この単元で身につけること
この単元では、所得税における代表的な所得控除について、種類・要件・金額を整理し、次の状態に到達することを目標とします。
- 所得控除が課税所得金額の計算前に所得から差し引かれるものであることを説明できる。
- 雑損控除・医療費控除・寄附金控除の基本式を使い、控除額を計算できる。
- 社会保険料控除と小規模企業共済等掛金控除の対象の違い(国民年金基金の掛金と個人型確定拠出年金の加入者掛金)を区別できる。
- 生命保険料控除の区分と2026年分の上限額、地震保険料控除の上限額を答えられる。
- 配偶者控除・配偶者特別控除・特定親族特別控除・扶養控除・基礎控除など人的控除の所得要件と金額(2025年度改正後)を判断できる。
なお、本単元の金額・要件はすべて法令基準日2026-04-01時点の現行制度によります。同日より後に施行される改正は反映していません。
全体像
所得税は、1年間の所得金額そのものに税率を掛けるのではなく、所得金額から所得控除を差し引いた後の課税所得金額に税率を適用して計算します。所得控除は、納税者ごとの個人的な事情(家族構成、医療費の支出、災害による損失、保険料の負担など)を税負担に反映させるための仕組みです。
所得控除は大きく分けて、支出や損失に着目する物的控除(雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄附金控除など)と、人的事情に着目する人的控除(基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除、特定親族特別控除、扶養控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除)に分類できます。
2025年度税制改正により、基礎控除の金額体系や、配偶者・扶養親族などの所得要件(58万円)が改められました。FP3級では改正後の数字で問われますので、本単元では2026-04-01基準の現行値のみを扱います。
用語の説明
所得控除:課税所得金額を計算する前に、所得金額から差し引く控除。算出された税額から差し引く税額控除とは異なります。
合計所得金額:各種所得の金額を合計した金額。配偶者控除や扶養控除の所得要件はこの金額で判定します。
総所得金額等:医療費控除の足切り額や寄附金控除の上限判定などで使う所得の指標です。
控除対象配偶者:納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下で、生計を一にする配偶者の合計所得金額が58万円以下の場合のその配偶者。
扶養親族:納税者と生計を一にする配偶者以外の親族等で、合計所得金額が58万円以下の人。配偶者は扶養親族に含まれない点に注意してください。
特定扶養親族:扶養親族のうち、その年12月31日時点で19歳以上23歳未満の人。
特定親族:19歳以上23歳未満で合計所得金額が58万円超123万円以下の一定の親族。特定親族特別控除の対象です。
同居老親等:70歳以上の老人扶養親族のうち、納税者またはその配偶者の直系尊属で同居している人。
基本ルール
主な所得控除のルールを整理します。
雑損控除:災害・盗難・横領により生活用資産等に損害を受けた場合の控除です。次の2つの式で計算した額のうち、大きい方の額を控除します。 ・式1:(損害金額+災害等関連支出-保険金等)-総所得金額等×10% ・式2:(災害関連支出-保険金等)-5万円
医療費控除(通常):本人や生計を一にする親族のために支払った医療費が対象です。 ・控除額=支払医療費-保険金等の補填額-足切り額 ・足切り額は10万円。ただし総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等×5%。 ・控除上限は200万円。
社会保険料控除:本人または生計を一にする親族等の負担すべき一定の社会保険料を支払った場合、原則としてその支払額の全額を控除します。国民年金基金の掛金は社会保険料控除の対象です。
小規模企業共済等掛金控除:個人型確定拠出年金の加入者掛金は、この控除の対象となり、支払額の全額を控除します。国民年金基金の掛金とは控除区分が異なる点が重要です。
生命保険料控除:新契約は一般生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の3区分です。所得税では各区分の控除上限は原則4万円ですが、2026年分・2027年分に限り、一定の23歳未満の扶養親族がいる場合の一般生命保険料控除の上限は6万円となる特例があります。この特例が適用されても、生命保険料控除全体の合計上限は12万円のまま変わりません。
地震保険料控除:所得税における控除上限は5万円です。
寄附金控除:特定寄附金を支出した場合の控除です。 ・控除額=(特定寄附金の合計額と総所得金額等×40%相当額のいずれか低い額)-2,000円
配偶者控除:配偶者の合計所得金額が58万円以下、かつ納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下の場合に適用されます。本人の合計所得金額が900万円以下のときの一般の控除対象配偶者の控除額は38万円です。
