① このページで学ぶこと
このページでは、当座預金の残高を超えて支払いができる仕組みである当座借越を学びます。
- 当座借越とは何か(当座借越契約と借越限度額)
- 残高を超えて支払ったとき、期中はどう仕訳するか
- 当座預金勘定が貸方残高になる意味
- 借越の状態にある口座へ入金があったときの処理
- 当座預金勘定の記入から貸方残高(=実質的な借越額)を求める方法
この単元でいちばん大切なのは、次の一点です。
本教材で扱う3級の基本パターンでは、期中は当座預金勘定でそのまま処理し、貸方残高になっても当座預金勘定で管理します。
問題文で処理方法や勘定科目が個別に指定されている場合は、その指示を優先します。
決算日にまだ貸方残高が残っていた場合の処理は、C14-T09「一時的な勘定等の決算整理」で扱います。ここでは期中の処理を確実にしておきましょう。
② 当座借越とは
当座借越とは、当座預金の残高を超えて支払いを行ったときに生じる、銀行に対する債務です。
通常、預金は残高の範囲でしか引き出せません。しかし銀行と当座借越契約を結んでおくと、あらかじめ決められた金額(借越限度額)まで、残高を超えて支払うことができます。
たとえば、当座預金の残高が30,000円しかないときに45,000円を支払うと、
45,000円 − 30,000円 = 15,000円
だけ残高を超えます。この15,000円は、当座借越契約により銀行から借り入れている金額、つまり実質的な借入れです。
借越限度額が100,000円であれば、この15,000円は限度額の範囲内なので、支払いは問題なく行われます。
③ 期中の処理 ― 当座預金勘定1本で続ける
ここが、この単元の中心です。
本教材で扱う3級の基本パターンでは、残高を超える支払いをしても、期中は当座借越勘定へ振り替えず、通常の支払いと同じように当座預金勘定で全額を処理します。
先ほどの例(残高30,000円のときに買掛金45,000円を当座預金口座から支払った)であれば、
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 45,000 | 当座預金 | 45,000 |
これで完成です。
ここで貸方を「当座預金 30,000・当座借越 15,000」と分けると、本教材の基本パターンとは異なる処理になります。この基本パターンでは、期中には分けません。
なぜ分けなくてよいのでしょうか。理由は2つあります。
- 期中の入出金を当座預金勘定に集約して記録するからです。入金によって貸方残高が減少したり、借方残高へ戻ったりする動きを、同じ勘定で追えます。
- 決算日に貸方残高が残っている場合は、その実態に合わせて負債へ振り替えるからです。
本教材では、期中は当座預金勘定で記録し、決算日に残った貸方残高を負債へ振り替えるという基本パターンで整理します。
④ 当座預金の貸方残高が意味するもの
当座預金は資産の勘定なので、増えれば借方、減れば貸方に記入します。したがって通常は借方残高です。
ところが、支払いが預金残高を超えると、貸方の合計が借方の合計を上回り、貸方残高になることがあります。
この貸方残高は、「会社の預金がマイナスになった」というより、
銀行から、その金額だけ一時的に借りている状態
と読むのが正確です。会社は、その金額を銀行へ返す義務を負っています。
この読み方を身につけておくと、決算でなぜ負債へ振り替えるのかが自然に理解できます。
⑤ 借越状態の口座に入金があったら
借越の状態にある当座預金口座に入金があった場合も、仕訳は通常の入金とまったく同じです。特別な処理は必要ありません。
先ほどの続きで、当座預金勘定が15,000円の貸方残高になっているところへ、売掛金60,000円が振り込まれたとします。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 当座預金 | 60,000 | 売掛金 | 60,000 |
これにより、当座預金の残高は
60,000円 − 15,000円 = 借方残高 45,000円
となります。借りていた15,000円がまず解消され、残りの45,000円が会社の預金になった、と考えることができます。
本教材の基本パターンでは、ここでも「当座借越 15,000・当座預金 45,000/売掛金 60,000」と分けません。期中の入金は当座預金勘定で記録するためです。
⑥ 当座預金勘定から貸方残高を求める
当座預金がいま借越の状態かどうかは、借方の合計と貸方の合計を比べることで判断します。
| 比較 | 残高の向き | 意味 |
|---|---|---|
| 借方合計 > 貸方合計 | 借方残高 | 預金が残っている(通常の状態) |
| 借方合計 < 貸方合計 | 貸方残高 | 借越の状態。差額が実質的な借越額 |
手順は3つです。
- 借方合計を出す ── 期首の借方残高と、期中の入金をすべて足す
- 貸方合計を出す ── 期中の支払いをすべて足す
- 差額をとる ── 貸方合計が大きければ、その差額が貸方残高
検算には、次の形が使えます。
借方合計 + 貸方残高 = 貸方合計
たとえば、期首の借方残高80,000円、入金30,000円、支払いが120,000円と25,000円であれば、
- 借方合計 = 80,000 + 30,000 = 110,000円
