1.このページで学ぶこと
決算の流れの中で、決算整理を反映したあとの各勘定残高を一覧にした表を扱います。
この表を 決算整理後残高試算表(Adjusted Trial Balance、略して ATB)といいます。
ねらいは3つです。
- どの時点の表なのかを正確につかむ
- 決算整理仕訳を科目ごとに反映して、決算整理後の残高を確定する
- 借方合計と貸方合計が一致することを確かめ、その検算の限界も知る
決算整理仕訳そのものの作り方は C14 の各単元が扱います。ここでは、その仕訳を反映した結果の残高に集中します。
2.決算整理後残高試算表(ATB)とは
ATB は、決算整理仕訳をすべて総勘定元帳へ反映したあとに、各勘定の残高を借方・貸方に並べた一覧表です。
試算表の一種なので、
借方残高の合計 = 貸方残高の合計
が成り立ちます。
決算整理前の残高試算表が「整理する前の姿」であるのに対し、ATB は「整理を終えた姿」です。ここから損益計算書と貸借対照表を作ります。
3.作成する時点
この時点を取り違えると、表の中身がまったく変わります。
本教材で扱う基本的な決算の流れは次のとおりです。
決算整理前残高試算表 ↓ 決算整理仕訳(C14 各単元) ↓ 総勘定元帳へ反映 ↓ ★ここが ATB ★ ↓ 損益計算書・貸借対照表の作成(C15-T02・T03・T04) ↓ 損益振替・帳簿締切(C15-T06) ↓ 繰越試算表
ATB は、決算整理をすべて反映したあと、損益振替(帳簿締切)を行う前の一覧表です。
4.決算整理前残高試算表との違い
| 決算整理前残高試算表 | 決算整理後残高試算表(ATB) | |
|---|---|---|
| いつの姿か | 決算整理を行う前 | 決算整理を終えたあと |
| 期末商品 | 反映されていない | 反映済み |
| 当期の減価償却 | 反映されていない | 反映済み |
| 経過勘定 | 存在しないことが多い | 新しく現れる |
| 借方合計=貸方合計 | 成り立つ | 成り立つ |
どちらも試算表なので貸借は一致します。一致しているかどうかでは、前か後かを見分けられません。
試算表そのものの意味(合計試算表・残高試算表・合計残高試算表の区別、貸借一致による検算)は C13-T01(試算表の基本) が扱っています。
5.8桁精算表との違い
C15-T01(精算表) が扱う8桁精算表は、1枚の用紙の中に4つの欄(残高試算表欄・修正記入欄・損益計算書欄・貸借対照表欄)を並べた作業用紙です。
| 8桁精算表(C15-T01) | ATB(本ページ) | |
|---|---|---|
| 欄の数 | 4欄(試算表・修正記入・P/L・B/S) | 1つの残高一覧(借方・貸方) |
| 修正額 | 修正記入欄に別建てで見える | 見えない(残高に溶け込んでいる) |
| P/L と B/S | 用紙の中で振り分け済み | 振り分け前 |
8桁精算表では、整理前残高と修正記入を行ごとに合成し、その結果を損益計算書欄または貸借対照表欄へ振り分けます。ATB では、その振り分け前の決算整理後残高だけを独立した一覧として並べます。
6.財務諸表との違い
ATB は財務諸表ではありません。
| ATB(本ページ) | 損益計算書・貸借対照表 | |
|---|---|---|
| 何の一覧か | 帳簿の勘定残高 | 財務諸表上の表示科目 |
| 科目名 | 帳簿の勘定科目のまま | 表示科目へ読み替える |
| 収益・費用と資産・負債 | 1つの表に混在 | P/L と B/S に分かれる |
損益計算書は C15-T02、貸借対照表は C15-T03、両方を仕上げる流れは C15-T04 が扱います。
7.帳簿締切後の試算表との違い
帳簿を締め切ったあとにも試算表を作ることがあります(繰越試算表)。これは ATB とは別の段階の資料です。
| ATB(本ページ) | 繰越試算表(C15-T06) | |
