確率の分野、高校時代の記憶が薄い人ほど身構えがちですが、この記事では、基本情報技術者試験のシラバスに含まれる確率分野のうち、基礎となる計算パターンを扱います。特に使いやすい考え方は2つ、「余事象」と「期待値」(結果に確率を重みとして付けた平均、いわば重み付き平均です)。ただしこの2つを正しく使うには、問題文の条件確認がセットで要ります。
具体的には、試行は独立か、事象は排反か、取り出したものを戻すか、順番や役割を区別するか、同じものを繰り返し選べるか。この確認を飛ばして「とにかく掛ける」と、正しい式を選べないことがあります。順番にやっていきましょう。
最初に整理:事象の関係
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 余事象 | 事象Aが「起こらない」こと |
| 排反 | AとBが同時には起こらない |
| 独立 | Aが起きてもBの確率が変わらない |
| 条件付き確率 | Aが起きたという条件の下でBが起こる確率 |
| 復元抽出 | 取り出したものを戻す |
| 非復元抽出 | 取り出したものを戻さない |
ひとつだけ先に押さえておきたいのが、排反と独立は別の概念だということ。排反は「同時に起こらない」、独立は「片方が起きても確率が変わらない」。P(A)>0かつP(B)>0の2つの事象が排反なら、P(AかつB)=0なのにP(A)×P(B)>0となるため、この2つは独立ではありません。言い換えると、どちらも起こる可能性がある2つの事象が排反なら、一方が起きた時点で他方は起きないので独立ではない、ということです。ごっちゃにすると加法と乗法の使い分けを間違えます。
主戦力1:「少なくとも1回」と来たら余事象
P(Aの余事象) = 1 − P(A)
P(少なくとも1回成功) = 1 − P(成功が0回)
例題:表と裏が同じ確率で出る公平なコインを、各回が互いに独立になるように2回投げる。少なくとも1回は表が出る確率は?
「少なくとも1回」を正面から数えると、「1回目だけ表」「2回目だけ表」「両方表」…と場合分けが増えて面倒です。そこで逆から。「少なくとも1回表」の反対は「1回も表が出ない(2回とも裏)」です。
2回とも裏 = 1/2 × 1/2 = 1/4
少なくとも1回表 = 1 −(1/2)² = 3/4
裏×裏を掛け算できるのは、各回が独立だから。ここは後でもう一度出てきます。
一般化しておくと、独立な試行をn回、1回の成功確率pで行うとき、
P(少なくとも1回成功) = 1 −(1−p)ⁿ
成功確率が回ごとに違っても独立なら 1−(1−p₁)(1−p₂)…(1−pₙ)。稼働率の並列計算——「1−全台が同時に停止する確率」、故障が互いに独立という前提の計算——とまったく同じ発想です。稼働率の記事を読んだ人は、もうこの道具を持っています。
注意:「少なくとも2回」の余事象は「全部失敗」ではない
余事象が「全部失敗」で済むのは「少なくとも1回」のときだけです。「少なくとも2回」の反対は「0回または1回」。一般には、
P(X ≧ k) = 1 − P(X ≦ k−1)
です。「少なくとも」の4文字に反応する前に、反対の事象を文章で書き出す。「『少なくとも2回成功』の余事象は、成功が0回または1回」と書ければ、引き忘れは起きません。「少なくとも」と来たら常に全失敗の確率を引く、ではない点に注意してください。
「または」と「かつ」の公式
余事象と並ぶ基本セットです。
加法定理:P(AまたはB) = P(A) + P(B) − P(AかつB)(排反なら P(A)+P(B))
乗法定理:P(AかつB) = P(A) × P(B|A)(独立なら P(A)×P(B))
条件付き確率:P(B|A) = P(AかつB) ÷ P(A)(ただしP(A)>0)
加法定理の一般形では、重なりP(AかつB)を一度引きます。AとBが排反ならP(AかつB)=0なので、結果として足すだけの形になる、という関係です。
そして大事なのは乗法定理の形。「かつ」の確率は、一般形ではP(A)×P(B|A)、つまり「Aが起きた後の世界でのBの確率」を掛けます。AとBが独立な場合に限り、P(B|A)=P(B)になるので単純な掛け算でOKになる。掛け算する前に、1回目の結果で2回目の確率が変わらないかを確認する。ここが特に確認したいポイントです。
主戦力2:期待値は「重み付き平均」
E[X] = Σ(値 × その値になる確率)
例題:くじを1回引くと、確率0.1で1,000円、確率0.4で100円、残り(確率0.5)はハズレで0円。もらえる金額の期待値は?
