剰余金の配当は「決議」と「支払」の2段階です

この単元の標語:配当は2段階。決議で未払配当金を計上し、支払で未払配当金を消し込む。利益準備金の積立てがある場合は、決議の仕訳に利益準備金も加える。


① このページで学ぶこと

  • 剰余金の配当が、いつ・どこで決まるのかがわかる
  • 配当を決議したときの仕訳が切れるようになる
  • 利益準備金の積立てを伴う場合の複合仕訳が切れるようになる
  • 「未払配当金」と「未払金」の違いを説明できる
  • 配当金を実際に支払ったときの仕訳が切れるようになる

② 基礎概念

剰余金の配当とは

剰余金の配当とは、会社が剰余金を株主へ分配することです。

この単元では、繰越利益剰余金を財源として株主へ配当する、3級の基本形を扱います。剰余金には他の種類もありますが、それらを財源とする配当は2級の範囲です。

剰余金の配当は、基本的に株主総会の決議によって決まります。

未払配当金とは

未払配当金(負債)は、配当の支払いを決めたが、まだ支払っていない金額です。株主に対する配当の支払義務を表します。

利益準備金とは

利益準備金は、純資産に属する勘定科目です。

剰余金の配当を行うとき、会社法に基づいて一定の場合に計上します。処理としては、繰越利益剰余金を減らして利益準備金を増やす、純資産の内部での振替です。

ここは誤解しやすいところなので、はっきり書いておきます。利益準備金を計上したからといって、同額の現金預金が別途保管されるわけではありません。 動いているのは純資産のうちの区分であって、現金預金ではないのです。

なお、本教材では、利益準備金の積立額そのものを算定する論点は扱いません。 利益準備金を含む仕訳を問う場合は、必要な積立額を問題文で示します。積立額の算定は2級で学習する範囲です。


③ 仕組み・理由

なぜ決議と支払いが分かれるのか

株主総会で「1株あたり○円配当します」と決めた瞬間には、まだお金は動いていません。決議によって株主への支払義務が確定するだけです。

義務が確定したら計上する——これは C05 の未払金や C08 の税金で繰り返してきた考え方です。だから決議時には未払配当金(負債)を立て、後日の支払時にお金を減らします。

これが本単元の主軸です。配当は決議と支払の2段階と覚えてください。

配当は費用ではない

ここで押さえておきたいことがあります。

株主への配当は、会社が利益を得るために負担した費用ではありません

配当は費用の発生ではなく、剰余金を株主へ分配する取引なので、繰越利益剰余金を減少させます。

そのため、

(借)配当金 という費用

のような処理は行いません。「お金が出ていくから費用」と考えてしまうと、この単元は最初でつまずきます。

なぜ利益準備金を計上するのか

剰余金の配当に際しては、法令に基づき、一定の場合に準備金を計上します。

これが理由のすべてです。会社の判断で積むかどうかを決めるものではなく、法令上の要請にしたがった処理だと理解してください。

補足すると、この制度の趣旨は債権者保護・会社財産の維持にあります。剰余金がすべて株主へ分配されてしまうと、会社にお金を貸している銀行や仕入先の立場が弱くなるためです。ただし試験対策としては、まず「法令に基づいて計上する」という処理を押さえることが先です。

利益準備金の積立てがあるときの構造

利益準備金の積立てを伴う配当決議では、1つの仕訳に3つの科目が登場します。

繰越利益剰余金(減少) / 未払配当金(増加) + 利益準備金(増加)

このとき、

繰越利益剰余金の減少額 = 未払配当金 + 利益準備金

という「合計=内訳」の関係になります。この形を「3点セット」と呼ぶことがありますが、すべての配当が3科目になるわけではありません。 利益準備金の積立てがない配当決議は、繰越利益剰余金と未払配当金の2科目だけです。


④ 基本例

×2年6月25日、青森商事株式会社は株主総会において、繰越利益剰余金(残高 ¥1,240,000)を財源とする配当 ¥800,000 を決議した。あわせて、利益準備金 ¥80,000 を積み立てる。

×2年7月10日、上記の配当金 ¥800,000 を普通預金口座から支払った。

決議日(6月25日)と支払日(7月10日)の2段階に分かれている点に注目してください。


⑤ 仕訳例:思考の手順つき

決議時(×2年6月25日)

