① このページで学ぶこと
このページでは、1年分などをまとめて前払いした費用を、当期の分と翌期の分に切り分ける決算整理を学びます。
- 本教材で扱う基本パターンでは、支払時に全額を費用として処理した取引を決算で調整する
- 決算で、翌期に対応する分を費用から抜いて資産へ振り替える
- 支払日・決算日・契約終了日という3つの日付から月数を数える
- 月割で金額を求める
- 前払保険料・前払家賃・前払利息という具体的な勘定科目を使う
この単元を貫く一行は次のとおりです。
決算日で線を引き、右側(翌期の分)を費用から資産へ動かす。
② 費用の前払いとは
保険や家賃、借入金の利息などは、1年分や数か月分をまとめて先に支払うことがあります。
本教材で扱う3級の基本パターンでは、問題文で支払時に全額を費用として処理したものを、決算で当期分と翌期分に分け直します。
問題文で支払時の処理方法や使用科目が指定されている場合は、その指定を優先してください。
×2年6月1日、向こう1年分(×3年5月31日まで)の火災保険料 ¥156,000 を現金で支払い、支払時に全額を保険料として処理した。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 保険料 | 156,000 | 現金 | 156,000 |
ところが決算日(×3年3月31日)に立ち止まると、この ¥156,000 のうち当期にサービスを受けたのは6月から3月までの分だけです。残りはまだ、翌期にサービスを受ける分として残っています。
③ なぜ費用から抜くのか
理由は、当期の費用は当期の分だけという原則です。
10か月分しかサービスを受けていないのに12か月分を費用にしてしまうと、当期の利益が実態より小さく計算されてしまいます。
では、抜き出した分はなぜ資産なのでしょうか。
支払いはすでに済んでいますが、その対価として 翌期にサービスを受けられる権利 が手元に残っているからです。お金は出ていっても、価値はまだ残っている ── だから資産として翌期へ送ります。
判断の基準は、お金が動いた時期ではありません。
その費用が、当期に属するのか、翌期に属するのか。
④ 3つの日付と月数の数え方
月数は、次の3つの日付で区切って数えます。
“` ×2年6/1 支払い ──────────── ×3年3/31 決算 ──── ×3年5/31 契約終了 │← 当期分:6月〜3月の10か月 →│← 前払分:4月〜5月の2か月 →│ “`
- 当期分 = 支払日から決算日まで … 6・7・8・9・10・11・12・1・2・3 の 10か月
- 前払分 = 決算日の翌日から契約終了まで … 4・5 の 2か月
数え終えたら、必ず月数の検算をします。
当期分 10か月 + 前払分 2か月 = 12か月(契約期間と一致)
決算で動かすのは、線の右側(前払分)です。左側の当期分は費用のまま残します。
⑤ 月割で金額を求める
手順は3つです。
手順1 1か月分を求める。
156,000 ÷ 12か月 = ¥13,000
手順2 前払分の月数を掛ける。
13,000 × 2か月 = ¥26,000
手順3 当期分を確かめる。
156,000 − 26,000 = ¥130,000(= 13,000 × 10か月)
金額の検算も、月数の検算と同じ形になります。
当期分 130,000 + 前払分 26,000 = 156,000(支払額と一致)
⑥ 決算整理仕訳
前払分を、費用から抜いて(貸方)/資産として持つ(借方)という向きで振り替えます。
×3年3月31日(決算日)
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 前払保険料 | 26,000 | 保険料 | 26,000 |
検算:借方 26,000 = 貸方 26,000 ✓
これで当期の保険料は 156,000 − 26,000 = ¥130,000(10か月分)となり、「当期の分だけ」が実現します。
向きを取り違えないために
借方に保険料を書いてしまうと、費用がさらに増えてしまいます。
| 何をするか | 記入side | |
|---|---|---|
| 費用(保険料など) | 翌期分を抜く | 貸方 |
| 資産(前払保険料など) | 権利として持つ | 借方 |
⑦ 決算整理のあと、費用はいくらになるか
決算整理仕訳そのものと、決算整理後の費用の金額は別のものです。
| 金額 | 意味 | |
|---|---|---|
| 支払額 | 156,000 | 契約12か月分 |