1,000×0.1 + 100×0.4 + 0×0.5 = 100 + 40 = 140円
確率の合計が 0.1+0.4+0.5=1 になっていることも確認してください。合計が1にならないときは、場合の数え漏れ・重複・確率設定の誤りのどれかがないか見直します。代表的なミスは、金額を単純平均してしまう((1000+100+0)÷3)パターンです。
期待値の意味:1回の結果は保証しない
期待値は、同じ条件の試行を十分多く繰り返したとき、1回あたりの平均が近づいていく値、と理解できます。1回引いて140円もらえることを保証する値ではありません。公平な6面サイコロの期待値は3.5ですが、3.5の目は存在しないのと同じです。
「受取額」か「利益」かを確認する
さっきのくじの参加費が120円だったら?
期待払戻額:140円
期待利益:140 − 120 = 20円(期待利益 = 期待払戻額 − 固定参加費)
問題が「受取額」「利益」「損失」のどれを聞いているかで、参加費を引くかが変わります。引き忘れ(あるいは引きすぎ)に注意。
ついでに便利な性質をひとつ。E[X+Y] = E[X] + E[Y](期待値の加法性)。これはXとYが独立でなくても成り立ちます。独立性が要るのは確率を掛けるときで、期待値を足すだけなら不要、と覚えておくと役立ちます。
CとPの見分け方:「役割」と「重複」の2チェック
順列(P)と組合せ(C)の見分けは、まず「選ばれたものに役割や順番の区別があるか?」。
- 区別なし(委員を3人選ぶ)→ 組合せC
- 区別あり(会長・副会長・書記を選ぶ)→ 順列P
これに加えてもうひとつ、「同じものを繰り返し選べるか?」も確認します。一般式はこうです(n個の異なるものから、重複を許さずr個を選ぶ場合。0≦r≦n)。「役割ありはP、なしはC」の見分け方も、この重複なしの基本形での話です。
nPr = n! ÷ (n−r)! nCr = n! ÷ {r!(n−r)!} (n! = n×(n−1)×…×1、0!=1)
例題:6人から、同じ役割を担当する当番を2人選ぶ(選ぶ順番は区別しない)。何とおり?
当番に役割の区別はないので組合せ。6C2 = 6×5÷2 = 15とおり
2!で割らずに30とすると、並べ方を重複して数えた値になります。逆に「組合せなら2で割る」と丸暗記するのも危険です。2で割るのは2人選ぶから(2!=2)。3人選ぶなら3!=6で割ります。「AさんとBさん」も「BさんとAさん」も同じ組だから、並べ替えのダブリr!で割る、が正体です。役割ありなら割らずに6×5=30のまま。同じ数字から役割の有無で答えが分かれるので、どちらを求めるのかを最初に確認してください。
重複ありのパターンと「コードvs整数」
例題:4種類の記号で3桁のコードを作る。同じ記号を繰り返してよく、各桁の位置は区別し、先頭の記号にも制限はない。何とおり?
