貸倒引当金の決算整理

① この単元の位置づけ

C06-T02(貸倒引当金の設定と差額補充法)では、次のことを学びました。

  • 貸倒引当金は、将来の貸倒れに備えて決算で見積もる資産の控除項目であること
  • 必要な貸倒引当金残高 = 期末の対象債権残高 × 設定率
  • 差額補充法では、必要残高と決算整理前残高の差額だけを調整すること
  • 不足なら追加繰入、多すぎるなら戻入

このページでは、その考え方を決算資料へ実際に適用するところを扱います。

決算問題では、金額が「貸倒引当金を ¥○○ 追加設定する」と親切に書かれているとは限りません。決算整理前残高試算表と決算整理事項を読み、自分で対象を選び、自分で調整額を出すことになります。その手順を確認していきます。


② 決算整理で確認する4つの数値

貸倒引当金の決算整理では、資料から次の4つを拾い出します。

# 拾うもの どこにあるか
:-:
1 設定の対象となる債権はどれか 決算整理事項の指示(指示がなければ本教材の原則)
2 対象債権の残高 決算整理前残高試算表(本単元では、他の未処理事項による残高修正がない基本形を扱う)
3 設定率 決算整理事項
4 貸倒引当金の決算整理前残高 決算整理前残高試算表

この4つがそろえば、あとは計算へ進めます。どれか1つでも取り違えると、答えは合いません。

本単元では、決算整理前残高試算表に示された対象債権残高について、別の未処理事項による修正がない基本形を扱います。 未記帳の回収などを先に反映して債権残高を修正する総合問題は、別の総合問題領域で扱います。


③ 設定対象を確認する

貸倒引当金は、どの債権にでも設定するわけではありません

本教材で扱う3級の基本形では、設定の対象は原則として次の債権です。

売掛金・電子記録債権(商品売買から生じた債権)

一方、本教材で扱う3級の基本形では、未収入金をこの設定対象に含めません。未収入金は、固定資産の売却など商品売買以外の取引から生じる債権として、売掛金・電子記録債権と区別して扱います。

これは本教材の3級問題で用いる基本形を示したもので、会計一般について「未収入金には貸倒れの見積りを行わない」と一般化する趣旨ではありません。問題文で対象債権が指定されている場合は、その指示を優先します。

科目 何から生じた債権か 設定対象(原則)
:-:
売掛金 商品を掛けで売った代金
電子記録債権 売掛金から振り替えた電子記録上の債権
未収入金 商品売買以外(固定資産の売却など)の代金 ×

ただし、問題文で対象債権が指定されている場合は、問題文の指示が最優先です。

「売掛金および電子記録債権の期末残高の合計に対して」と書いてあれば合計に掛け、「売掛金の期末残高に対して」と書いてあれば売掛金だけに掛けます。試算表に他の債権が並んでいても、指定されていない債権を自分で加えてはいけません


④ 必要残高を求める

対象が決まったら、期末残高を合計して設定率を掛けます。

必要な貸倒引当金残高 = 期末の対象債権残高 × 設定率

設例

決算整理前残高試算表(一部)