- 貸方合計 = 120,000 + 25,000 = 145,000円
- 貸方残高 = 145,000 − 110,000 = 35,000円
- 検算:110,000 + 35,000 = 145,000 ✓
この35,000円が、実質的に銀行から借りている金額です。
「残高」という言葉だけで借方残高と決めつけず、必ず両側の合計を比べてください。
⑦ 決算日をまたぐとどうなるか(予告)
決算日を迎えた時点で当座預金勘定がまだ貸方残高であれば、資産のマイナスのまま貸借対照表に載せることはしません。 実態は銀行への債務なので、負債へ振り替えます。
このとき使う負債の勘定が、この単元の名前にもなっている当座借越です。
| 勘定科目 | 分類 | 増える側 |
|---|---|---|
| 当座預金 | 資産 | 借方 |
| 当座借越 | 負債 | 貸方 |
「借越」という言葉に引きずられて当座借越を借方の科目だと思わないでください。当座借越は負債であり、増えるのは貸方です。
なお、問題文に「貸方残高は借入金勘定へ振り替える」といった指定がある場合は、その指定に従います。
この振替の仕訳そのものと、翌期首に元へ戻す再振替は、C14-T09「一時的な勘定等の決算整理(現金過不足・仮払仮受・当座借越振替)」で扱います。 この単元では、「決算では負債へ振り替える必要がある」という理由まで理解しておけば十分です。
⑧ 間違いやすいポイント3つ
1.残高を超えた瞬間に当座借越を仕訳へ登場させてしまう
注意したい誤りです。「買掛金 45,000/当座預金 30,000・当座借越 15,000」と分けてしまうと、本教材の基本パターンとは異なります。本教材では期中は当座預金勘定で全額を記録し、決算日に残った貸方残高を負債へ振り替えます。
2.当座借越を資産だと思ってしまう
当座預金に関係する科目なので資産だと考えてしまいがちですが、当座借越は銀行へ返す義務を表すため負債です。名称ではなく、意味で判断してください。
3.「残高」という言葉だけで借方残高と決めつける
⑥の計算では、借方合計と貸方合計を比べるまで残高の向きは決まりません。貸方合計のほうが大きければ貸方残高であり、その差額が借越額です。
⑨ この単元と他の単元の境界
| 内容 | 扱う単元 |
|---|---|
| 当座預金の性格(決済専用・無利息)、残高の範囲内での通常の支払い | C04-T02「普通預金・当座預金」 |
| 当座借越契約、期中の処理、貸方残高の意味、貸方残高の算定 | 本単元 C04-T03 |
| 決算日に貸方残高を当座借越(または借入金)へ振り替える仕訳、翌期首の再振替 | C14-T09「一時的な勘定等の決算整理」 |
| 当座預金出納帳で残高欄に「借」「貸」の別を付す形式 | C04-T07「現金・預金関係の補助簿」 |
| 決算整理前残高試算表の読み取り | C13-T01「試算表の基本」 |
⑩ 試験での問われ方
当サイトの第1問形式(仕訳)では、残高を超える支払いを、当座預金1本で仕訳できるかという形が考えられます。当座借越を語群に置いておき、あえて使わせないという出題も想定されます。
第2問形式(勘定記入・補助簿)では、当座預金勘定や当座預金出納帳を読んで、残高が借方・貸方のどちらかを判断させる形につながります。
第3問形式(決算)では、決算整理前残高試算表で当座預金が貸方残高になっている場合に、負債へ振り替える処理が必要になります。その振替仕訳はC14-T09で練習します。
年度差について:当座預金と紙媒体の小切手を組み合わせた取引は、本教材では2026年度受験の方の学習対象とし、2027年度受験の方は対象外として扱います。ただし当座預金・当座借越そのものは両年度とも学習対象です。本単元では小切手を使わない資料だけを用いているため、どちらの年度の方もそのまま学習できます。
⑪ まとめ
| 場面 | 処理 |
|---|---|
| 当座借越契約 | 借越限度額まで、残高を超える支払いができる |
| 残高を超える支払い(期中・本教材の基本パターン) | 借方:買掛金など / 貸方:当座預金(全額) |
| 支払後の当座預金勘定 | 貸方残高になってよい(=実質的な銀行からの借入れ) |
| 借越状態への入金(期中・本教材の基本パターン) | 借方:当座預金 / 貸方:売掛金など(通常どおり) |
| 貸方残高の求め方 | 貸方合計 − 借方合計。検算は「借方合計+貸方残高=貸方合計」 |
| 決算日に貸方残高が残っていたら | 負債(当座借越)へ振り替える → C14-T09 |
流れとして押さえるなら、
残高を超えて支払う → 当座預金が貸方残高になる → 入金があれば貸方残高が減る(入金額が上回れば借方残高へ戻る) → 決算日にまだ貸方残高が残っていたら負債へ振替
という順序です。
⑫ 2級への接続
当座預金は、2級で銀行勘定調整表へ学習がつながります。会社の帳簿上の預金残高と銀行側の残高に差があるとき、記録時点のずれや未処理事項などの原因を整理して一致させる考え方を学びます。
本単元で身につける、
勘定の残高を数字としてだけ見るのではなく、それが借方残高なのか貸方残高なのか、実態は資産なのか負債なのかを判断する
という考え方は、その土台になります。3級ではまず、当座預金が貸方残高になったときにその意味を「銀行からの一時的な借入れ」と読めるようにしておきましょう。

コメント