この単元の標語:当期純利益は、損益勘定から繰越利益剰余金へ振り替える。
① このページで学ぶこと
- 当期純利益が決算後にどこへ振り替えられるのかがわかる
- 「繰越利益剰余金」が利益の累積的な増減を記録する純資産の勘定であることを説明できる
- 当期純利益を振り替える仕訳が切れるようになる
- 当期純損失(赤字)だった場合の仕訳が切れるようになる
- 資本金と繰越利益剰余金の違いを、何に基づく純資産かという観点で説明できる
② 基礎概念
損益勘定とは
決算になると、1年分の収益と費用は損益という勘定に集められます。
損益勘定で収益と費用をぶつけ合った差額が、その期の当期純利益です。収益より費用が大きければ当期純損失(赤字)になります。
なお、収益と費用を損益勘定へ集める手続きそのもの(収益振替・費用振替)は、C15-T06「帳簿の締切り」で通しで学びます。この単元では「損益勘定に集計が済んだところから先」を扱います。
繰越利益剰余金とは
さて、この当期純利益は決算のあと、どこへ行くのでしょうか。
答えが、この単元の主役、繰越利益剰余金です。
繰越利益剰余金は、利益の累積的な増減を記録する純資産の勘定科目です。5要素のうち純資産に属します。
「累積的な増減」と書いたのは、増えるだけの勘定ではないからです。当期純利益が生じれば増え、当期純損失が生じれば減り、配当を行えば減ります(配当は C10-T03 で学びます)。
毎年の利益を積み上げていく「貯金箱」とイメージすると分かりやすいのですが、実際に同額の現金が社内に貯められているという意味ではありません。利益は在庫や固定資産など、さまざまな形になっています。
③ 仕組み・理由
なぜ当期純利益を繰越利益剰余金へ振り替えるのか
理由は2つあります。
理由1:損益勘定は1年ごとに空にするから
収益と費用は当期の成績を表す勘定なので、次期へ繰り越しません。翌期の成績と混ざらないよう、決算のたびに損益勘定の残高をゼロにして締め切ります。そのために、差額(当期純利益)をどこかへ振り替える必要があります。
理由2:当期純利益は純資産の増加要因だから
当期純利益は、その期の活動によって会社の純資産が増えた分を表します。したがって振替先は純資産の勘定でなければならず、その受け皿が繰越利益剰余金です。
まとめると、損益勘定を締め切る必要があり(理由1)、その差額は純資産の増加要因である(理由2)——だから当期純利益を繰越利益剰余金へ振り替えるのです。
なお、繰越利益剰余金の残高がのちに配当の財源となりますが、配当は C10-T03 の別論点です。
資本金と繰越利益剰余金の違い
ここで大切なのが、C10-T01 との対比です。
| 勘定科目 | 内容 |
|---|---|
| 資本金 | 株主からの出資に基づく純資産 |
| 繰越利益剰余金 | 利益の累積的な増減を記録する純資産 |
どちらも純資産ですが、由来が違います。当期純利益を資本金に振り替えてはいけません。
初学者向けの言い方をすれば「元手と利益は別」ということですが、正確には上の表のとおり、何に基づく純資産かで区別します。
損益計算書と貸借対照表は、ここでつながっている
この振替には、もうひとつ大きな意味があります。
損益計算書の最終行に並ぶ当期純利益は、繰越利益剰余金を増加させる要因の1つであり、この決算振替を通じて貸借対照表の純資産へ反映されます。2つの財務諸表は、この1本の仕訳でつながっているのです。
ここで注意したいのは、当期純利益がそのまま繰越利益剰余金の残高になるわけではないという点です。繰越利益剰余金には前期からの繰越額があり、配当(C10-T03)によって減ることもあります。当期純利益は、その増減要因の1つです。
決算全体の見取り図として、この関係を頭に置いておいてください。財務諸表そのものの作り方は C15-T02〜T04 で学びます。
④ 基本例
場面1:当期純利益が出た場合
×2年3月31日、青森商事株式会社は決算をむかえた。当期の収益総額は ¥8,500,000、費用総額は ¥7,300,000 であり、当期純利益 ¥1,200,000 を損益勘定から繰越利益剰余金勘定へ振り替えた。
場面2:当期純損失が出た場合
×2年3月31日、弘前物産株式会社は決算をむかえた。当期の収益総額は ¥6,000,000、費用総額は ¥6,400,000 であり、当期純損失 ¥400,000 を損益勘定から繰越利益剰余金勘定へ振り替えた。
⑤ 仕訳例:思考の手順つき
場面1:当期純利益の振替
- 取引を読む:損益勘定で確定した当期純利益 ¥1,200,000(収益 8,500,000 − 費用 7,300,000)を、繰越利益剰余金勘定へ振り替える。
