【情報セキュリティマネジメント】データ保護とバックアップ、目的から手段を選ぶ|増分・差分・3-2-1ルール・暗号化消去

データを守る技術には、バックアップ、WORM、データマスキング、DLP、MDM、暗号化消去などがあります。

科目Bでは名称だけでなく、何から守るのか、対策後にどの弱点が残るのかを確認します。

読み終えるころには、事例の対策が守ろうとしている事故の種類を見分け、同じ事故で一緒に失われる構成になっていないかを確認できるようになります。

先に結論:目的から手段を選ぶ

目的 主な手段 中心となる役割
消失に備える フル・増分・差分バックアップ、3-2-1 復元用のコピーを残す
書換え・削除を制限する WORM 保存済みデータを変更されにくくする
実データを見せずに使う データマスキング、k-匿名化 識別・開示のリスクを下げる
持出し・紛失・残存へ備える DLP、MDM、暗号化消去 送信・端末を制御し、不要データを復元困難にする

バックアップは情報漏えいを直接止めるものではなく、マスキングは障害時の復元手段ではありません。

SGシラバスでの位置付け

SGシラバス Ver.4.1には、ランサムウェア対策としてデータのバックアップ、3-2-1ルール、WORM、匿名化手法としてk-匿名化、技術的対策としてデータマスキング、暗号化消去が明示されています。

また、セキュリティ製品・サービスとしてDLP、MDM、物理的対策として多重化技術・ストレージのミラーリングが挙げられています。データベース分野にはフルバックアップ、差分バックアップ、増分バックアップも明示されています。

1.フル・増分・差分バックアップ

違いは「どこからの変更分を取るか」です。

方式 取得するデータ 復元に必要なもの
フル 対象データ全体 復元対象のフル
増分 前回のバックアップ以降の変更分 基点のフル+その後の必要な増分
差分 直近のフル以降の変更分 基点のフル+目的時点に近い差分

増分は「前回」、差分は「フル」が基準

増分バックアップは、前回実施したバックアップ以降の変更分を取得します。一回当たりの取得量を抑えやすい反面、復元では基点のフルと、その後の増分を利用します。

差分バックアップは、毎回、直近のフルバックアップ以降の変更分を取得します。復元時に必要な組合せは増分より少なくしやすい一方、フル取得後に変更が積み重なると取得量が増えやすくなります。

実際の取得量や復元方法は製品・構成にも左右されるため、「増分は常に最小」のようには断定しません。

2.多重化はバックアップの代わりにならない

ミラーリングなどの多重化は、主に機器故障時にも処理を継続しやすくするための対策です。

しかし、誤削除、誤更新、ランサムウェアによる暗号化などが複製先へ反映されることがあります。

  • 多重化:現在の処理を継続しやすくする
  • バックアップ:過去の正常な状態へ戻すためのコピーを残す

目的が異なるため、多重化だけでバックアップを置き換えることはできません。

3.3-2-1ルールで同時消失を避ける

3-2-1ルールは、重要データを一つの装置や場所へ集中させないための考え方です。

  • 3:原本を含め三つのコピーを持つ
  • 2:二種類の異なる媒体・保存方式に分ける
  • 1:一つを別拠点など離れた場所に保管する(シラバスの遠隔バックアップにあたる)

同じディスクに三世代保存するだけでは、装置の故障や侵害で同時に失う可能性があります。

また、3-2-1を満たせば復元が保証されるわけではありません。バックアップ結果を確認し、必要なデータや鍵が含まれているか、復元できるかも確認します。

4.WORM:保存済みデータの変更を制限する

WORMはWrite Once Read Manyの略で、保存済みデータの書換えや削除を制限する方式・機能です。

バックアップやログを、不正操作やランサムウェアなどによる変更・削除から保護するために利用できます。

ただし、誤ったデータや感染済みデータを保存すれば、その内容も保持されます。WORMはバックアップを自動作成する仕組みでも、復元確認を不要にする仕組みでもありません。

5.データマスキング:実データを見せずに利用する

データマスキングは、氏名や口座番号などの実データを置換・加工し、利用に必要な形式や関係をできるだけ保ちながら実際の値を見せにくくする技術です。

例えば、委託先でテストを行う際に、本番の顧客情報をそのまま渡さず、加工したデータを利用します。

ファイル名の変更、列の非表示、文字色の変更などは表示上の細工にすぎず、元の値が残ります。加工後も、再識別の可能性、アクセス制御、利用終了後の返却・消去などを確認します。

