① このページで学ぶこと
このページでは、簿記の土台となる貸借平均の原理を学びます。
C02-T02で仕訳の作り方を、C02-T03で元帳への転記操作を確認しました。この単元では、そこで作った記録が持つ「借方合計と貸方合計は必ず一致する」という性質と、その性質で何が確かめられ、何が確かめられないのかを整理します。
- 貸借平均の原理とは何か
- なぜ借方合計と貸方合計が一致するのか
- 1つの仕訳の中に複数の科目がある場合
- 複数の仕訳を集計した場合
- 貸借が一致しないときに何を疑うか
- 貸借が一致していても発見できない誤りがあること
- この原理が試算表へどうつながるか
② 貸借平均の原理とは
貸借平均の原理とは、
借方に記録した金額の合計と、貸方に記録した金額の合計は一致する
という簿記の基本的な性質です。簡潔に表すと、
借方合計=貸方合計
となります。
たとえば、銀行から300,000円を借りて普通預金口座に入金された取引は、
(借)普通預金 300,000円 / (貸)借入金 300,000円
と仕訳します。借方300,000円・貸方300,000円で一致しています。
③ なぜ一致するのか|1つの取引を2つの側面から記録するから
貸借が一致するのは偶然ではありません。複式簿記が、1つの取引を必ず2つの側面から記録する仕組みだからです。
先ほどの借入れでは、同時に次の2つが起きています。
- 普通預金という資産が300,000円増えた
- 借入金という負債が300,000円増えた
これは別々の出来事ではなく、同じ300,000円という1つの取引を、受け取った側と負担した側の両面から見たものです。同じ金額を左右に書き分けているのですから、合計が一致するのは当然といえます。
ここで1つ注意があります。貸借が一致する根拠は、この「2面記録の仕組み」であって、会社の資産が負債より多いことではありません。借金のほうが財産より多い会社であっても、複式記入の形式に従って借方・貸方へ同額を記録しているかぎり、借方合計と貸方合計は一致します。貸借対照表の「資産=負債+純資産」という関係とは、別の話として区別しておきましょう(詳しくは⑧)。
④ 科目の数はそろっていなくてよい
基本的な仕訳は「借方1科目・貸方1科目」の形が多いため、借方と貸方の科目の個数まで同じでなければならないと誤解しがちです。
そろえる必要があるのは科目の数ではなく、金額の合計です。
たとえば、商品を150,000円で販売し、代金のうち50,000円を現金で受け取り、残額を掛けとした取引では、
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 50,000円 | 売上 | 150,000円 |
| 売掛金 | 100,000円 |
となります。借方は2科目、貸方は1科目ですが、
- 借方合計:50,000円+100,000円=150,000円
- 貸方合計:150,000円
で一致しています。このように、片側に複数の科目が並ぶ仕訳を複合仕訳といいます。複合仕訳でも原理は変わりません。
⑤ 複数の仕訳を集めても一致する
貸借平均の原理は、1本の仕訳の中だけで成り立つ性質ではありません。
1本1本の仕訳がそれぞれ貸借一致しているのなら、それらをすべて集計した合計も一致します。
次の3つの取引で確かめてみましょう。
| 取引 | 仕訳 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|---|
| 株主から400,000円の払込みを受け、全額を資本金とした | (借)普通預金/(貸)資本金 | 400,000円 | 400,000円 |
| 銀行から250,000円を借り入れた | (借)普通預金/(貸)借入金 | 250,000円 | 250,000円 |
| 事務所の家賃80,000円を普通預金から支払った | (借)支払家賃/(貸)普通預金 | 80,000円 | 80,000円 |
| 合計 | 730,000円 | 730,000円 |
借方合計730,000円、貸方合計730,000円。個々の仕訳で貸借がそろっているため、いくつ積み重ねても全体の合計は一致します。
この性質があるからこそ、記録全体を集計して一致を確かめるという点検方法が成り立ちます。
⑥ 貸借が一致しないときに疑うこと
集計した結果、借方合計と貸方合計が食い違ったなら、記録・転記・集計のどこかに誤りがないか確認します。
貸借の不一致として現れやすいのは、次のような記録・転記・集計上の誤りです。
- 借方または貸方の一方だけ、金額を書き間違えた
- 仕訳のうち片側の科目を書き落とした
- 複合仕訳で、片側の科目を1つ拾い忘れた
- 元帳へ転記するときに、片側だけ記録した
- 借方・貸方の合計を集計するときに加減算を誤った
不一致に気づいたときは、金額を書き換えて無理に合わせるのではなく、どの記録が誤っているのかを探すことが先です。
なお、元帳へ正しく転記する手順そのものはC02-T03で、集計した表から誤りを探す具体的な進め方はC13-T01で扱います。
