商品棚卸と売上原価の決算整理

① このページで学ぶこと

  • 三分法の決算で、なぜ商品の調整が必要になるのか
  • 1本目:期首商品を仕入へ振り替える
  • 2本目:期末商品を繰越商品へ振り替える
  • この2本を通すと、なぜ売上原価が確定するのか
  • 決算整理後の仕入残高繰越商品残高が何を表すか
  • 決算整理前残高試算表から、期首商品の金額を読み取る

売上原価の意味や公式そのものは C03-T06(売上原価と売上総利益) で学びました。このページでは、その公式を実際の決算整理仕訳として実行するところを扱います。


② 三分法と仕入勘定 ── なぜ決算で調整するのか

三分法では、商品を仕入れたときに次のように処理します。

(借)仕入 / (貸)現金・買掛金など

つまり、期中は「買ったものを仕入に積み上げていく」だけです。

しかし、期中に仕入れた商品がすべて当期に売れるとは限りません。そこで決算では、前期から繰り越された期首商品をいったん当期の販売可能商品原価へ加えたうえで、決算日に残っている期末商品を当期の売上原価から除き、資産として翌期へ繰り越します。

そこで決算で、仕入勘定の金額を売上原価に対応する金額へ調整する手続きを行います。これが商品棚卸の決算整理です。

期中の仕入残高を、そのまま売上原価として扱うわけではありません。 この点は C03-T06 でも確認したとおりです。


③ 期首商品と期末商品

この単元では、2つの「商品」を最後まで区別し続けます。

意味 決算整理での役割
期首商品 前期末から繰り越され、当期首に存在していた商品 当期の売上原価計算へ加える
期末商品 決算日にまだ売れ残っている商品 当期の売上原価から除く

どちらも帳簿上は 繰越商品(資産) という同じ勘定を使います。だからこそ、いま扱っているのが期首なのか期末なのかを、常に意識する必要があります。

時点 繰越商品勘定の残高
決算整理 期首商品の金額(期中は動かさないため)
決算整理 期末商品の金額

④ 1本目:期首商品の振替

(借)仕入 / (貸)繰越商品

設例:期首商品は ¥65,000 である。

借方科目 金額 貸方科目 金額
仕入 65,000 繰越商品 65,000

なぜこの向きなのか

  • 借方:仕入……前期から繰り越された期首商品は、当期の販売可能商品原価へいったん全額を加えるため、仕入を増やします。期末に残った商品は2本目で売上原価から除きます。
  • 貸方:繰越商品……その商品はもう「期首時点の在庫」ではなくなるので、資産の繰越商品を減らします

売上原価の式でいえば、「期首商品を足す」の部分に対応します。


⑤ 2本目:期末商品の振替

(借)繰越商品 / (貸)仕入

設例:決算日に実地棚卸を行ったところ、期末商品は ¥85,000 であった。

借方科目 金額 貸方科目 金額
繰越商品 85,000 仕入 85,000

なぜこの向きなのか

  • 借方:繰越商品……決算日にまだ売れていない商品は、翌期に売るための財産です。資産として計上し、翌期へ繰り越します。
  • 貸方:仕入……その分は当期に売れていないので、当期の売上原価から除きます

売上原価の式でいえば、「期末商品を引く」の部分に対応します。


⑥ 2本を一連で見る ──「しー・くり・くり・しー」

2本を並べると、次のようになります。

借方科目 金額 貸方科目 金額
1本目 65,000 越商品 65,000
2本目 越商品 85,000 85,000

借方・貸方の科目を上から拾うと「仕・繰/繰・仕」となるので、「しー・くり・くり・しー」という語呂で覚えられます。

ただし、語呂だけで終わらせないでください。 大事なのは、それぞれが何をしているかです。

仕訳 していること
1本目 仕入/繰越商品 期首商品を売上原価計算へ加える
2本目 繰越商品/仕入 期末商品を売上原価から除く

取り違えに注意:1本目に入るのは期首の ¥65,000、2本目に入るのは期末の ¥85,000 です。金額を入れ替えてしまうと、売上原価が反対方向にずれます。


⑦ 売上原価が確定する仕組み

売上原価の式は次のとおりでした(C03-T06)。

売上原価 = 期首商品 + 当期仕入 − 期末商品

設例で、当期仕入が ¥430,000 だったとします。

65,000 + 430,000 − 85,000 = ¥410,000

この計算を、2本の仕訳が仕入勘定の中で実行しています。

仕入勘定 金額
決算整理前の残高(当期仕入) 430,000
+ 1本目(期首商品を加える) + 65,000
− 2本目(期末商品を除く) − 85,000
決算整理後の残高 410,000

