一部現金取引の起票(分解法・擬制法)

① このページで学ぶこと

  • 一部現金取引とは何か、なぜ伝票が2枚必要になるのか
  • 方法1:取引を分解する方法
  • 方法2:全額を掛け取引として擬制する方法
  • 起票済みの伝票から「どちらの方法で起票されたか」を判定する読み方
  • 2枚の伝票を合算して確かめる検算のしかた

② なぜ1枚の伝票に収まらないのか

一部現金取引とは、1つの取引の中に現金の受払いと、それ以外の決済(掛けなど)が混ざっているものをいいます。

商品 ¥140,000 を売り上げ、代金のうち ¥15,000 は現金で受け取り、残額は掛けとした。

この取引を普通に仕訳すると、次のようになります。

借方科目 金額 貸方科目 金額
現金 15,000 売上 140,000
売掛金 125,000

ここで困ったことが起きます。C12-T01(3伝票制)で学んだとおり、伝票は次のように使い分けるのが原則でした。

伝票 使う場面 あらかじめ決まっている側
入金伝票 現金が増える取引 借方は現金
出金伝票 現金が減る取引 貸方は現金
振替伝票 現金が動かない取引

上の仕訳には現金と売掛金の両方が入っています。入金伝票は現金の取引だけ、振替伝票は現金の動かない取引に使うので、この仕訳は1枚の伝票には収まりません

そこで、2枚に分けて起票します。この「分け方」に2つの流儀があるというのが、この単元のテーマです。


③ 方法1:取引を分解する方法

現金の部分と、掛けの部分を、2つの取引に割る考え方です。

上の例なら、「¥15,000 の現金売上」と「¥125,000 の掛売上」が同時に起きたと考えます。

伝票 記入内容 表している仕訳
入金伝票 科目欄「売上」 ¥15,000 現金 15,000 / 売上 15,000
振替伝票 売掛金 125,000 / 売上 125,000 (そのまま)

入金伝票は「借方は現金」と決まっているので、科目欄には相手科目だけを書きます。ここでは現金売上を表したいので、科目欄は売上です。

振替伝票に載るのは、現金部分を除いた残額 ¥125,000 です。


④ 方法2:全額を掛け取引として擬制する方法

「いったん全額を掛けで売り上げ、直後にその一部を現金で回収した」と仮定する考え方です。実際の取引とは手順が違いますが、結果が同じになるように仮定(擬制)します。

伝票 記入内容 表している仕訳
振替伝票 売掛金 140,000 / 売上 140,000 (そのまま)
入金伝票 科目欄「売掛金」 ¥15,000 現金 15,000 / 売掛金 15,000

こちらの入金伝票は「掛代金を現金で回収した」ことを表すので、科目欄は売掛金です。

振替伝票に載るのは、取引の総額 ¥140,000 です。


⑤ なぜ2つとも正しいのか ── 合算すれば同じ

方法2の2枚を合算してみましょう。

借方 貸方
振替伝票 売掛金 140,000 売上 140,000
入金伝票 現金 15,000 売掛金 15,000
合算 売掛金 140,000 + 現金 15,000 売上 140,000 + 売掛金 15,000

売掛金が借方 140,000 と貸方 15,000 で相殺され、差引 125,000 が残ります。整理すると——

現金 15,000 + 売掛金 125,000 / 売上 140,000

②で示した元の仕訳と完全に一致しました。方法1の合算も同じ結果になります(15,000 + 125,000 = 140,000)。

どちらの流儀で起票しても、帳簿に流れ込む結果は変わりません。 だから2つとも正しい方法なのです。


⑥ 仕入側でも構造は同じ

買った側でも考え方はまったく同じで、入金伝票が出金伝票に置き換わるだけです。

商品 ¥170,000 を仕入れ、代金のうち ¥35,000 は現金で支払い、残額は掛けとした。 (仕訳:仕入 170,000 / 現金 35,000・買掛金 135,000)