- 金額を計算する:8,500,000 − 7,300,000 = ¥1,200,000
- 勘定科目を決める:締め切る側 → 損益/振替先 → 繰越利益剰余金
- 5要素と増減を確認する:当期純利益は純資産の増加要因なので、繰越利益剰余金は増加。
- 借方・貸方を決める:純資産の増加は貸方。繰越利益剰余金が貸方なので、相手科目の損益は借方。
- 金額を記入する:どちらも ¥1,200,000
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 損益 | 1,200,000 | 繰越利益剰余金 | 1,200,000 |
損益勘定の貸方残高を借方で消し、同額を繰越利益剰余金の貸方へ振り替える、という向きです。
場面2:当期純損失の振替
当期純損失が生じると繰越利益剰余金が減少するため、繰越利益剰余金を借方、損益を貸方に振り替えます。
仕訳の向きが純利益のときとちょうど逆になります。
金額の確認:費用 6,400,000 − 収益 6,000,000 = 純損失 ¥400,000
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 繰越利益剰余金 | 400,000 | 損益 | 400,000 |
⑥ 間違いやすいポイント3つ
1.純利益なのに貸借を逆にしてしまう
「利益=良いこと=借方?」のような感覚で書くと逆になります。
判断の軸は繰越利益剰余金の側に置きましょう。当期純利益は純資産の増加要因 → 繰越利益剰余金が増加 → 純資産の増加は貸方。ここさえ固定すれば、相手の損益は自動的に借方です。当期純損失なら逆向きで、繰越利益剰余金の減少=借方です。
2.資本金へ振り替えてしまう
同じ純資産だからと、貸方を資本金にする誤りが多く見られます。
資本金は株主からの出資に基づく純資産であり、当期純利益の振替先ではありません。当期純利益の振替先は、あくまで繰越利益剰余金です。
3.「決算整理仕訳」だと思ってしまう
この振替は、売上原価の算定や減価償却のような決算整理仕訳ではなく、決算整理が終わったあとの帳簿の締切り手続きの一部です。
位置づけを混同すると、精算表問題(C15-T01)で「どの段階の処理か」を問われたときに迷います。順番は次のとおりです。
決算整理 → 損益勘定へ集計 → 純利益を繰越利益剰余金へ振替 → 締切り
⑦ 試験での問われ方
第1問(仕訳問題)
「当期純利益(または純損失)を振り替えた」という一文で問われるほか、収益総額と費用総額が与えられて自分で純損益を算定させる形もあります。
第2問(勘定記入)
繰越利益剰余金勘定の記入問題で問われることがあります。前期からの繰越額に当期純利益が加わり、配当(C10-T03)で減る、という1年の流れを理解しておきたいところです。
第3問(決算総合問題)
損益計算書の当期純利益と、貸借対照表の繰越利益剰余金がつながっていることが前提になります。精算表・財務諸表の中での扱いは C15-T01〜T04 であらためて学びます。
⑧ まとめ
| 場面 | 借方 | 貸方 | 考え方 |
|---|---|---|---|
| 当期純利益の振替 | 損益 | 繰越利益剰余金 | 当期純利益は純資産の増加要因 |
| 当期純損失の振替 | 繰越利益剰余金 | 損益 | 当期純損失は純資産の減少要因 |
資本金との違い
| 勘定科目 | 内容 |
|---|---|
| 資本金 | 株主からの出資に基づく純資産 |
| 繰越利益剰余金 | 利益の累積的な増減を記録する純資産 |
当期純利益は、損益勘定から繰越利益剰余金へ振り替える。 増加は貸方、減少は借方です。
⑨ 関連問題への導線
- 一問一答:C10-T02「当期純利益の振替」(全12問)
- 仕訳問題:C10-T02「当期純利益の振替」(全7問・初級3問/標準4問)
- 前のテキスト:C10-T01「株式会社の設立と株式の発行(増資を含む)」
- 次のテキスト:C10-T03「剰余金の配当と利益準備金」
- 帳簿の締切り全体:C15-T06「帳簿の締切り(損益振替・次期繰越・繰越試算表)」で手続きの流れを通しで学びます
⑩ 2級への接続
2級では、繰越利益剰余金から任意積立金(新築積立金・別途積立金など)への振替や、株主資本の内訳変動を一覧にした株主資本等変動計算書が登場します。また、資本金・資本剰余金・利益剰余金という純資産の区分も細かくなります。
「何に基づく純資産か」で区別するという3級の考え方が、そのまま2級の純資産の部の骨格になります。

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