この単元の標語:まず仕訳を切る。当社の現金勘定が借方にあれば入金伝票、貸方にあれば出金伝票、登場しなければ振替伝票。
① このページで学ぶこと
- 伝票とは何か、仕訳帳とどう違うかを説明できる
- 3つの伝票を、取引に応じて選べるようになる
- 入金伝票・出金伝票の科目欄に相手科目だけを書く理由を説明できる
- 振替伝票の書き方を説明できる
- 伝票から元の仕訳を復元できるようになる
② 基礎概念
伝票とは
これまで、取引はすべて仕訳帳に日付順で記録してきました(C11-T01)。しかし仕訳帳は1冊の帳簿なので、同時に記入できる人は1人だけです。取引の多い会社では記録が追いつきません。
そこで、仕訳帳の代わりに1取引1枚の紙片に記録する方法があります。この紙片が伝票で、伝票に記入することを起票といいます。紙片なら手分けして何枚でも同時に書けます。
3伝票制の3つの伝票
| 伝票 | 使う取引 | 固定されている側 |
|---|---|---|
| 入金伝票 | 現金が増える取引 | 借方 = 現金 |
| 出金伝票 | 現金が減る取引 | 貸方 = 現金 |
| 振替伝票 | 現金が動かない取引(上記以外) | なし |
判定に使うのは、当社の現金勘定が動いたかどうか、ただ1つです。
③ 仕組み・理由
なぜ現金を基準に3つへ分けるのか
会社の取引でとくに件数が多いのが現金の出入りです。件数の多い型を専用の伝票にしておけば、記入が速くなります。
伝票の種類が、仕訳の半分を語っている
専用化には大きな効果があります。入金伝票を選んだ時点で「借方は現金」が確定しているのです。
だから入金伝票には借方を書く欄がなく、科目欄には貸方(相手科目)だけを書きます。出金伝票はその逆で、「貸方は現金」が確定済みなので、科目欄には借方(相手科目)だけを書きます。
入金伝票 ── 借方は現金と決まっている → 科目欄は貸方 出金伝票 ── 貸方は現金と決まっている → 科目欄は借方
この構造がわかっていれば、伝票を見て仕訳を復元することも、仕訳から伝票を起票することも、同じ理屈で行えます。
振替伝票だけは固定されている側がないため、仕訳と同じく借方・貸方の両方を記入します。
「入金」という日本語で判断しない
得意先から売掛金 ¥50,000 が普通預金へ振り込まれた場合の仕訳は、
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 50,000 | 売掛金 | 50,000 |
です。会社にお金は入っていますが、現金勘定は増えていません。 そのため 3伝票制では振替伝票を使います。
「お金が入った=入金伝票」ではなく、「現金勘定が借方に来た=入金伝票」と、科目のレベルで判定してください。
④ 基本例
青森商事株式会社の×1年7月の取引は次のとおりである。
- 7月2日 八戸商店に対する売掛金 ¥70,000 を現金で回収した。
- 7月5日 弘前商店に対する買掛金 ¥50,000 を現金で支払った。
- 7月8日 むつ商店へ商品 ¥90,000 を売り上げ、代金は掛けとした。
- 7月11日 三沢商店に対する売掛金 ¥60,000 が普通預金口座へ振り込まれた。
⑤ 起票例:思考の手順つき
どの取引でも、手順は同じ3ステップです。
手順1 まず仕訳を切る(頭の中でかまいません) 手順2 現金勘定の位置で伝票を選ぶ 手順3 科目欄に相手科目を書く
場面1:現金が増える → 入金伝票(7月2日)
- 仕訳を切る:現金 70,000/売掛金 70,000
- 伝票を選ぶ:借方が現金 → 入金伝票
- 科目欄を書く:相手科目の売掛金だけ
| 入金伝票 ×1年7月2日 | |
|---|---|
| 科目 | 金額 |
| 売掛金 | 70,000 |
場面2:現金が減る → 出金伝票(7月5日)
- 仕訳を切る:買掛金 50,000/現金 50,000
- 伝票を選ぶ:貸方が現金 → 出金伝票
- 科目欄を書く:相手科目の買掛金だけ
| 出金伝票 ×1年7月5日 | |
|---|---|
| 科目 | 金額 |
| 買掛金 | 50,000 |
場面3:現金が動かない → 振替伝票(7月8日)
- 仕訳を切る:売掛金 90,000/売上 90,000
- 伝票を選ぶ:現金が登場しない → 振替伝票
- 記入する:固定されている側がないので、仕訳と同じ形で両方書く
| 振替伝票 ×1年7月8日 | |||
|---|---|---|---|