| 決算整理の金額 | 26,000 | 前払分2か月分(仕訳に書く金額) |
| 決算整理後の保険料 | 130,000 | 当期分10か月分(損益計算書へ向かう金額) |
問題文が何を求めているのか(仕訳なのか、当期の費用額なのか)を確かめてから答えます。
⑧ 前払保険料・前払家賃・前払利息
前払いの対象になる費用ごとに、内容を表す具体的な科目を使います。
| もとの費用 | 前払分の科目 |
|---|---|
| 保険料 | 前払保険料 |
| 支払家賃 | 前払家賃 |
| 支払利息 | 前払利息 |
いずれも資産であり、決算整理で借方に立てます。
⑨ 本教材ではA欄標準の具体科目を使う
日本商工会議所の3級勘定科目表では、前払保険料など前払費用の各勘定がA欄の標準科目として示され、前払費用はB欄の許容科目として示されています。したがって、前払費用そのものを「仕訳では使えない科目」と考えるのは正確ではありません。
本教材では解答表記を統一するため、原則としてA欄標準の前払保険料・前払家賃・前払利息を標準解答にします。一方、実際の試験では問題文の科目指定が最優先で、B欄の前払費用も採点上の許容科目となり得ます。
本教材の標準解答は具体科目。公式上は「前払費用」もB欄の許容科目。
貸借対照表での表示は前払費用となります。表示の扱いは、C15-T03「貸借対照表(勘定式)」やC15-T04「決算整理からの財務諸表作成」で扱います。
⑩ 前払金との区別
名前が似ていますが、前払金は目的が異なる別の科目です。
| 科目 | 何に使うか |
|---|---|
| 前払金 | 商品を受け取る前に支払った手付金・内金(C05-T06) |
| 前払保険料・前払家賃・前払利息 | 保険・家賃・利息など、一定期間にわたるサービスの前払い(このページ) |
商品売買の手付金の処理は C05-T06「前払金・前受金」が扱います。
⑪ 未払い・未収・前受けとの境界
期間のずれを調整する処理は、全部で4種類あります。このページで扱うのは前払いだけです。
| 種類 | 状況 | 決算で行うこと | 扱う単元 |
|---|---|---|---|
| 前払 | 支払済み・翌期の分が混ざっている | 費用を減らし、資産を増やす | C09-T03(このページ) |
| 前受 | 受取済み・翌期の分が混ざっている | 収益を減らし、負債を増やす | C09-T04「収益の前受け(繰延)」 |
| 未払 | 未払い・当期の分が発生している | 費用を増やし、負債を増やす | C09-T05「費用の未払いと収益の未収(見越し)」 |
| 未収 | 未回収・当期の分が発生している | 収益を増やし、資産を増やす | C09-T05 |
4種類をまとめて扱う決算整理は、C14-T07「経過勘定の決算整理」が扱います。
⑫ 翌期首の再振替への導線
決算で資産へ送った前払分は、翌期首に費用へ戻します。これを再振替といいます。
再振替の仕訳、経過勘定の一巡、そして毎年同じ時期に同額を支払っている場合に決算整理前の残高が何か月分になるかという分析は、C09-T06「再振替仕訳と経過勘定の一巡」が扱います。
このページで扱うのは、支払額がそのまま費用の残高になっている場合の前払計上までです。
⑬ 誤って計上したときの直し方
前払分を誤った金額で計上したり、借方と貸方を逆にしてしまった場合の直し方(訂正仕訳)は、C16-T01「訂正仕訳」が扱います。
このページでは、正しく計上することに集中します。
⑭ まとめ
| 場面 | 借方 | 貸方 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 支払時(期中) | 保険料 など | 現金・普通預金 など | 問題で全額費用処理とされる基本パターン |
| 決算(このページ) | 前払保険料 など | 保険料 など | 翌期分を費用から抜いて資産へ |
| 翌期首(C09-T06) | 保険料 など | 前払保険料 など | 決算の反対仕訳で費用へ戻す |
月数の求め方は次のとおりです。
前払分の月数 = 決算日の翌日から契約終了まで 検算:当期分 + 前払分 = 契約月数
⑮ 2級への接続
2級では、決算整理や財務諸表表示を含む会計処理の範囲がさらに広がります。
3級の段階では、決算日で線を引き、翌期分を当期費用から外して資産へ振り替えるという期間配分の考え方を確実にしておくことが、その後の学習の土台になります。

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