各桁に4通りずつ置けるので 4×4×4 = 4³ = 64とおり
条件を変えると答えが変わります。並べて比較すると:
| 条件 | 計算 | 答え |
|---|---|---|
| 重複あり・順番あり(コード) | 4³ | 64 |
| 重複なし・順番あり | 4P3 = 4×3×2 | 24 |
| 重複なし・順番なし | 4C3 | 4 |
もう一つ確認したいのが「コード」と「整数」の違い。数字0〜3を、同じ数字を繰り返してよいものとして「3桁の整数」を作るなら、先頭に0は置けません。百の位は0以外の3通り、残りは各4通りで 3×4×4 = 48とおり。コードなら64、整数なら48。「コード」「番号」「整数」という言葉は先頭0の扱いを判断する手がかりになりますが、問題文に先頭0の可否が明記されていれば、その条件が最優先です。
(発展:n種類から、同じ種類を何回選んでもよく、選ぶ順番を区別せずにr個選ぶ「重複組合せ」は (n+r−1)Cr。4種類から3個なら6C3=20です。ここは発展内容なので、基本の順列・組合せを理解した後に確認してください。)
「戻す・戻さない」で確率の構造が変わる
くじや玉の問題では、「取り出したものを戻すか」を最初に確認します。
例題:赤3個・白2個の袋から、戻さずに2個続けて取り出す。2個とも赤の確率は?
P(2個とも赤) = P(1回目が赤) × P(2回目が赤|1回目が赤)
= 3/5 × 2/4 = 3/10
2回目の「2/4」は、1回目に赤を取ったという条件の下での確率です。分母は1個取り出したので必ず1減って4になりますが、分子は1回目に何を取ったかで変わります。1回目が赤なら残りは赤2・白2で2回目の赤は2/4、もし1回目が白なら残りは赤3・白1で2回目の赤は3/4。「戻さないなら分子も必ず1減る」ではなく、経路ごとに袋の中身を書き直すのが正確な手順です。
順番を区別しない問題なら、組合せによる別解もあります。
3C2 ÷ 5C2 = 3 ÷ 10 = 3/10(5個から2個選ぶ全10通りのうち、赤2個の選び方は3通り)
戻す場合との比較
戻す(復元抽出)の場合——各回で無作為に取り出し、取り出したものを毎回戻して袋の状態を元に戻すなら——各回は同じ確率で独立に行われます。2個とも赤は 3/5×3/5 = 9/25 です。戻さない(非復元抽出)なら各回は独立ではなく、条件付き確率で 3/10。9/25は、復元抽出の計算を非復元抽出の問題に適用した場合に出る値です。
同じ条件を繰り返すなら二項分布
独立な試行をn回、1回の成功確率pで行うとき、ちょうどk回成功する確率は、
nCk × pᵏ ×(1−p)ⁿ⁻ᵏ
(成立条件:①試行回数nが決まっている、②各試行の結果を成功・失敗の2つに分ける、③各試行が互いに独立、④各試行の成功確率pが同じ)
例題:各回の合格確率が0.8で、結果が互いに独立な検査を3回行う。ちょうど2回合格する確率は?
3C2 × 0.8² × 0.2 = 3 × 0.64 × 0.2 = 0.384
3C2を掛けるのは、「どの1回が不合格になるか」で3通りあるから。2-out-of-3の稼働率計算(記事01)で3を掛けたのと同じ理屈です。「少なくとも2回合格」なら、P(X=2)+P(X=3)と足すか、1−P(X=0)−P(X=1)と余事象で引くか、どちらでも同じ答えになります。
発展:条件の向きが逆ならベイズの定理
「異常なら警告が出る確率」は分かっているのに、聞かれているのは「警告が出たとき異常である確率」——条件の向きが逆の問題は、ベイズの定理です。
P(A|B) = P(B|A) × P(A) ÷ P(B)(ただしP(B)>0)
例題:システムの異常検知で、異常が起きている事前確率は1%。異常なら90%の確率で警告が出るが、正常でも5%の確率で誤警告が出る。警告が出たとき、実際に異常である確率は?