方法1:分解する方法 方法2:擬制する方法
出金伝票 科目欄「仕入」 ¥35,000 科目欄「買掛金」 ¥35,000
振替伝票 仕入 135,000 / 買掛金 135,000 仕入 170,000 / 買掛金 170,000

出金伝票は「貸方は現金」と決まっているので、科目欄には借方の相手科目を書きます。売上側の売掛金が買掛金に、売上が仕入に入れ替わった鏡写しの構造です。


⑦ どちらの方法で起票されたかを判定する

一方の伝票からもう一方の伝票を補完する問題では、最初にどちらの方法で起票されているかを判定します。判定材料は主に次の2つです。

手がかり1:入金伝票(出金伝票)の科目欄

科目欄 判定 理由
売上(仕入側なら仕入 分解する方法 現金部分を独立した売買として起票しているため
売掛金(仕入側なら買掛金 擬制する方法 現金部分を掛代金の回収・支払として起票しているため

手がかり2:振替伝票の金額

取引の総額または残額が問題文などから分かっているときは、振替伝票の金額も判定材料になります。

振替伝票の金額 判定
残額 分解する方法
取引の総額 擬制する方法

科目欄による判定と、振替伝票の金額による判定は整合します。分解する方法なら科目欄は売上(仕入側なら仕入)で振替伝票は残額、擬制する方法なら科目欄は売掛金(仕入側なら買掛金)で振替伝票は総額です。

ただし、取引総額が分からず、科目欄など他の手がかりもない状態では、振替伝票の金額だけから方法を一意に決めることはできません。 方法がすでに分解する方法だと分かっている場合には、

残額 + 現金部分 = 取引の総額

として総額を求められます。


⑧ 注意したいポイント

(1)2つの方法を混ぜない

振替伝票を総額 140,000 で書いたのに、入金伝票の科目欄を「売上」15,000 にすると、合算したときの売上が 155,000 に膨らんでしまいます。

方法1なら方法1のセットで、方法2なら方法2のセットで貫いてください。 迷ったら2枚を合算して元の仕訳に戻るかを確かめます。戻らなければ、どこかで方法が混ざっています。

(2)判定せずに思い込みで空欄を埋めない

「入金伝票の科目は売上のはずだ」という決め打ちは危険です。まず示された伝票から方法を判定し(⑦の手がかり)、それから空欄を埋める。判定 → 補完の2段構えが確実です。

同じように、振替伝票の金額を見て「これが取引の総額だろう」と決めつけるのも危険です。現金部分と足し合わせて筋が通るかを確かめてください。

(3)擬制する方法を「事実と違う記録では」と心配しない

擬制の振替伝票には、実際には存在しなかった「全額掛け」が書かれます。気持ち悪く感じるかもしれませんが、直後の入金伝票と2枚セットで1つの取引を表しているので、帳簿全体としては正しい記録になります。

1枚だけを見て取引を決めつけない——この感覚は、伝票を集計する C12-T03(仕訳日計表) でも効いてきます。


⑨ まとめ

分解する方法 擬制する方法
考え方 現金分と掛け分の2取引に割る 全額を掛け → 直後に一部を回収(支払)と仮定
振替伝票の金額 残額 取引の総額
入金伝票の科目欄(売上側) 売上 売掛金
出金伝票の科目欄(仕入側) 仕入 買掛金
検算 2枚合算 = 元の仕訳 2枚合算 = 元の仕訳(売掛金・買掛金が相殺される)

確かめたい3つの点

  1. 一部現金取引は、2枚の伝票に分けて起票する。
  2. 方法は2つあり、どちらで起票しても帳簿の結果は同じになる。
  3. 判定は科目欄と振替伝票の金額、検算は2枚の合算

⑩ 関連する単元

  • C12-T01(3伝票制):入金伝票・出金伝票・振替伝票の基本と、科目欄に相手科目だけを書く理由
  • C12-T03(伝票の集計と転記/仕訳日計表):起票した伝票を集計して転記する手続き
  • C12-T04(証ひょう):納品書・請求書・領収書などからの起票


コメント

タイトルとURLをコピーしました