手形貸付金・手形借入金、決め手は「何のために手形を授受したか」です

【2026年度(~2027年3月)受験の方】

この単元は 2026年度の試験範囲です。

【2027年度(2027年4月~)受験の方】

紙媒体の手形を用いる取引は、2027年度の出題区分表の改定により日商簿記3級の試験範囲から除かれています。この単元は読み飛ばしてかまいません。

ただし、金銭の貸し借りそのものが範囲外になるわけではありません。 借用証書による通常の貸付金・借入金は 2027年度でも3級の範囲です(C05-T04)。

この単元の標語:手形の見た目ではなく、その手形を何のために授受したのかを見る。商品代金などの決済のためなら受取手形・支払手形、金銭の貸付け・借入れのためなら手形貸付金・手形借入金。


① このページで学ぶこと

  • 借用証書の代わりに約束手形を用いる金銭貸借があることを説明できる
  • 手形貸付金・手形借入金受取手形・支払手形を、原因取引で判別できる
  • 通常の貸付金・借入金との使い分けを説明できる
  • 元本の総額で計上する理由を説明できる
  • 利息の処理と、返済時の仕訳が切れるようになる

② 基礎概念

借用証書の代わりに手形を使う

C05-T04 で学んだとおり、金銭を貸し借りするときは通常、借用証書を交わして貸付金(資産)・借入金(負債)で処理します。

この借用証書の代わりに約束手形を用いることがあります。手形なら支払期日に銀行を通じて決済されるため、貸した側にとって回収の確実性が高いからです。

立場 簿記上の意味 勘定科目 5要素
貸した側(手形を受け取る) 金銭を貸し付けたことにより、返済を受ける権利 手形貸付金 資産
借りた側(手形を振り出す) 金銭を借り入れたことにより、返済する義務 手形借入金 負債

判断するのは「何のために授受した手形か」

同じ約束手形でも、何のために授受したかによって勘定科目が変わります。

原因取引 手形を受け取った側 手形を振り出した側
商品売買などの代金の決済 受取手形 支払手形
金銭の貸付け・借入れ 手形貸付金 手形借入金

[判断のしかた] 「約束手形を受け取ったから受取手形」「約束手形を振り出したから支払手形」とは決まりません。

問題文の「貸し付けた」「借り入れた」「借用証書に代えて」といった記述を確認してください。

これは A01-T01 で確認した判断と同じです。 A01-T01 でも「手形を受け取っても、金銭を貸し付けた証として受け取った場合は手形貸付金」と述べています。本単元は、その反例にあたる場面を正面から扱います。

通常の貸付金・借入金との使い分け

金銭貸借の方法 貸した側 借りた側 年度
借用証書による 貸付金 借入金 両年度○
約束手形による 手形貸付金 手形借入金 2026年度のみ

金銭を貸し借りしたという点は同じで、その証として何を用いたかが違います。

[関連単元] 通常の貸付金・借入金の処理は C05-T04 で扱います。 本単元では手形を用いた場合との使い分けに絞ります。


③ 仕組み・理由

なぜ受取手形・支払手形と科目を分けるのか

帳簿の読み手にとって、「商売の代金の未回収」と「貸したお金」は性格の違う債権だからです。

売上代金の手形(受取手形)は営業活動の一部ですが、貸付けは営業とは別の資金の運用です。混ぜて表示すると、会社の営業規模や資金の使い途を読み誤らせてしまいます。

同じ紙(約束手形)を授受していても、原因取引が違えば、帳簿上は別の科目で管理します。

元本の総額で計上する

手形貸付金・手形借入金は、手形に書かれた元本の総額で計上します。

利息を差し引いて渡す場合、実際に動く現金は元本より少なくなりますが、支払期日に返してもらう(返す)金額は元本の総額です。

権利・義務の金額は、実際に渡した現金の額ではなく、手形の券面額(元本)です。

貸付・借入の時点と、返済の時点を分ける

時点 貸した側 借りた側
貸付・借入時 手形貸付金(債権)が発生する 手形借入金(債務)が発生する
返済・回収時(支払期日) 手形貸付金が消滅し、預金などが増加する 手形借入金が消滅し、預金などが減少する

「約束手形を受け取った時点で元本を回収した」わけではありません。 手元にあるのは支払期日に返済を受ける権利です。

利息の2つの型

どちらの型かは、問題文の指示で決まります。

貸付・借入時 返済・回収時
① 貸付時に差し引く型 元本の総額で計上し、差額を利息とする 元本のみが動く
② 返済時に受け払いする型 元本のみを計上する 元本+利息を受け払いする

利息の科目は立場と連動します。 貸した側が受け取るのが受取利息、借りた側が支払うのが支払利息です。


④ 基本例

青森商事株式会社(会計期間 ×1年4月1日〜×2年3月31日)の取引は次のとおりである。

  • (a)5月1日 黒石商店に ¥500,000 を貸し付け、同店振出の約束手形を受け取った。なお、利息(年利率3%・貸付期間8か月)を差し引いた残額を普通預金口座から振り込んだ。
  • (b)6月1日 取引銀行から ¥800,000 を借り入れ、約束手形を振り出した。なお、利息 ¥12,000 を差し引かれた残額が当座預金口座に入金された。
  • (c)×2年1月1日 (a)の手形貸付金が支払期日となり、¥500,000 が普通預金口座に振り込まれた。