  1. 取引を読む:配当 ¥800,000 と、利益準備金の積立て ¥80,000 が決議された。
  2. 金額を計算する:繰越利益剰余金の減少額は 800,000 + 80,000 = ¥880,000
  3. 勘定科目と5要素を確認する
  • 繰越利益剰余金(純資産):¥880,000 の減少 → 借方
  • 未払配当金(負債):配当の支払義務が ¥800,000 増加 → 貸方
  • 利益準備金(純資産):¥80,000 の増加 → 貸方
  1. 貸借一致を確認して記入する:借方 880,000 = 貸方 800,000 + 80,000
借方科目 金額 貸方科目 金額
繰越利益剰余金 880,000 未払配当金 800,000
利益準備金 80,000

この結果、繰越利益剰余金の残高は 1,240,000 − 880,000 = ¥360,000 になります。

なお、この仕訳のうち利益準備金 ¥80,000 の部分は、繰越利益剰余金から利益準備金への純資産内部の振替です。純資産の合計額はこの分だけでは変わりません。純資産が減るのは、配当として株主へ分配される ¥800,000 の部分です。

支払時(×2年7月10日)

確定していた支払義務(未払配当金)を果たし、普通預金が減ります。

借方科目 金額 貸方科目 金額
未払配当金 800,000 普通預金 800,000

支払時に動くのは ¥800,000 だけです。利益準備金 ¥80,000 は株主への分配ではなく純資産内部の振替なので、支払の対象になりません。


⑥ 間違いやすいポイント3つ

1.未払金と混同する

株主への配当の支払義務には、専用の未払配当金を使います。

未払金は、商品以外の物品やサービスの代金の未払い(C05-T05)に使う科目です。どちらも「あとで払う義務=負債」ですが、相手と原因が違います。問題文に「配当」とあれば未払配当金、と専用科目を優先してください。

2.借方の金額を配当額だけにしてしまう

利益準備金の積立てがある場合、繰越利益剰余金の減少額は配当と準備金の合計(④の例では ¥880,000)です。

¥800,000 だけ減らすと、貸方に利益準備金 ¥80,000 が浮いてしまい貸借が合いません。逆に言えば、貸借一致の検算がこのミスを自動検知してくれます。「合計=内訳」を意識しましょう。

3.決議時にお金を減らしてしまう

決議の日には、まだ1円も支払っていません。貸方を普通預金や現金にするのは、決議と支払の2段階を混同した誤りです。

「確定してから計上、支払いはそのとき」——決議時は未払配当金、支払時にはじめて預金が動きます。


⑦ 試験での問われ方

第1問(仕訳問題)

決議時の仕訳支払時の仕訳が問われます。利益準備金の積立てを伴う複合仕訳の形もあります。

1株あたりの配当額と発行済株式数が与えられ、配当総額を自分で計算させる形もあります。

第2問(勘定記入)

繰越利益剰余金勘定の記入問題では、「前期繰越 + 当期純利益 − 配当・準備金」という1年の流れの中で登場することがあります。C10-T02 の振替と合わせて追えるようにしておきたいところです。

第3問(決算総合問題)

配当そのものは決算整理では扱いませんが、貸借対照表の純資産の部に繰越利益剰余金・利益準備金が表示されます。


⑧ まとめ

場面 借方 貸方 ポイント
配当の決議(準備金の積立てなし) 繰越利益剰余金 未払配当金 2科目
配当の決議(準備金の積立てあり) 繰越利益剰余金(合計額 未払配当金 + 利益準備金 借方=貸方2つの合計
配当の支払い 未払配当金 普通預金・当座預金など 動くのは配当額のみ

配当は2段階。決議で未払配当金を計上し、支払で未払配当金を消し込みます。 利益準備金の積立てがある場合は、決議の仕訳に利益準備金も加えます。

配当は費用ではありません。 繰越利益剰余金の減少です。

利益準備金は純資産の勘定科目です。 繰越利益剰余金からの純資産内部の振替であって、現金預金を別途保管する処理ではありません。


⑨ 関連問題への導線

  • 一問一答:C10-T03「剰余金の配当と利益準備金」(全11問)
  • 仕訳問題:C10-T03「剰余金の配当と利益準備金」(全5問・初級2問/標準2問/応用1問)
  • 前のテキスト:C10-T02「当期純利益の振替(損益振替・繰越利益剰余金)」
  • 次のテキスト:C11-T01「主要簿(仕訳帳と総勘定元帳・転記)」

⑩ 2級への接続

2級では、準備金の積立額を自分で算定します。 具体的には、配当額の10分の1と、資本準備金・利益準備金の合計が資本金の4分の1に達するまでの不足額を考慮して、必要な準備金額を算定します。3級では、この算定は行いません。

また、その他資本剰余金を財源とする配当中間配当も登場し、学習範囲が広がります。

3級で身につけるべきは、決議と支払の2段階という構造と、配当は費用ではなく剰余金の減少であるという理解です。この2点が、2級の純資産の学習の土台になります。


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