250円です。
締切のときに次月繰越を払出欄へ書く形式をとるため、払出欄の縦計をそのまま売上原価としてはいけません。売上による払出の行だけを合計します。
⑦ 売上原価と売上総利益への接続
返品などがない基本的なケースでは、売上による実際の払出原価の合計が売上原価になります。
上の例では、
- 売上原価 = 5,750 + 7,500 = 13,250円
- 売上高 =(25 + 30)個 × @350 = 19,250円
- 売上総利益 = 19,250 − 13,250 = 6,000円
売上高は売価の世界、売上原価は払出欄(原価の世界)です。この2つを別々に集計してから差し引きます。
ここで、平均単価@250円と販売単価@350円を混同しないことが大切です。商品有高帳に記入するのは平均単価のほうです。
なお、同じ取引でも、先入先出法と移動平均法では払出単価の決め方が異なるため、売上原価や売上総利益が異なることがあります。これが払出単価の決め方を学ぶ理由の1つです。
売上原価と売上総利益そのものを扱う単元はC03-T06です。本単元では、移動平均法で計算した払出原価がそこへつながる、という接続までを扱います。
⑧ 端数処理への注意
平均単価は「金額合計÷数量合計」なので、割り切れないことがあります。
たとえば金額合計10,000円・数量合計30個なら、平均単価は333.33…円となります。
このような場合は、問題文などに示された「円未満四捨五入」「円未満切捨て」などの端数処理の指示を確認します。本教材で端数が生じる問題を作る場合は、処理方法を問題文に明記します。
本単元の問題は、平均単価がすべて割り切れるように数値を設定しています。まずは計算の流れを確実にしてください。
⑨ 返品があった場合
参考として、返品の扱いにも触れておきます。返品は「払出」と一括りにはできません。
- 仕入返品(仕入れた商品を返す)→ 在庫が減る → 払出側へ記入する基本形
- 売上返品(売った商品が戻ってくる)→ 在庫が増える → 受入側へ記入する基本形
特に移動平均法では、仕入返品を返品商品の仕入単価で処理した結果、直前の平均単価と残高の原価構成が変わる場合、返品後の残高数量・残高金額から平均単価を求め直します。このため「売上による通常の払出では再計算しない」と「仕入返品でも常に再計算しない」を混同しないでください。返品の詳しい処理はC03-T02(仕入・売上の返品と諸掛)で扱います。
⑩ 主な間違いやすいポイント
1.売上のときにも平均単価を計算し直す
通常の売上による払出では直前の平均単価をそのまま使い、再計算しません。受入時に再計算するのが基本です。ただし、⑨の仕入返品のように残高の原価構成が変わる処理は例外です。
2.平均単価を「単価の平均」で計算する
(@200 + @240)÷ 2 = @220円 とするのは誤りです。正しくは金額合計÷数量合計(9,200 ÷ 40 = @230円)です。
3.残高欄に層を作る
先入先出法の癖で残高を2行に分ける誤りです。移動平均法では受入後の在庫を平均単価で1本化するため、通常の基本問題では残高欄は1行です。
4.途中の再計算を飛ばす
2回目の受入で再計算を忘れると、それ以降の払出も残高もすべてずれます。時系列を崩さず1つずつ処理します。
5.払出欄の縦計を売上原価とする
⑥のとおり、次月繰越を含んだ金額です。売上による払出だけを合計します。
⑪ この単元と他の単元の境界
- 商品有高帳の基本構造・原価記入の原則・先入先出法 → C03-T04
- 売上原価と売上総利益そのもの → C03-T06
- 返品の処理 → C03-T02
- 商品有高帳を答案として完成させる本試験形式 → E-T06
- 決算整理仕訳(仕入・繰越商品を用いた処理)や財務諸表の作成 → 後続の決算単元
本単元が扱うのは、移動平均法による払出単価の決め方と、それに基づく計算です。
⑫ まとめ
- 移動平均法は、通常の仕入れなどで受け入れるたびに平均単価を計算し直す方法
- 平均単価 = 金額合計 ÷ 数量合計(単価の単純平均ではない)
- 通常の売上払出では再計算しない。受入時の再計算が基本だが、仕入返品などで残高の原価構成が変わる場合は再計算が必要
- 移動平均法では受入後の単価を1本化するため、通常の基本問題では残高欄は1行
- 検算は 期首+受入=実際の払出+期末(数量・金額の両方で)
- 払出欄の縦計には次月繰越が含まれるので、そのまま売上原価にしない
- 平均単価が割り切れない場合は、問題文の端数処理の指示に従う
- 方法によって売上原価・売上総利益が異なることがあるため、問題で指定された方法を確認する
⑬ 2級への接続
2級では、期末に一括して平均単価を求める総平均法が加わります。また工業簿記では、材料の消費単価を決める場面で移動平均法と同じ考え方を使います。
「混ざったときに単価を作り直す」という本単元の原理は、そのまま上位級へ引き継がれます。

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