この単元で身につけること
不動産以外の相続財産の評価について、次の状態を目標とします。
- 相続・贈与財産が原則として課税時期の時価で評価されることを説明できる。
- 預貯金の評価額を計算できる。
- 上場株式の評価において4つの候補価額があることを説明できる。
- 4つの候補価額から最も低い価額を選び、評価額を計算できる。
- 取引相場のない株式について、会社規模別の原則的な評価方式を区別できる。
- 公社債・投資信託等が課税時期の市場価額等を基礎に評価されることを判断できる。
- 生命保険契約に関する権利の評価方法と、解約返戻金がない場合の扱いを判断できる。
- 貸付金等も財産評価の対象となることを理解できる。
なお本単元は、取引相場のない株式の詳細な計算方法や、商品ごとの高度な評価手法には立ち入りません。
全体像
相続税・贈与税を計算するには、まず財産をいくらと評価するかを決める必要があります。現金であれば額面がそのまま評価額になりますが、株式や保険契約のように価額が一定でないものは、評価のルールが定められています。
評価の出発点は課税時期の時価です。課税時期とは相続の開始や贈与があった時点を指します。この原則のうえに、財産の種類ごとの具体的な評価方法が置かれています。
本単元で扱うのは不動産以外の財産です。預貯金、上場株式、取引相場のない株式、公社債・投資信託、生命保険契約に関する権利、貸付金等が対象になります。とくに上場株式の4つの候補価額と、生命保険契約に関する権利の評価は繰り返し問われる論点です。
用語の説明
課税時期:相続の開始や贈与があった時点です。財産評価の基準となります。
時価:その時点で成立すると認められる価額です。
既経過利子:課税時期までに発生している未収の利子です。
最終価格:その日の取引における最後の価格(終値)です。
取引相場のない株式:市場で取引価格が形成されていない株式です。
類似業種比準方式:類似する業種の上場会社の数値と比べて評価する方式です。
純資産価額方式:会社の純資産をもとに評価する方式です。
生命保険契約に関する権利:保険事故が発生していない生命保険契約について、契約者が有する権利です。
基本ルール
評価の原則
相続・贈与により取得した財産は、原則として課税時期における時価で評価します。財産の種類ごとの評価方法は、この原則を具体化したものです。
預貯金
預貯金の評価は次の算式によります。
評価額=預入高+既経過利子-既経過利子に係る源泉所得税相当額
利子を足したうえで、その利子にかかる源泉所得税相当額を差し引くという構造です。利子を足すだけで終わらないよう注意してください。
上場株式
上場株式は、次の4つの候補価額のうち最も低い価額を基本として評価します。
- 課税時期の最終価格(終値)
- 課税時期の属する月の毎日の最終価格の平均額(当月平均)
- 課税時期の属する月の前月の毎日の最終価格の平均額(前月平均)
- 課税時期の属する月の前々月の毎日の最終価格の平均額(前々月平均)
「終値・当月・前月・前々月」の4つを挙げ、その中で最も低いものを選ぶ、という手順です。最も高い価額ではない点に注意してください。評価額は、選んだ価額に株数を乗じて求めます。
取引相場のない株式
取引相場のない株式は、会社の規模に応じて原則的な評価方式が異なります。
| 会社規模 | 原則的な評価方式 |
|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式 |
| 中会社 | 類似業種比準価額と純資産価額の併用方式等 |
| 小会社 | 純資産価額方式 |
大会社は類似業種比準、小会社は純資産価額、中会社はその併用という対応で押さえてください。なお各方式の具体的な計算方法は本単元では扱いません。
公社債・投資信託等
公社債・投資信託等は、財産評価基本通達等に基づき、課税時期の市場価額・基準価額等を基礎に評価します。上場株式と同様に、課税時期を基準とする考え方が用いられます。
生命保険契約に関する権利
保険事故が発生していない生命保険契約に関する権利は、原則として課税時期に解約するとした場合の解約返戻金額で評価します。
また、解約返戻金がない契約の権利については、評価額は0円となります。
保険金が支払われる場面ではなく、まだ保険事故が起きていない契約についての評価である点を押さえてください。
貸付金等
貸付金等も、元本・利息・回収可能性等を踏まえて財産評価の対象となります。現金や有価証券だけが評価の対象ではありません。
重要な数字
本単元の要点は次のとおりです(2026-04-01基準)。
・評価の原則:課税時期における時価 ・預貯金:預入高+既経過利子-既経過利子に係る源泉所得税相当額 ・上場株式:課税時期の終値/当月平均/前月平均/前々月平均の4候補のうち最も低い価額 ・取引相場のない株式:大会社=類似業種比準方式/中会社=併用方式等/小会社=純資産価額方式 ・公社債・投資信託等:課税時期の市場価額・基準価額等を基礎 ・生命保険契約に関する権利:原則として解約返戻金額(解約返戻金がない場合は0円) ・貸付金等:元本・利息・回収可能性等を踏まえ評価の対象
具体例
財産の種類ごとに評価の考え方を整理します。
預貯金がある場合:預入高に既経過利子を加え、その利子にかかる源泉所得税相当額を差し引きます。
上場株式を保有している場合:課税時期の終値と、当月・前月・前々月の各平均額を並べ、最も低いものを選びます。相続人にとって有利になるよう、4つのうち最も低い価額を用いることができる仕組みです。
同族会社の株式を保有している場合:市場価格がないため、会社規模に応じた方式で評価します。大会社なら類似業種比準方式、小会社なら純資産価額方式が原則です。