|---|---|---|
| 時点 | 損益振替の前 | 損益振替と締切のあと |
| 収益・費用 | 残っている | 残っていない(損益勘定へ振り替え済み) |
| 繰越利益剰余金 | 当期純損益を反映する前 | 当期純損益を反映した後 |
損益振替・次期繰越・繰越試算表は C15-T06(帳簿の締切り) が扱います。
8.作成手順
手順1 決算整理前残高試算表から、各勘定の整理前残高を確認する 手順2 決算整理事項を仕訳の形にする(借方・貸方) 手順3 科目ごとに、その仕訳の借方・貸方を元の残高へ反映する 手順4 決算整理で新しく生じた勘定を追加する 手順5 各科目の残高を、借方・貸方の正しい側へ記入する 手順6 借方合計と貸方合計が一致することを確かめる
9.決算整理仕訳を科目別に反映する
反映は仕訳単位ではなく科目単位で行います。
1つの科目に、複数の決算整理が入ることがあります。たとえば三分法の商品棚卸では、仕入勘定に借方と貸方の両方が入ります。
整理前の仕入残高(借方)571,000 +(借)仕入 102,000(期首商品の振替) −(貸)仕入 131,000(期末商品の振替) = 決算整理後の仕入残高(借方)542,000
「決算整理後残高=整理前残高に1つの調整額を足し引きするだけ」ではありません。 その科目に関係するすべての決算整理を反映した結果が、決算整理後残高です。
10.借方残高・貸方残高の決め方
各科目について、次の順で考えます。
手順1 整理前残高は借方か貸方か 手順2 決算整理で借方にいくら入るか 手順3 決算整理で貸方にいくら入るか 手順4 差引きの結果、どちら側に残るか
計算の途中では「借方をプラス、貸方をマイナス」として扱っても構いません。ただし表に書くときは、必ず残った側の欄へ正の金額で記入します。借方欄にマイナスの金額を書くことはありません。
11.新しく生じる勘定残高
決算整理によって、決算整理前残高試算表には存在しなかった勘定が現れることがあります。
| 決算整理 | 新しく現れる勘定 | 側 |
|---|---|---|
| 減価償却 | 減価償却費 | 借方 |
| 経過勘定(前払) | 前払家賃 など | 借方 |
| 経過勘定(未収) | 未収利息 など | 借方 |
| 経過勘定(未払) | 未払利息 など | 貸方 |
| 経過勘定(前受) | 前受地代 など | 貸方 |
| 貸倒引当金の設定 | 貸倒引当金繰入 | 借方 |
| 法人税等の計上 | 未払法人税等・法人税、住民税及び事業税 | 貸方・借方 |
新しく生じた勘定だけを書き落として相手科目の調整だけを反映すると、貸借が一致しなくなります。一方、決算整理そのものを両側とも反映し忘れた場合は貸借が一致したままのこともあります。貸借一致だけに頼らず、決算整理事項を1つずつ確認してください。
12.貸倒引当金等の貸方残高
貸倒引当金は、売掛金などの回収不能見込額を表す勘定です。名前や役割から資産に関係しますが、勘定残高は貸方です。
「資産に関係するから借方」と判断してはいけません。ATB では貸方の列に記入します。
貸借対照表では、貸倒引当金を売掛金等から控除する形で表示することがありますが、具体的な表示方法は問題所定の様式に従います(C15-T03)。一方、ATB では帳簿勘定の残高を示すため、貸倒引当金は独立した貸方残高として並べます。
13.減価償却累計額の貸方残高
備品減価償却累計額も同じく貸方残高です。
決算整理後の残高は、整理前の累計額に当期分の減価償却費を加えた金額になります。
整理前の備品減価償却累計額(貸方)211,000 + 当期の減価償却費 66,000 = 決算整理後の備品減価償却累計額(貸方)277,000
このとき、減価償却費(費用・借方)も新しく生じます。1本の仕訳から借方の費用と貸方の累計額という2つの残高が生まれる点を確認してください。