式で求めた売上原価と、決算整理後の仕入残高が同じ ¥410,000 になりました。

式と仕訳は、同じ計算を別の言い方でしているだけです。 迷ったときは、両方から同じ数字に着地するかを確かめてください。


⑧ 決算整理後の仕入残高

決算整理後の仕入勘定の残高は、

当期仕入 + 期首商品 − 期末商品

となり、この単元で扱う基本形(三分法で売上原価を仕入勘定で算定する方法)では、当期の売上原価を表します。

損益計算書では、この金額が売上原価として表示されます。

注意したい点:これは決算整理を行った後の残高です。決算整理の仕入残高は当期仕入を表しているだけで、そのままでは売上原価になりません。


⑨ 決算整理後の繰越商品残高

決算整理後の繰越商品勘定の残高は、期末商品の金額になります。

設例で追いかけると、次のとおりです。

繰越商品勘定 金額
決算整理前の残高(期首商品) 65,000
− 1本目(期首商品を仕入へ振替) − 65,000
+ 2本目(期末商品を計上) + 85,000
決算整理後の残高 85,000

期首商品がいったんゼロになり、そこへ期末商品が入る——これが2本の振替の正味の効果です。

この ¥85,000 は資産として翌期へ繰り越され、貸借対照表では 商品という表示名で流動資産に載ります。


⑩ 決算整理前残高試算表の読み取り

問題では、期首商品の金額が「期首商品は ¥○○」と直接書かれるとは限りません。決算整理前残高試算表の繰越商品の残高として与えられることがあります。

決算整理前残高試算表の繰越商品残高 = 期首商品

繰越商品勘定は期中には動かさない(仕入れも売上げも仕入勘定・売上勘定で処理する)ため、決算整理前の残高は前期末から繰り越されたまま、つまり期首商品の金額なのです。

一方、期末商品の金額は試算表には載りません。決算日の実地棚卸によって判明するので、決算整理事項として別に与えられます。

与えられ方 何の金額か
決算整理前残高試算表の繰越商品 期首商品
決算整理事項の「期末商品棚卸高」 期末商品

取り違えに注意:この2つを入れ替えると、2本の仕訳の金額が逆になります。

なお、この単元の基本問題で期末商品棚卸高が与えられ、ほかの棚卸調整条件がない場合は、その金額を用います。棚卸減耗や評価替といった別論点は、本教材の3級におけるこの単元では扱いません。


⑪ C03-T06 との役割分担

C03-T06(売上原価と売上総利益) C14-T02(この単元)
中心 売上原価の意味と公式、売上総利益 決算整理仕訳としての実行
扱うこと 売上原価 = 期首商品 + 当期仕入 − 期末商品/売上総利益 = 売上高 − 売上原価 期首商品の振替/期末商品の振替/決算整理後の残高/試算表からの読み取り

売上総利益(売上高 − 売上原価)は C03-T06 の中心技能です。この単元では、売上原価が確定するところまでを扱います。


⑫ 精算表・財務諸表への接続

商品棚卸の決算整理は、その後の手続きへつながっていきます。

つながる先 何を扱うか
C15-T01(精算表) 決算整理仕訳を修正記入欄へ反映し、試算表欄の残高と区別しながら損益計算書欄・貸借対照表欄へ振り分ける
C15-T02・C15-T03(損益計算書・貸借対照表) 決算整理後の仕入残高を売上原価として、繰越商品残高を商品として財務諸表に表示する

この単元では、決算整理仕訳とその意味までを扱います。精算表の完成や財務諸表の作成そのものは、それぞれの単元で学びます。


⑬ まとめ

1本目 2本目
仕訳 仕入 / 繰越商品 繰越商品 / 仕入
使う金額 期首商品 期末商品
していること 売上原価計算へ加える 売上原価から除く
金額の出どころ 決算整理前残高試算表の繰越商品 決算整理事項(期末商品棚卸高)

確かめたい4つの点

  1. 決算整理の繰越商品残高は期首商品、決算整理期末商品
  2. 1本目は期首を加え、2本目は期末を除く。向きが逆になる。
  3. 決算整理の仕入残高が、この基本形では売上原価を表す。
  4. 式(期首+当期仕入−期末)と仕訳は、同じ計算をしている。


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