貸倒引当金の決算整理
テキスト日商簿記3級『貸倒引当金の決算整理』を基礎から学べる解説ページです。仕訳や計算で必要となる考え方を、初学者向けに整理しています。
2026.08.28
① この単元の位置づけ
C06-T02(貸倒引当金の設定と差額補充法)では、次のことを学びました。
- 貸倒引当金は、将来の貸倒れに備えて決算で見積もる資産の控除項目であること
- 必要な貸倒引当金残高 = 期末の対象債権残高 × 設定率
- 差額補充法では、必要残高と決算整理前残高の差額だけを調整すること
- 不足なら追加繰入、多すぎるなら戻入
このページでは、その考え方を決算資料へ実際に適用するところを扱います。
決算問題では、金額が「貸倒引当金を ¥○○ 追加設定する」と親切に書かれているとは限りません。決算整理前残高試算表と決算整理事項を読み、自分で対象を選び、自分で調整額を出すことになります。その手順を確認していきます。
② 決算整理で確認する4つの数値
貸倒引当金の決算整理では、資料から次の4つを拾い出します。
| # |
拾うもの |
どこにあるか |
| :-: |
— |
— |
| 1 |
設定の対象となる債権はどれか |
決算整理事項の指示(指示がなければ本教材の原則) |
| 2 |
対象債権の残高 |
決算整理前残高試算表(本単元では、他の未処理事項による残高修正がない基本形を扱う) |
| 3 |
設定率 |
決算整理事項 |
| 4 |
貸倒引当金の決算整理前残高 |
決算整理前残高試算表 |
この4つがそろえば、あとは計算へ進めます。どれか1つでも取り違えると、答えは合いません。
本単元では、決算整理前残高試算表に示された対象債権残高について、別の未処理事項による修正がない基本形を扱います。 未記帳の回収などを先に反映して債権残高を修正する総合問題は、別の総合問題領域で扱います。
③ 設定対象を確認する
貸倒引当金は、どの債権にでも設定するわけではありません。
本教材で扱う3級の基本形では、設定の対象は原則として次の債権です。
売掛金・電子記録債権(商品売買から生じた債権)
一方、本教材で扱う3級の基本形では、未収入金をこの設定対象に含めません。未収入金は、固定資産の売却など商品売買以外の取引から生じる債権として、売掛金・電子記録債権と区別して扱います。
これは本教材の3級問題で用いる基本形を示したもので、会計一般について「未収入金には貸倒れの見積りを行わない」と一般化する趣旨ではありません。問題文で対象債権が指定されている場合は、その指示を優先します。
| 科目 |
何から生じた債権か |
設定対象(原則) |
| — |
— |
:-: |
| 売掛金 |
商品を掛けで売った代金 |
○ |
| 電子記録債権 |
売掛金から振り替えた電子記録上の債権 |
○ |
| 未収入金 |
商品売買以外(固定資産の売却など)の代金 |
× |
ただし、問題文で対象債権が指定されている場合は、問題文の指示が最優先です。
「売掛金および電子記録債権の期末残高の合計に対して」と書いてあれば合計に掛け、「売掛金の期末残高に対して」と書いてあれば売掛金だけに掛けます。試算表に他の債権が並んでいても、指定されていない債権を自分で加えてはいけません。
④ 必要残高を求める
対象が決まったら、期末残高を合計して設定率を掛けます。
必要な貸倒引当金残高 = 期末の対象債権残高 × 設定率
設例
決算整理前残高試算表(一部)
| 勘定科目 |
借方 |
貸方 |
| 売掛金 |
310,000 |
|
| 電子記録債権 |
840,000 |
|
| 未収入金 |
100,000 |
|
| 貸倒引当金 |
|
8,500 |
決算整理事項:売掛金および電子記録債権の期末残高の合計に対して 2% の貸倒引当金を差額補充法により設定する。
対象は売掛金と電子記録債権です。未収入金 ¥100,000 は含めません。
対象債権の合計 = 310,000 + 840,000 = ¥1,150,000 必要残高 = 1,150,000 × 2% = ¥23,000
⑤ 決算整理前残高と比較する
次に、試算表の貸倒引当金の残高を見ます。これが決算整理前残高です。
設例では ¥8,500(貸方)です。
必要残高 ¥23,000 > 決算整理前残高 ¥8,500
必要な金額に対して足りていないことが分かります。
この比較を飛ばして必要残高をそのまま仕訳に書くと、引当金が積み上がりすぎます。 必ず比較してから調整額を決めます。
⑥ 不足しているとき ── 追加繰入
必要残高のほうが大きいときは、差額だけを繰り入れます。