ATB では、備品(借方)と備品減価償却累計額(貸方)が別々の勘定として残ります。貸借対照表では、取得原価・減価償却累計額・差引額などを問題所定の様式に従って表示します(C15-T03)。
当期の減価償却費をいくら計上するかという計算は C07-T03・C14-T04 が扱います。
14.経過勘定の反映
決算整理で経過勘定を計上すると、新しい勘定が生じ、もとの費用・収益の残高も変わります。
たとえば支払家賃のうち翌期分を前払家賃へ振り替えた場合、
- 前払家賃(資産・借方)が新しく現れる
- 支払家賃(費用・借方)は、振り替えた分だけ減る
となり、ATB には両方が記載されます。前払家賃だけを書いて支払家賃をそのままにしたり、逆に支払家賃だけを直して前払家賃を書き落としたりしないでください。
月数計算・期間配分・決算整理仕訳そのものは C14-T07(経過勘定の決算整理) が扱います。ここでは確定した金額を残高へ反映することに集中します。
15.商品棚卸関係の反映
三分法では、決算整理で次の2本の仕訳を行います。
(借)仕入 /(貸)繰越商品 …… 期首商品の振替 (借)繰越商品 /(貸)仕入 …… 期末商品の振替
その結果、
- 繰越商品の残高は、期末商品棚卸高に置き換わる
- 仕入の残高は、`整理前 + 期首商品 − 期末商品` になる(第9節の例)
となります。仕入勘定の決算整理後残高は当期の売上原価を表しますが、ATB では科目名は「仕入」のままです。損益計算書で「売上原価」と表示するのは C15-T02 の技能です。
なお、商品売買の決算整理方法は年度・問題条件によって異なります。「仕入勘定は必ず売上原価になる」「商品勘定を必ず使う」「繰越商品を両年度で必ず使う」といった一般化はしないでください。 その問題で採用されている方式と、使用勘定科目マスタの年度区分に従ってください。
16.消費税・法人税等の反映
消費税・法人税等の決算整理を行った場合も、その結果の残高を ATB へ反映します。
| 決算整理 | ATB に現れる主な勘定 |
|---|---|
| 消費税(税抜方式で、仮払消費税と仮受消費税を全額相殺し差額を未払消費税とする基本ケース) | 未払消費税(貸方)。この前提では仮払消費税・仮受消費税は決算整理で相殺される |
| 法人税等(年税額が仮払法人税等以上となり、差額を未払法人税等とする基本ケース) | 法人税、住民税及び事業税(借方)・未払法人税等(貸方)。この前提では仮払法人税等は決算整理で取り崩される |
税額の計算そのものは C14-T06(消費税の決算整理)・C14-T08(法人税等の決算整理) が扱います。ここでは確定した残高を載せることが中心です。どの科目がいくら残るかは、問題の条件に従って確認してください。
17.収益・費用も残る理由
ATB には、売上・仕入・支払家賃・減価償却費などの収益・費用が残っています。
「決算整理後だから収益・費用はもう消えている」と考えてはいけません。収益・費用を損益勘定へ振り替えて消すのは、帳簿締切(C15-T06) の処理であり、ATB より後の段階だからです。
同じ理由で、当期純利益を繰越利益剰余金へ加えるのも ATB の段階では行いません。ATB の繰越利益剰余金は、当期純損益を反映する前の残高です。
ATB に収益・費用が残っているからこそ、そこから損益計算書を作ることができます。
18.借方合計=貸方合計
最後に検算します。
借方残高の合計 = 貸方残高の合計
これが成り立つのは、決算整理仕訳そのものが借方合計=貸方合計になっているからです。整理前の試算表で貸借が一致しており、そこへ貸借の等しい仕訳を加えたのですから、整理後も一致します。
したがって検算は2段階で行えます。
| # | 確認 |
|---|---|
| 1 | すべての決算整理仕訳で、借方合計=貸方合計か |