勘定科目 借方 貸方
売掛金 310,000
電子記録債権 840,000
未収入金 100,000
貸倒引当金 8,500

決算整理事項:売掛金および電子記録債権の期末残高の合計に対して 2% の貸倒引当金を差額補充法により設定する。

対象は売掛金と電子記録債権です。未収入金 ¥100,000 は含めません。

対象債権の合計 = 310,000 + 840,000 = ¥1,150,000 必要残高 = 1,150,000 × 2% = ¥23,000


⑤ 決算整理前残高と比較する

次に、試算表の貸倒引当金の残高を見ます。これが決算整理前残高です。

設例では ¥8,500(貸方)です。

必要残高 ¥23,000 > 決算整理前残高 ¥8,500

必要な金額に対して足りていないことが分かります。

この比較を飛ばして必要残高をそのまま仕訳に書くと、引当金が積み上がりすぎます。 必ず比較してから調整額を決めます。


⑥ 不足しているとき ── 追加繰入

必要残高のほうが大きいときは、差額だけを繰り入れます

追加繰入額 = 必要残高 − 決算整理前残高 23,000 − 8,500 = ¥14,500

借方科目 金額 貸方科目 金額
貸倒引当金繰入 14,500 貸倒引当金 14,500

貸倒引当金繰入は費用(損益計算書の販売費及び一般管理費)、貸倒引当金は資産の控除項目です。


⑦ 多すぎるとき ── 戻入

反対に、必要残高のほうが小さいときは、差額だけを戻し入れます

戻入額 = 決算整理前残高 − 必要残高

借方科目 金額 貸方科目 金額
貸倒引当金 ××× 貸倒引当金戻入 ×××

貸倒引当金戻入は収益です。追加繰入とは借方・貸方がちょうど逆になります。

比較の結果 調整 借方 貸方
必要残高 決算整理前残高 追加繰入 貸倒引当金繰入(費用) 貸倒引当金
必要残高 決算整理前残高 戻入 貸倒引当金 貸倒引当金戻入(収益)
必要残高 決算整理前残高 調整額 0(仕訳なし)

⑧ 調整後残高で検算する

決算整理仕訳を書いたら、貸倒引当金の残高が必要残高にそろっているかを確かめます。

決算整理前残高 + 追加繰入額 = 必要残高 8,500 + 14,500 = ¥23,000

戻入の場合も同じです。

決算整理前残高 − 戻入額 = 必要残高

ここが合わなければ、どこかで必要残高と調整額を取り違えています。


⑨ 決算整理の流れ(まとめ)

手順 やること 設例
:-:
1 設定対象の債権を確認する 売掛金・電子記録債権(未収入金は含めない)
2 試算表から対象債権の期末残高を拾う 310,000 + 840,000 = 1,150,000
3 設定率を掛けて必要残高を求める 1,150,000 × 2% = 23,000
4 試算表から決算整理前残高を拾う 8,500
5 比較して不足か過大かを判定する 23,000 > 8,500 → 不足
6 調整額を求める 23,000 − 8,500 = 14,500
7 決算整理仕訳を書く 貸倒引当金繰入 14,500/貸倒引当金 14,500
8 調整後残高で検算する 8,500 + 14,500 = 23,000 ✓

取り違えに注意:手順3の必要残高(あるべき残高)と、手順6の調整額(今回動かす金額)は別の金額です。仕訳に書くのは調整額のほうです。


⑩ 実際の貸倒れとの境界

この単元で扱うのは、決算日にまだ貸し倒れていない債権について、将来の貸倒れを見積もる処理です。

場面 扱う単元
特定の売掛金が実際に回収不能になった C06-T01(貸倒れと貸倒損失)
前期以前に発生した債権の貸倒れ(貸倒引当金の取崩し) C06-T01
貸倒引当金では足りない部分の貸倒損失 C06-T01
前期以前に貸倒処理した債権を当期に回収した C06-T03(償却債権取立益)
決算日の見積り・必要残高の算定・差額補充法 C06-T02 と本単元
貸倒れ・引当金・回収を横断する総合問題 C06-CH

設定するだけの決算整理では、売掛金そのものを直接減額しません。 減らすのは、実際に貸し倒れたときです。


⑪ 精算表・財務諸表への接続

決算整理仕訳を書いたあとは、次の手続きへつながります。

つながる先 何を扱うか
C15-T01(精算表) 決算整理仕訳を修正記入欄へ反映し、試算表欄の残高と区別しながら損益計算書欄・貸借対照表欄へ振り分ける
C15-T02・C15-T03(損益計算書・貸借対照表) 貸倒引当金繰入(販売費及び一般管理費)・貸倒引当金戻入(営業外収益)を損益計算書に、貸倒引当金を売掛金等から控除する形で貸借対照表に表示する

この単元では、決算整理仕訳と、その金額を決めるまでの判断を扱います。精算表の完成や財務諸表の作成そのものは、それぞれの単元で学びます。


⑫ まとめ

確かめたい5つの点

  1. 本教材で扱う3級の基本形では、設定対象を売掛金・電子記録債権として扱い、未収入金は含めない。問題文で対象債権が指定されている場合は、その指定を最優先する。
  2. 必要残高 = 対象債権の期末残高 × 設定率
  3. 試算表の貸倒引当金残高=決算整理前残高。必ず必要残高と比較する。
  4. 仕訳に書くのは調整額(差額)であって、必要残高ではない。
  5. 調整後残高 = 必要残高になるかを検算する。


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