配偶者特別控除:配偶者の合計所得金額が58万円超133万円以下の場合に、本人の所得等に応じた額を控除します(本人の合計所得金額1,000万円以下等の要件があります)。
特定親族特別控除:19歳以上23歳未満で合計所得金額が58万円超123万円以下の特定親族がいる場合の控除で、最大63万円です(最大額は特定親族の合計所得金額58万円超85万円以下の帯で適用)。
扶養控除:合計所得金額58万円以下の扶養親族のうち16歳以上の人(控除対象扶養親族)が対象です。一般38万円、特定扶養親族(19歳以上23歳未満)63万円、老人扶養親族(70歳以上)48万円、同居老親等58万円。
障害者控除・寡婦控除・ひとり親控除・勤労学生控除:それぞれ、一般の障害者27万円・特別障害者40万円・同居特別障害者75万円、寡婦27万円、ひとり親35万円、勤労学生27万円です。勤労学生控除には本人の合計所得金額85万円以下(ほかに給与所得等以外の所得要件等あり)という要件があります。
基礎控除:納税者本人の合計所得金額に応じて金額が変わります。令和7年分・令和8年分(2026-04-01基準)では、合計所得金額132万円以下の人の基礎控除は95万円です。
重要な数字
本単元の重要数字を一覧にします(すべて2026-04-01基準)。
・医療費控除の足切り:10万円(総所得金額等200万円未満は総所得金額等×5%)/上限200万円 ・雑損控除式2の差引額:5万円 ・寄附金控除:総所得金額等×40%が上限判定/足切り2,000円 ・生命保険料控除(新契約・所得税):各区分上限4万円/23歳未満扶養親族がいる場合の一般生命保険料控除の特例上限6万円(2026・2027年分)/合計上限12万円 ・地震保険料控除(所得税):上限5万円 ・配偶者控除:配偶者の合計所得金額58万円以下、本人1,000万円以下/本人900万円以下の一般控除額38万円 ・配偶者特別控除:配偶者の合計所得金額58万円超133万円以下 ・特定親族特別控除:19歳以上23歳未満、合計所得金額58万円超123万円以下、最大63万円 ・扶養親族の所得要件:合計所得金額58万円以下 ・扶養控除:一般38万円/特定扶養(19歳以上23歳未満)63万円/老人扶養(70歳以上)48万円/同居老親等58万円 ・障害者控除:一般27万円/特別40万円/同居特別75万円 ・寡婦控除27万円/ひとり親控除35万円/勤労学生控除27万円(本人の合計所得金額85万円以下等) ・基礎控除(令和7・8年分):合計所得金額132万円以下は95万円、132万円超336万円以下は88万円、336万円超489万円以下は68万円、489万円超655万円以下は63万円、655万円超2,350万円以下は58万円、2,350万円超2,400万円以下は48万円、2,400万円超2,450万円以下は32万円、2,450万円超2,500万円以下は16万円、2,500万円超は0円
具体例
会社員のAさん(合計所得金額600万円)の家族を例に、人的控除の適用を考えます。
・妻(合計所得金額45万円):合計所得金額58万円以下で本人も1,000万円以下なので、配偶者控除の対象です。妻は「扶養親族」には含まれないため、扶養控除の対象にはなりません。 ・長男20歳(大学生、合計所得金額0円):19歳以上23歳未満かつ合計所得金額58万円以下なので、特定扶養親族として扶養控除63万円の対象です。 ・仮に長男のアルバイト収入が増えて合計所得金額が58万円を超え123万円以下になった場合は、扶養控除の対象から外れますが、特定親族特別控除(最大63万円)の対象になり得ます。
このように、同じ家族でも所得金額や年齢によって適用される控除が変わります。
計算のしかた
代表的な計算例を確認します(数値は例示用です)。
例1:医療費控除 総所得金額等450万円のBさんが、1年間に医療費30万円を支払い、保険金等の補填額が5万円だった場合。
- 求めるもの:医療費控除額
- 式:支払医療費-補填額-足切り額
- 足切り額の判定:総所得金額等450万円は200万円以上なので10万円
- 計算:30万円-5万円-10万円=15万円
- 単位確認:円単位では150,000円
- 正解:医療費控除額は15万円(上限200万円の範囲内)
例2:雑損控除 総所得金額等300万円のCさんが災害で損害金額60万円(ほかに災害関連支出20万円)を受け、保険金等10万円を受け取った場合。
- 式1:(60万円+20万円-10万円)-300万円×10%=70万円-30万円=40万円
- 式2:(20万円-10万円)-5万円=5万円
- 大きい方を採用:40万円
- 正解:雑損控除額は40万円
例3:寄附金控除 総所得金額等250万円のDさんが特定寄附金3万円を支出した場合。
- 上限判定:250万円×40%=100万円と3万円の低い方=3万円
- 計算:3万円-2,000円=2万8,000円
- 正解:寄附金控除額は28,000円
よくある間違い
間違いやすい点を整理します。
- 所得控除と税額控除の混同:所得控除は課税所得金額を計算する前に所得から差し引くものであり、算出された税額から差し引くものではありません。