保険契約者であった場合:被相続人が契約者で、まだ保険事故が発生していない契約があれば、その権利が評価の対象になります。原則として解約返戻金額で評価し、解約返戻金がない契約であれば0円となります。
他人にお金を貸していた場合:貸付金等も評価の対象です。財産は現金・株式に限られません。
計算のしかた
代表的な計算を確認します(数値は例示用です)。
例1:預貯金の評価
預入高500万円、既経過利子12,500円、その利子に係る源泉所得税相当額2,500円の場合。
- 使用する算式:預入高+既経過利子-既経過利子に係る源泉所得税相当額
- 計算:5,000,000円+12,500円-2,500円
- 結果:5,010,000円
例2:上場株式の評価
保有株数2,000株。4つの候補価額が、課税時期の終値920円、当月平均905円、前月平均940円、前々月平均960円である場合。
- 4つの候補価額を並べる:920円/905円/940円/960円
- 最も低い価額を選ぶ:905円(当月平均)
- 株数を乗じる:905円×2,000株
- 結果:1,810,000円
計算の順序は、まず4つの候補価額をすべて書き出し、次に最も低いものを選び、最後に株数を乗じることです。候補を1つでも見落とすと誤った価額を選んでしまうため、4つ並べる作業を省略しないでください。
よくある間違い
- 評価の基準時点を誤る:課税時期における時価が原則です。
- 預貯金で源泉所得税相当額を差し引き忘れる:既経過利子を足すだけでなく、その利子にかかる源泉所得税相当額を差し引きます。
- 上場株式で最も高い価額を選んでしまう:4つの候補のうち最も低い価額を用います。
- 候補価額を数え間違える:終値・当月平均・前月平均・前々月平均の4つです。前々月まで含める点を忘れやすいので注意してください。
- 会社規模と評価方式の対応を取り違える:大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式です。
- 生命保険契約に関する権利を保険金額で評価してしまう:原則として解約返戻金額で評価します。
- 解約返戻金がない契約の扱いを誤る:評価額は0円です。
- 貸付金等を評価対象外と考える:貸付金等も評価の対象です。
試験での出題のされ方
本単元のQuestion_Slotのうち、上場株式の4価額、上場株式の評価計算、取引相場のない株式の会社規模別評価、生命保険契約に関する権利の評価に係るものは、EX-F-008(株式・保険契約権利等の評価)に接続しています。分析期間2024-2026 CBT公表分の観測数は3/3(頻度100%・頻度区分A)です。
この頻度は「株式・生命保険契約に関する権利等の評価方法を判断できる」という能力枠全体についての観測値です。上場株式の4価額、取引相場のない株式の評価方式、解約返戻金による評価といった個別のサブ論点が、それぞれ3回とも出題されたという意味ではありません。頻度をサブ論点ごとの出題回数へ読み替えないよう注意してください。
なお、本単元はUnitの単位ではEX-F-013(実技)にも関連づけられていますが、本単元のQuestion_Slotには EX-F-013 を直接付与したものがありません。したがってEX-F-013の観測値を本単元の各問題の頻度として扱うことはしていません。Unitレベルの関連づけと、Question_Slotへの直接の割当とは区別して理解してください。
また、評価の原則、預貯金の評価、公社債・投資信託等の評価、貸付金等の評価に係る問題は、当該Question_Slotへ過去問頻度を直接付与していない管理状態(UNVERIFIED)に基づいています。これは管理上の状態であり、出題可能性の否定ではありません。いずれも財産評価の基本論点として押さえてください。
まとめ
・相続・贈与財産は原則として課税時期における時価で評価します。 ・預貯金=預入高+既経過利子-既経過利子に係る源泉所得税相当額。 ・上場株式は、課税時期の終値・当月平均・前月平均・前々月平均の4候補のうち最も低い価額を基本に評価します。 ・取引相場のない株式は、大会社=類似業種比準方式、小会社=純資産価額方式、中会社=併用方式等が原則です。 ・公社債・投資信託等は、課税時期の市場価額・基準価額等を基礎に評価します。 ・生命保険契約に関する権利は原則として解約返戻金額で評価し、解約返戻金がない場合は0円です。 ・貸付金等も元本・利息・回収可能性等を踏まえ評価の対象となります。
練習のしかた
- 相続・贈与財産の評価は、いつの時点を基準とするか。
- 預貯金の評価額を求める算式は何か。
- 上場株式の評価における4つの候補価額は何か。
- 4つの候補価額のうち、どれを用いるか。
- 取引相場のない株式について、大会社と小会社の原則的な評価方式はそれぞれ何か。
- 保険事故が発生していない生命保険契約に関する権利は、原則として何によって評価するか。
- 解約返戻金がない契約の権利の評価額はいくらか。
- 貸付金等は財産評価の対象となるか。
(答え:1 課税時期/2 預入高+既経過利子-既経過利子に係る源泉所得税相当額/3 課税時期の終値・当月平均・前月平均・前々月平均/4 最も低い価額/5 大会社は類似業種比準方式・小会社は純資産価額方式/6 課税時期に解約するとした場合の解約返戻金額/7 0円/8 対象となる)
FP2級へのつながり
FP2級では、取引相場のない株式の評価方式がより詳細に問われ、各方式の計算にも踏み込みます。FP3級では本単元の評価の原則、上場株式の4候補と最低価額の選択、会社規模別の方式、生命保険契約に関する権利の評価を正確に押さえることが土台になります。
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