⑦ 貸借が一致していても、正しいとは限らない
ここが本単元でいちばん重要な点です。
貸借が一致していることは、仕訳の内容まで正しいことを意味しません。
たとえば、事務用の備品180,000円を現金で購入した取引で、本来は
(借)備品 180,000円 / (貸)現金 180,000円
とすべきところを、
(借)消耗品費 180,000円 / (貸)現金 180,000円
と記録してしまったとします。勘定科目を取り違えていますが、借方180,000円・貸方180,000円で貸借は一致したままです。合計を確かめるだけでは、この誤りは見つけられません。
同じように、次のような誤りも貸借が一致したまま紛れ込みます。
| 誤りの種類 | 貸借一致の確認で気づけるか |
|---|---|
| 片側だけ金額を間違えた | 気づける(合計が食い違う) |
| 片側の科目を書き落とした | 気づける |
| 同じ金額のまま勘定科目を取り違えた | 気づけない |
| 取引まるごと仕訳を書き忘れた | 気づけない(両側とも欠ける) |
| 同じ仕訳を二重に記録した | 気づけない(両側とも二重) |
つまり、貸借一致の確認は記録の点検として欠かせない手続きですが、それだけで正しさを保証するものではありません。金額のつり合いは見ていても、勘定科目が適切かどうかまでは見ていないからです。
仕訳を確認するときは、
- 勘定科目は適切か
- 借方・貸方の位置は正しいか
- 金額は正しいか
- 借方合計と貸方合計は一致しているか
を分けて確かめます。4だけで済ませないことが大切です。
⑧ 「借方合計=貸方合計」と「資産=負債+純資産」は別の関係
似た形をしているため混同しやすいのですが、この2つは意味が異なります。
| 借方合計=貸方合計 | 資産=負債+純資産 | |
|---|---|---|
| 何の関係か | 複式記入の形式から生じる性質 | 一定時点の財政状態を表す貸借対照表の関係 |
| 対象 | 各仕訳と、それらを集計した記録 | 貸借対照表に表示される資産・負債・純資産 |
| 表れる場面 | 借方・貸方へ同額を記録する各仕訳とその集計 | 一定時点の貸借対照表 |
貸借平均の原理は、「1つの取引を借方・貸方の両側に同額で記録する」という複式記入の形式から生じる性質です。会社の資産と負債の大小とは関係がありません。
一方、「資産=負債+純資産」は、一定時点の会社の財政状態を表す貸借対照表の構造を示す関係です。決算では、収益・費用の結果を反映したうえで、その時点の資産・負債・純資産として表されます。両者は成り立つ理由が異なるため、同じものとして説明しないよう注意してください。
⑨ 試算表への接続
貸借平均の原理は、後に学ぶ試算表の土台になります。
各勘定の記録を1枚の表に集計したとき、借方の総計と貸方の総計が一致するはずだ——という見通しが立つのは、そもそも1本1本の仕訳が貸借一致で作られているからです。
そして⑦で見たとおり、集計が一致したからといってすべてが正しいとは限りません。この「点検できること」と「点検できないこと」の線引きも、そのまま試算表に引き継がれます。
試算表の種類・作り方・そこから誤りを探す具体的な手順は、C13-T01で詳しく扱います。この単元では、その土台となる原理を理解できていれば十分です。
⑩ この単元と他の単元の境界
- 仕訳を元帳へ転記する操作(借方は借方へ・転記漏れ) → C02-T03
- 合計試算表・残高試算表の作成、勘定残高の集計、試算表からの誤り発見 → C13-T01
- 誤って記録した仕訳を訂正する具体的な方法 → C16-T01
- 帳簿体系、摘要欄、諸口 → C11-T01
この単元は、それらすべての前提となる原理の理解を担当します。
⑪ まとめ
- 借方合計=貸方合計——これが貸借平均の原理
- 一致するのは、1つの取引を2つの側面から同額で記録するから
- 科目の数ではなく、金額の合計がそろっていればよい(複合仕訳も同じ)
- 個々の仕訳が一致していれば、集計しても一致する
- 一致しないときは、記録・転記・集計のどこに誤りがあるか確認する
- ただし、一致していても内容が正しいとは限らない(科目の取り違え・記入漏れ・二重記録)
- この原理が、試算表による点検の土台になる
仕訳を書いたら貸借の合計を確かめる習慣をつけましょう。ただし、それは確認の一部であって、確認のすべてではありません。
⑫ 2級への接続
2級では、1つの仕訳に複数の借方科目・貸方科目が並ぶ複雑な取引が増えます。それでも借方合計=貸方合計という原理は変わりません。
また、扱う金額が大きく処理が複雑になるほど、貸借一致で発見できる誤りと、できない誤りを切り分けて考える力が重要になります。3級の段階で「合計が合った=正しい」と早合点しない姿勢を身につけておくと、上位級の総合問題で役立ちます。

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