- 国民年金基金と個人型確定拠出年金の控除区分の混同:国民年金基金の掛金は社会保険料控除、個人型確定拠出年金の加入者掛金は小規模企業共済等掛金控除です。どちらも支払額全額が控除対象ですが、区分が異なります。
- 生命保険料控除の特例と合計上限の混同:2026・2027年分の一般生命保険料控除の特例上限6万円は「一定の23歳未満の扶養親族がいる場合の一般の区分」の話であり、合計上限12万円が引き上げられるわけではありません。
- 配偶者を扶養親族と誤解:配偶者は扶養親族に含まれません。配偶者には配偶者控除・配偶者特別控除が用意されています。
- 医療費控除の補填額の引き忘れ・足切りの引き忘れ:保険金等の補填額と足切り額の両方を差し引く必要があります。
- 扶養控除の区分誤り:同居老親等58万円と老人扶養親族48万円、特定扶養63万円と一般38万円の判定を年齢・同居等の条件から正しく行う必要があります。
- 旧数値との混同:配偶者・扶養親族の所得要件は2025年度改正後58万円です。改正前の数値と混同しないでください。
試験での出題のされ方
本単元に対応する過去問観測枠は、EX-D-005(所得控除の基本・学科)、EX-D-007(社会保険料・共済等の所得控除・学科)、EX-D-008(生命保険料・地震保険料・扶養等の控除・学科)、EX-D-012(実技:所得控除・退職所得等)です。いずれも分析期間2024-2026 CBT公表分で観測数3/3(頻度100%・頻度区分A)です。
EX-D-012は「所得控除・退職所得等」という広い実技出題枠であり、上記の頻度は枠全体としての観測値です。医療費控除や扶養控除といった個別のサブ論点がそれぞれ毎回出題されたという意味ではない点に注意してください。
また、本単元の一部の問題(雑損控除の計算、配偶者控除額、特定親族特別控除、障害者控除、寡婦・ひとり親・勤労学生控除、寄附金控除の計算、基礎控除の所得帯判断)は、過去問頻度を直接付与していない管理状態(UNVERIFIED)のQuestion_Slotに基づいています。これは当該論点への過去問頻度の付与を行っていないという管理上の状態であり、出題可能性の否定ではありません。学習上はいずれも基本論点として押さえてください。
学科では、控除の区分(どの掛金がどの控除か)、金額(上限額・控除額)、所得要件(58万円・1,000万円・132万円など)を問う出題が中心です。実技(資産設計提案業務)では、家族構成・収入資料から医療費控除額や扶養控除額を計算させる形式が代表的です。
まとめ
・所得控除は課税所得金額の計算前に所得から差し引く。税額控除との違いを明確に。 ・雑損控除は2式の大きい方。医療費控除は「支払医療費-補填額-足切り額」で上限200万円。 ・国民年金基金の掛金は社会保険料控除、個人型確定拠出年金の加入者掛金は小規模企業共済等掛金控除(いずれも全額)。 ・生命保険料控除は各区分4万円(2026・2027年分の一般の特例6万円)、合計上限12万円。地震保険料控除は5万円。 ・配偶者控除は配偶者の合計所得金額58万円以下かつ本人1,000万円以下。本人900万円以下なら38万円。 ・特定親族特別控除は19歳以上23歳未満・所得58万円超123万円以下・最大63万円。 ・扶養控除は一般38万円・特定63万円・老人48万円・同居老親等58万円。扶養親族の所得要件は58万円以下。 ・基礎控除は令和7・8年分では合計所得金額の所得帯に応じて変動し、132万円以下なら95万円、489万円超655万円以下なら63万円などの区分がある。
練習のしかた
- 所得控除は、算出された所得税額から差し引くものである。○か×か。
- 国民年金基金の掛金は、どの所得控除の対象か。
- 2026年分の所得税において、一定の23歳未満の扶養親族がいる場合の一般生命保険料控除の上限額はいくらか。
- 19歳以上23歳未満の特定扶養親族に係る扶養控除の額はいくらか。
- 令和7年分・令和8年分の所得税において、合計所得金額132万円以下の人の基礎控除の額はいくらか。
(答え:1 ×(課税所得金額の計算前に所得から差し引く)/2 社会保険料控除/3 6万円/4 63万円/5 95万円)
FP2級へのつながり
FP2級では、配偶者特別控除の所得帯ごとの控除額、医療費控除の特例的な仕組み、寄附金控除と税額控除方式の選択など、各控除の計算がより詳細に問われます。FP3級の段階では、本単元の控除の区分・所得要件・代表的な金額を正確に押さえることが、FP2級学習の土台になります。
関連する問題
- FP技能士3級 タックスプランニング 一問一答 第11問〜第15問
- FP技能士3級 タックスプランニング 一問一答 第16問〜第20問
- FP技能士3級 タックスプランニング 択一式(初級) 第6問〜第10問
- FP技能士3級 タックスプランニング 択一式(初級) 第11問〜第15問
- FP技能士3級 タックスプランニング 択一式(初級) 第16問〜第20問
- FP技能士3級 タックスプランニング 計算問題 第6問〜第9問
- FP技能士3級 タックスプランニング 実技・事例問題 第6問〜第10問

コメント