⑤ 仕訳例:思考の手順つき

場面1:利息を差し引いて貸し付ける(a)

  1. 原因取引を確認する:「貸し付け」とある → 金銭の貸付け手形貸付金(受取手形ではない)
  2. 利息を計算する:500,000 × 3% × 8/12 = ¥10,000
  3. 渡す金額を求める:500,000 − 10,000 = ¥490,000
  4. 元本の総額で計上する:手形貸付金は ¥500,000
借方科目 金額 貸方科目 金額
手形貸付金 500,000 普通預金 490,000
受取利息 10,000

手形貸付金は元本の総額 ¥500,000 です。実際に渡したお金は ¥490,000 でも、支払期日に返してもらう権利は ¥500,000 だからです。

差額の ¥10,000 は先に受け取った利息(受取利息)です。

検算:借方 500,000 = 貸方 490,000 + 10,000

場面2:利息を差し引かれて借り入れる(b)

原因取引は「借り入れ」手形借入金(支払手形ではない)。利息を支払う立場なので支払利息です。

借方科目 金額 貸方科目 金額
当座預金 788,000 手形借入金 800,000
支払利息 12,000

手形借入金も総額 ¥800,000 です。手元に入ったのは ¥788,000 でも、支払期日に返す義務は ¥800,000 です。

検算:借方 788,000 + 12,000 = 貸方 800,000

場面3:支払期日の回収(c)

借方科目 金額 貸方科目 金額
普通預金 500,000 手形貸付金 500,000
  • 借方の理由:普通預金(資産)の増加。ここではじめて元本が返ってきます。
  • 貸方の理由:手形貸付金(資産)の減少。返済を受ける権利が実現して消滅します。
  • 利息は登場しません:(a)で先に受け取っているためです。

[注意] 返済・回収に使う口座は問題文の指定に従います。 当座預金・普通預金・現金のいずれもありえます。


⑥ 間違いやすいポイント

主なものを3つ確認します。 実際の誤りはこの3つに限りません。

1.「約束手形を受け取った」だけで受取手形と書いてしまう

本単元でもっとも多い誤りです。

手形という紙は同じでも、貸付けから生じたなら手形貸付金です。問題文の「貸し付けた」「借り入れた」「借用証書に代えて」まで読んでから科目を選んでください。

A01-T01 との混合問題で問われる場面です。

2.利息を差し引く型で、実際に渡した金額を計上してしまう

手形貸付金・手形借入金は元本の総額で計上します。

支払期日に動く金額(元本)と、帳簿の残高を一致させておくためです。

3.利息の主語を取り違える

貸した側なのに支払利息と書く誤りです。

お金を貸した側が受け取るのが受取利息、借りた側が支払うのが支払利息です。立場の判定は、手形の科目と利息の科目の両方に効いてきます。


⑦ 試験での問われ方(2026年度)

第1問対策(仕訳問題)で、「貸付けを行い、同店振出の約束手形を受け取った」「借用証書に代えて約束手形を振り出した」というかたちで問われます。

利息を差し引く型が中心で、月割計算との複合になります。

また、語群に「受取手形」と「手形貸付金」が両方並ぶ設計が用いられます。本単元の判別が試されています。


⑧ まとめ

項目 内容
判別の基準 何のために手形を授受したか。 商品代金などの決済=受取手形・支払手形/金銭の貸付け・借入れ=手形貸付金・手形借入金
貸した側 手形貸付金(資産)+受取利息
借りた側 手形借入金(負債)+支払利息
計上金額 元本の総額(利息を差し引く前の券面額)
利息を差し引く型 貸付時:総額で計上し差額を利息に/支払期日:元本のみが動く
返済時に受け払いする型 貸付時:元本のみ/支払期日:元本+利息
通常の貸付金・借入金 借用証書による場合。両年度○(C05-T04)

⑨ 関連問題への導線

  • 一問一答:A01-T02「手形貸付金・手形借入金」(全8問)
  • 仕訳問題:A01-T02「手形貸付金・手形借入金」(全8問・初級3問/標準3問/応用2問)
  • 前の単元A01-T01「受取手形・支払手形」
  • 次の単元:A01-T03「手形記入帳と証ひょう」
  • 通常の貸付金・借入金C05-T042027年度も範囲
  • 電子記録債権・電子記録債務:C05-T03

⑩ 上位級への接続

「何のために手形を授受したか」で科目が変わるという本単元の判別の軸は、上位の学習でも使われます。

たとえば、商品でもお金でもない場合――固定資産(建物・備品など)の売買代金として手形を用いる場合――には、営業外受取手形・営業外支払手形という別の科目が用いられます。商品かお金かの二分法では足りない場面があるということです。

[注意] 上位級で何がどこまで扱われるかは、出題区分表の改定によって変わります。 ここでは判別の考え方が広がる方向を示すにとどめます。


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