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
| 売掛金 | 90,000 | 売上 | 90,000 |
場面4:預金への入金も振替伝票(7月11日)
- 仕訳を切る:普通預金 60,000/売掛金 60,000
- 伝票を選ぶ:現金勘定が登場しない → 振替伝票
「振り込まれた」という言葉に反応せず、仕訳を切ってから現金勘定の有無を見るという順序を守ってください。
場面5:伝票から仕訳を復元する
復元も同じ理屈です。
| 出金伝票 ×1年7月13日 | |
|---|---|
| 科目 | 金額 |
| 仕入 | 30,000 |
出金伝票なので貸方は現金と確定しています。科目欄の仕入は反対側=借方です。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入 | 30,000 | 現金 | 30,000 |
伝票の種類 → 確定している側 → 科目欄は反対側、の順で読めば、仕訳が一意に定まります。
⑥ 間違いやすいポイント
主なものを3つ確認します。 実際の誤りはこの3つに限りません。
1.入金伝票・出金伝票の科目欄に「現金」と書いてしまう
現金は伝票の種類が代弁しているので、科目欄には書きません。書くのは相手科目だけです。
復元問題で「科目欄の科目=借方」と早合点する誤りも同じ原因です。入金伝票なら科目欄は貸方、出金伝票なら借方。伝票の種類を先に確認する癖をつけてください。
2.「入金」「支払い」という言葉を、相手目線で取り違える
入金・出金の基準は当社の現金です。
取引文に「支払い」という言葉があっても、それが得意先が当社に支払った話であれば、当社の現金は増えます。主語と動詞から、当社の現金が増えるのか減るのかを判定してください。
3.預金の入出金を入金伝票・出金伝票にしてしまう
入金伝票・出金伝票が使えるのは現金勘定の出入りだけです。
売掛金を普通預金口座で回収した取引は、現金勘定が動いていないので振替伝票です。また、「振替」という言葉から銀行振込専用の伝票だと誤解しないでください。振替伝票は、現金の入出金を伴わない取引全般に使います。
⑦ 試験での問われ方
当サイトの本試験形式では、第2問対策(伝票)に位置づけています。
第2問対策
「取引からの起票」「伝票からの仕訳復元」「空欄の伝票種類・科目・金額の推定」という形で問われます。
伝票の様式そのものが手がかりになります。 科目欄が1つだけなら入金伝票か出金伝票、借方・貸方の両方が書かれていれば振替伝票です。
次の段階
- 一部を現金で受け払いする取引の起票は C12-T02 で扱います。
- 複数の伝票を集計する仕訳日計表は C12-T03 で扱います。
- 本試験形式のまとまった伝票問題は E-T07(第2問P06)で扱います。
本単元の「伝票の種類が仕訳の半分を語っている」という構造が、そのすべての土台になります。
⑧ まとめ
| 伝票 | 現金の動き | 固定される側 | 科目欄に書くもの |
|---|---|---|---|
| 入金伝票 | 増える | 借方 = 現金 | 貸方の相手科目 |
| 出金伝票 | 減る | 貸方 = 現金 | 借方の相手科目 |
| 振替伝票 | 動かない | なし | 借方・貸方の両方(仕訳と同形) |
判断手順
① 取引を普通に仕訳する ② その仕訳に現金勘定があるか確認する ③ 現金が借方なら入金伝票、貸方なら出金伝票、なければ振替伝票
伝票名だけを暗記するより、この順で考えるほうが間違えにくくなります。
⑨ 関連問題への導線
- 一問一答:C12-T01「3伝票制」(全10問)
- 仕訳問題:C12-T01「3伝票制」(全7問・初級3問/標準3問/応用1問)
- 前のテキスト:C11-T01「主要簿・転記」
- 次のテキスト:C12-T02「一部現金取引の起票(分解法・擬制法)」
- 伝票の集計:C12-T03「伝票の集計と転記(仕訳日計表)」
- 本試験形式:E-T07「第2問P06 伝票・仕訳日計表」
- 誤った起票の直し方:C16-T01「訂正仕訳」
⑩ 2級への接続
伝票の論点は3級でほぼ完成し、2級で大きく発展することはありません。
実務では、この「1取引1レコード」の考え方がそのまま会計ソフトへの入力になります。伝票の種類で入力の型を選び、相手科目を指定する——3伝票制の設計思想は、現在の経理実務にも引き継がれています。

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