個別原価計算(指図書・原価計算表・仕損)

学習のポイント

① 何を学ぶか

これまでは原価を費目別・部門別に集計してきました。ここからは、その原価を製品ごとに集計する段階に入ります。

注文を受けて1件ずつ異なるものを作る生産では、注文ごとに原価を集計します。これが個別原価計算です。

学ぶのは次の4つです。

  1. 製造指図書と原価計算表
  2. 指図書別原価の4つの要素と前月繰越
  3. 月末の状態判定と勘定の振り分け
  4. 補修指図書による仕損費の処理

② 製造指図書と原価計算表

製造指図書は、何をいくつ、いつまでに作るかを指示する書類です。注文ごとに番号が付けられ、その番号が原価を集計する単位になります。

原価計算表は、指図書ごとに原価を集計した表です。指図書番号を縦に、原価要素を横に並べて記入します。

③ 指図書別原価の構成

指図書別原価 = 直接材料費 + 直接労務費 + 直接経費 + 製造間接費配賦額

前の3つはその指図書に直接たどれる原価なので、指図書へ直接集計します。製造間接費は直接たどれないため、配賦率を用いて割り当てます。

製造間接費配賦額 = 配賦率 × その指図書の配賦基準量

前月から作りかけのものがある場合は、前月末までに集計された原価が前月繰越として引き継がれます。

指図書別原価 = 前月繰越 + 当月の4要素 + 仕損費(あれば)

前月繰越と当月原価は区別してから合算します。 まとめてしまうと、当月にいくら投入したのかが分からなくなります。

④ 月末の状態判定

月末時点で、各指図書は3つの状態のいずれかにあります。完成と引渡の日付から判定します。

状態 判定 集計先の勘定
未完成 月末までに完成していない 仕掛品
完成・未引渡 完成したが月末までに引き渡していない 製品
引渡済 完成し、月末までに引き渡した 売上原価

完成と引渡は別の出来事です。 完成しただけでは製品勘定に残り、引き渡してはじめて売上原価になります。日付を1つずつ確かめてください。

検証:未完成 + 完成未引渡 + 引渡済 = 全指図書の原価合計

⑤ 状態に応じた仕訳

場面 借方 貸方
完成 製品 仕掛品
引渡 売上原価 製品

未完成の指図書については仕訳を行いません。原価は仕掛品勘定の残高として月末に残ります。

複数の指図書が同時に完成した場合は、金額を合計して1つの仕訳にできます。集計先が同じ製品勘定だからです。

⑥ 仕損と補修指図書

製造の途中で不良が生じ、手直しが必要になることがあります。これを仕損といいます。

ここで扱うのは、補修指図書を発行して手直しを行う場合です。

補修指図書への集計

補修作業にかかった原価を、補修指図書に集計します。集計する要素は元の指図書と同じ4つです。

仕損費 = 補修指図書に集計された製造原価

補修指図書には、補修指図書番号と、どの指図書の補修なのか(元の指図書番号)を明示します。

元の指図書への賦課

集計した仕損費は、その全額を元の指図書へ加算します。手直しは元の製品を仕上げるために行ったものだからです。

借方 貸方
仕掛品(元の指図書) 仕掛品(補修指図書)

借方も貸方も仕掛品勘定です。 仕掛品の内部で、補修指図書から元の指図書へ金額を移すだけなので、仕掛品の総額は変わりません。

同じ勘定科目名なので、指図書番号を必ず付けて区別します。

検証:振替後の補修指図書の残高は0になり、元の指図書の原価は仕損費の分だけ増えます。

元の指図書の完成原価 = 補修前の原価 + 仕損費

⑦ 確かめ方とその限界

  • 指図書別原価計算表の総合計が仕掛品勘定の借方集計額に一致するか
  • 状態別の合計が全指図書の原価合計に一致するか
  • 補修指図書の残高が0になり、元の指図書への加算額が補修指図書原価に一致するか

ただし、この確かめ方では見つからない誤りがあります。

総額の一致は、指図書間で金額を取り違えていても成立します。 ある指図書の原価を多く、別の指図書を少なく計算しても、合計は変わりません。

状態別合計の一致も、状態の判定を取り違えていれば成立したままです。 完成・未引渡のものを引渡済としても、製品と売上原価のあいだで金額が移るだけで、合計は同じです。

補修指図書の残高0も、賦課先の指図書を間違えていても成立します。 元の指図書ではない別の指図書へ全額を振り替えても、補修指図書の残高は0になります。

総額だけでは、指図書別の内訳・状態の判定・賦課先の指図書番号のいずれも証明できません。 原価要素・前月繰越・完成と引渡の日付・元の指図書番号を、資料に戻って一つずつ確かめる必要があります。

⑧ 次に学ぶこととの境界

作り直しのために別の指図書を発行する場合、指図書を発行せずに処理する場合、仕損が生じた部門へ費用を負担させる場合、作業で生じた材料の残りを扱う場合は、ここでは扱いません。

⑨ 年度注記

ここで学ぶ内容は、2026年度・2027年度のどちらにも共通して適用されます。工業簿記・原価計算の出題区分に年度による変更はありません。


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