追加繰入額 = 必要残高 − 決算整理前残高 23,000 − 8,500 = ¥14,500
| 借方科目 |
金額 |
貸方科目 |
金額 |
| 貸倒引当金繰入 |
14,500 |
貸倒引当金 |
14,500 |
貸倒引当金繰入は費用(損益計算書の販売費及び一般管理費)、貸倒引当金は資産の控除項目です。
⑦ 多すぎるとき ── 戻入
反対に、必要残高のほうが小さいときは、差額だけを戻し入れます。
戻入額 = 決算整理前残高 − 必要残高
| 借方科目 |
金額 |
貸方科目 |
金額 |
| 貸倒引当金 |
××× |
貸倒引当金戻入 |
××× |
貸倒引当金戻入は収益です。追加繰入とは借方・貸方がちょうど逆になります。
| 比較の結果 |
調整 |
借方 |
貸方 |
| 必要残高 > 決算整理前残高 |
追加繰入 |
貸倒引当金繰入(費用) |
貸倒引当金 |
| 必要残高 < 決算整理前残高 |
戻入 |
貸倒引当金 |
貸倒引当金戻入(収益) |
| 必要残高 = 決算整理前残高 |
調整額 0(仕訳なし) |
- |
- |
⑧ 調整後残高で検算する
決算整理仕訳を書いたら、貸倒引当金の残高が必要残高にそろっているかを確かめます。
決算整理前残高 + 追加繰入額 = 必要残高 8,500 + 14,500 = ¥23,000 ✓
戻入の場合も同じです。
決算整理前残高 − 戻入額 = 必要残高
ここが合わなければ、どこかで必要残高と調整額を取り違えています。
⑨ 決算整理の流れ(まとめ)
| 手順 |
やること |
設例 |
| :-: |
— |
— |
| 1 |
設定対象の債権を確認する |
売掛金・電子記録債権(未収入金は含めない) |
| 2 |
試算表から対象債権の期末残高を拾う |
310,000 + 840,000 = 1,150,000 |
| 3 |
設定率を掛けて必要残高を求める |
1,150,000 × 2% = 23,000 |
| 4 |
試算表から決算整理前残高を拾う |
8,500 |
| 5 |
比較して不足か過大かを判定する |
23,000 > 8,500 → 不足 |
| 6 |
調整額を求める |
23,000 − 8,500 = 14,500 |
| 7 |
決算整理仕訳を書く |
貸倒引当金繰入 14,500/貸倒引当金 14,500 |
| 8 |
調整後残高で検算する |
8,500 + 14,500 = 23,000 ✓ |
取り違えに注意:手順3の必要残高(あるべき残高)と、手順6の調整額(今回動かす金額)は別の金額です。仕訳に書くのは調整額のほうです。
⑩ 実際の貸倒れとの境界
この単元で扱うのは、決算日にまだ貸し倒れていない債権について、将来の貸倒れを見積もる処理です。
| 場面 |
扱う単元 |
| 特定の売掛金が実際に回収不能になった |
C06-T01(貸倒れと貸倒損失) |
| 前期以前に発生した債権の貸倒れ(貸倒引当金の取崩し) |
C06-T01 |
| 貸倒引当金では足りない部分の貸倒損失 |
C06-T01 |
| 前期以前に貸倒処理した債権を当期に回収した |
C06-T03(償却債権取立益) |
| 決算日の見積り・必要残高の算定・差額補充法 |
C06-T02 と本単元 |
| 貸倒れ・引当金・回収を横断する総合問題 |
C06-CH |
設定するだけの決算整理では、売掛金そのものを直接減額しません。 減らすのは、実際に貸し倒れたときです。
⑪ 精算表・財務諸表への接続
決算整理仕訳を書いたあとは、次の手続きへつながります。
| つながる先 |
何を扱うか |
| C15-T01(精算表) |
決算整理仕訳を修正記入欄へ反映し、試算表欄の残高と区別しながら損益計算書欄・貸借対照表欄へ振り分ける |
| C15-T02・C15-T03(損益計算書・貸借対照表) |
貸倒引当金繰入(販売費及び一般管理費)・貸倒引当金戻入(営業外収益)を損益計算書に、貸倒引当金を売掛金等から控除する形で貸借対照表に表示する |
この単元では、決算整理仕訳と、その金額を決めるまでの判断を扱います。精算表の完成や財務諸表の作成そのものは、それぞれの単元で学びます。
⑫ まとめ
確かめたい5つの点
- 本教材で扱う3級の基本形では、設定対象を売掛金・電子記録債権として扱い、未収入金は含めない。問題文で対象債権が指定されている場合は、その指定を最優先する。
- 必要残高 = 対象債権の期末残高 × 設定率。
- 試算表の貸倒引当金残高=決算整理前残高。必ず必要残高と比較する。
- 仕訳に書くのは調整額(差額)であって、必要残高ではない。
- 調整後残高 = 必要残高になるかを検算する。
コメント