| 2 | ATB で、借方残高合計=貸方残高合計か |
なお、決算整理によって合計額そのものは変わることがあります。たとえば減価償却では、借方に減価償却費、貸方に累計額が増えるため、合計は当期の減価償却費の分だけ増えます。一方、商品棚卸のように、借方残高科目どうしの振替が中心となる場合は、試算表の合計が変わらないこともあります。
19.貸借一致だけでは十分でない理由
貸借が一致していても、個別の科目が正しいとは限りません。
たとえば、同じ金額を誤って別の科目へ入れても、借方合計と貸方合計はどちらも変わらないため一致してしまいます。
したがって、確認は次の順で行ってください。
手順1 決算整理仕訳が正しいか 手順2 その仕訳を科目ごとに反映できているか 手順3 各科目の残高が正しい側にあるか 手順4 ATB の借方合計=貸方合計か
合計から先に見ると、科目の取り違えを見落とします。
20.ATBからP/L・B/Sへ進む流れ
ATB が完成したら、各勘定を2つに振り分けます。
| 5要素 | 進む先 |
|---|---|
| 収益・費用 | 損益計算書(C15-T02) |
| 資産・負債・純資産 | 貸借対照表(C15-T03) |
このとき、表示科目への読み替えが必要なものがあります。
| 帳簿の勘定科目(ATB) | 財務諸表の表示 |
|---|---|
| 繰越商品 | 商品(B/S) |
| 仕入 | 売上原価(P/L) |
| 売上 | 売上高(P/L) |
| 前払家賃 など | 前払費用(B/S) |
読み替えるのは財務諸表を作るときであって、ATB の段階ではありません。 ATB は帳簿の勘定科目のまま並べます。
決算整理から財務諸表までを一気に仕上げる総合的な流れは C15-T04 が、本試験形式の決算整理後残高試算表の問題は E-T12(第3問C) が扱います。
21.C15-T06 帳簿締切との違い
改めて整理します。
| ATB(本ページ) | 帳簿締切(C15-T06) | |
|---|---|---|
| 何をするか | 決算整理後の残高を一覧にする | 収益・費用を損益勘定へ振り替える |
| 収益・費用 | 残っている | ゼロになる |
| 当期純損益 | 表には現れない(収益と費用の差として潜在) | 損益勘定で確定し、繰越利益剰余金へ振り替える |
| 繰越利益剰余金 | 反映前の残高 | 反映後の残高 |
`(借)売上 /(貸)損益` や `(借)損益 /(貸)繰越利益剰余金` といった振替仕訳は C15-T06 の技能です。本ページでは扱いません。
22.まとめ
- ATB は、決算整理をすべて反映したあと、損益振替を行う前の残高一覧である。
- 決算整理前の試算表とは中身が違うが、どちらも貸借は一致する。一致だけでは前後を見分けられない。
- 反映は仕訳単位ではなく科目単位。1つの科目に複数の決算整理が入ることがある。
- 決算整理で新しく生じる勘定(減価償却費・経過勘定・貸倒引当金繰入など)を書き落とさない。
- 貸倒引当金・備品減価償却累計額は貸方残高。 ATB では帳簿勘定として独立して並べる。
- 収益・費用は ATB に残っている。 消えるのは帳簿締切(C15-T06)の段階。
- 繰越利益剰余金は当期純損益を反映する前の残高である。
- 検算は「決算整理仕訳の貸借」と「ATB の貸借」の2段階。ただし一致だけでは個別科目の正しさは保証されない。
- 表示科目への読み替えは財務諸表を作るときであり、ATB は帳簿の勘定科目のまま。
- 試算表の基本は C13-T01、精算表は C15-T01、P/L は C15-T02、B/S は C15-T03、財務諸表作成の総合は C15-T04、帳簿締切は C15-T06、本試験形式は E-T12 が扱う。

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