記号で整理すると:P(異常)=0.01、P(正常)=0.99、P(警告|異常)=0.90、P(警告|正常)=0.05
まず警告が出る確率:P(警告) = 0.01×0.90 + 0.99×0.05 = 0.009 + 0.0495 = 0.0585
警告時に異常である確率:0.009 ÷ 0.0585 ≈ 約15.4%
検出率90%という数字だけ見て「警告が出たら90%異常」と答えたくなりますが、実際は15%程度。この例では正常である事前確率が99%と高いため、誤警告の絶対数が本物の警告を上回るんです。条件の向きを取り違えやすいところなので、P(警告|異常)とP(異常|警告)は別物、と区別してください。
解く前の判定フロー
- 全事象と求める事象を確認。「該当する場合の数÷全場合の数」で求めるときは、各結果が同様に確からしいかを確認
- 「少なくとも」なら余事象を文章で書く
- 「または」なら加法定理(排反か確認)、「かつ」なら乗法定理(独立か確認)
- 戻すか戻さないか、順番・役割の区別、重複の可否を確認
- 期待値なら「値×確率」を全結果分。確率の合計=1をチェック
- 最後に割合・百分率・丸め方を確認
代表的なミスまとめ
| ミス | 出てくる誤答 | 対策 | |
|---|---|---|---|
| 「少なくとも2回」でも全部失敗だけ引く | 1回成功の分を引き忘れた値 | 余事象を文章で書き出す | |
| 独立でないのにそのまま掛ける | 条件付き確率を無視した値 | P(A)×P(B | A)で考える |
| 排反と独立の混同 | 加法・乗法の取り違え | 「同時に起こらない」と「確率が変わらない」を区別 | |
| 期待値を単純平均 | 確率無視の値 | 値×確率を合計。確率合計=1を確認 | |
| 参加費の引き忘れ | 利益でなく受取額 | 求めるものが利益か受取額かを確認する | |
| CとPの混同 | 2倍または半分の値 | 役割の区別を自問する | |
| 「組合せは2で割る」と丸暗記 | 3人以上で誤る | 割るのはr!(並べ替えのダブリ) | |
| 重複可否の見落とし | nʳ・nPr・nCrの混同 | 同じものを再利用できるか確認 | |
| コードと整数の混同 | 先頭0の分ズレた値 | 先頭0が許されるか確認 | |
| 「戻さない」の見落とし | 復元抽出として計算した値 | 2回目の袋の中身を書き出す | |
| 「分子も必ず1減る」と機械適用 | 別経路で誤る | 1回目の結果ごとに残数を書く | |
| 二項分布でnCkを忘れる | 成功の並び1通り分だけの値 | 「どの回が成功か」を数える |
仕上げに演習10問どうぞ
演習では、サイコロ、コイン、玉を使った基本問題から、独立事象の同時確率(検査合格×2つ)、故障確率の応用まで。ITの文脈に寄せた確率の使われ方に慣れておくと、セキュリティ分野の計算(記事12でやります)に出てくる関連の計算も理解しやすくなります。
今日のまとめ
- 「少なくとも1回」の余事象は「0回」。「少なくともk回」の余事象は「k−1回以下」。反対の事象を文章で書く
- 「かつ」はP(A)×P(B|A)。独立のときだけP(A)×P(B)。排反と独立は別物
- 期待値は「値×確率」の合計(確率合計=1を確認)。1回の結果は保証しない。利益なら参加費を引く
- 異なるものから重複なしで選ぶ基本形では、役割・順番を区別するならP、しないならC(割るのはr!)。さらに重複の可否と先頭0の扱いを確認
- 毎回戻して袋の状態が元に戻るなら各回は独立、戻さないなら条件付き確率。経路ごとに袋の中身を書き直す
- ちょうどk回成功はnCk×pᵏ(1−p)ⁿ⁻ᵏ(n固定・二値・独立・p一定が条件)。条件の向きが逆ならベイズの定理
次回は「音声・画像のデータ量計算」。単位を確認しながら、掛け算を積み上げていきます。
参考資料
- IPA「基本情報技術者試験(レベル2)シラバス Ver.9.2」
本記事の例題は、基本情報技術者試験の出題範囲及び標準的な確率・組合せの定義を参考に、当サイトで独自に作成したものです。

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