6.k-匿名化:準識別子の組合せを見る

k-匿名化は、年齢、地域、職業などの準識別子について、同じ値の組合せを持つレコードが少なくともk件になるよう加工する考え方です。

例えばk=3なら、対象とした準識別子の組合せごとに同じレコードが三件以上になるよう、年齢を年代へまとめるなどの一般化を行います。

kは暗号鍵の分割数ではありません。また、k-匿名化だけで全ての再識別や属性推測を防げるわけではありません。

匿名加工情報・仮名加工情報という法令上の区分は、「第三者提供と加工情報」の記事で扱います。

7.DLP:機密データの不適切な持出しを制御する

DLPは、データの内容、分類、送信先、利用者、操作などを基に、機密情報の不適切な利用や持出しを検知・制御する仕組みです。

例えば、顧客情報を含むファイルを未承認のクラウドサービスへ送信しようとした際に、警告や遮断を行います。

DLPだけで全ての情報漏えいを防げるわけではないため、情報分類、アクセス制御、教育、ログ確認などと組み合わせます。

8.MDM:モバイル端末を一元管理する

MDMは、業務用スマートフォンやタブレットなどの設定・状態を一元的に管理する仕組みです。

  • 画面ロックや暗号化などの設定を管理する
  • 利用可能な機能やアプリを制御する
  • 端末の状態を確認する
  • 紛失時に遠隔ロックや遠隔消去を行う
  • 必要に応じて業務データやアクセス権を失効させる

遠隔操作は端末の通信状態などに左右されるため、端末暗号化、認証、アクセス権失効、速やかな紛失報告も組み合わせます。

9.暗号化消去:鍵をサニタイズする

暗号化消去(CE)は、暗号化された対象データの機密性を保護する暗号鍵をサニタイズし、復号後の対象データを回復することを実行困難にする消去方法です。

有効性を考えるときは、次を確認します。

  • 対象データが適切に暗号化されている
  • 暗号方式・実装が適切である
  • 対象データを復号可能にする鍵が適切にサニタイズされる
  • 平文コピーや利用可能な鍵の複製が別に残っていない
  • 処理結果を確認できる

単に「鍵を一つ削除すれば全コピーを消去できる」とは限りません。外部の鍵管理やバックアップ等に利用可能な鍵が残れば、対象データを復号できる可能性があります。

NIST SP 800-88 Rev.2では、暗号化消去をPurgeに用いられる技術として扱い、鍵のサニタイズや暗号実装などの条件を詳しく示しています。

10.科目Bでの使われ方

  1. 何から守るのか

消失、書換え、漏えい、持出し、紛失、廃棄後の残存のどれか

  1. 目的に合う手段か

バックアップ、WORM、マスキング、DLP、MDM、暗号化消去を取り違えていないか

  1. 同じ事故で一緒に影響を受けないか

同じ装置、場所、管理権限へコピーを集中させていないか

  1. 対策後の確認があるか

復元、設定、遠隔操作、消去の結果を確認しているか

「コピーがある」「暗号化している」「管理製品を導入した」という事実だけで、対策が完成したとは判断しません。

担当者としては、導入済みの対策が何から守るものかを確認し、対策後に残る弱点を洗い出します。バックアップの保管先や消去の方法を変える必要があると判断した場合は、独断で決めず、業務への影響とあわせて上位者や運用担当部署へ報告します。端末の遠隔消去や委託先への加工データ提供に関わる場合は、契約担当者と協力して条件を確認します。

よくある取り違え

誤った考え方 正しい整理
前回のバックアップ以降を取得するのが差分 前回以降は増分、直近のフル以降は差分
ミラーリングがあればバックアップは不要 誤削除や暗号化も複製される可能性がある
同じディスクへ三世代保存すれば3-2-1 媒体や場所を分散する
WORMが自動的にバックアップを作成する 保存済みデータの変更・削除を制限する
ファイル名を変えればマスキングになる データ自体を加工する
k-匿名化は暗号鍵をk個へ分割する 準識別子の同じ組合せをk件以上にする
MDMの遠隔消去だけで紛失対策は完了 暗号化・認証・失効・報告も組み合わせる
鍵を一つ消せば全コピーを暗号化消去できる 利用可能な鍵や平文コピーの残存も確認する

まとめ

  • 増分は前回のバックアップ以降、差分は直近のフル以降の変更分を取得する
  • 多重化とバックアップは目的が異なる
  • 3-2-1ではコピー・媒体・場所を分散する
  • WORMは保存済みデータの変更・削除を制限する
  • データマスキングとk-匿名化は、実データの利用・公開リスクを下げる
  • DLPは機密情報の不適切な持出し、MDMはモバイル端末管理を支援する
  • 暗号化消去は、対象データを保護する鍵のサニタイズを利用する
  • 科目Bでは目的に合う手段か、対策後に何が残るかを確認する

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  • C5-T05:物理的対策
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  • C6-T06:事業継続とBCP
  • C8-T03:第三者提供と加工情報

本記事は、2026年8月3日時点のSGシラバスVer.4.1を基準に作成しています。

参考資料

  • IPA「情報セキュリティマネジメント試験(レベル2)シラバス Ver.4.1」
  • CISA「Data Backup Options」
  • CISA「Level Up Your Defenses—Four Cybersecurity Best Practices for Businesses」
  • NIST SP 800-88 Rev.2「Guidelines for Media Sanitization」
  • NIST SP 800-124 Rev.2「Guidelines for Managing the Security of Mobile Devices in the Enterprise」
  • NIST SP 800-188「De-Identifying Government Datasets: Techniques and Governance」

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