学習のポイント
① 標準原価計算とは
これまでは、実際にかかった原価を集計して製品原価を計算してきました。これを実際原価計算といいます。
標準原価計算では、あらかじめ目標となる原価を定めておき、それを用いて製品原価を計算します。実際にかかった原価と比べることで、目標との差を金額で把握できます。
② 原価標準と標準原価
よく似た2つの用語を、はじめに区別しておきます。
- 原価標準:製品1単位当たりの標準原価です。製品1個をつくるのにいくらかかるべきかを表します。単位は「円/個」です。
- 標準原価:原価標準に生産量を掛けた金額です。単位は「円」です。
標準原価 = 原価標準 × 生産量
たとえば原価標準が1,000円で完成品が800個なら、完成品の標準原価は800,000円です。原価標準は1個当たりの単価、標準原価は金額という関係です。
③ 標準原価カード
原価標準は、原価要素ごとに数量と単価に分けて設定します。これをまとめたものが標準原価カードです。
| 原価要素 | 標準消費量・標準作業時間 | 標準単価・標準賃率・標準配賦率 | 原価標準 |
|---|---|---|---|
| 直接材料費 | 2kg | 200円/kg | 400円 |
| 直接労務費 | 1時間 | 300円/時間 | 300円 |
| 製造間接費 | 1時間 | 300円/時間 | 300円 |
| 合計 | — | — | 1,000円 |
- 直接材料費の原価標準 =
製品1個当たり標準消費量 × 標準単価 - 直接労務費の原価標準 =
製品1個当たり標準作業時間 × 標準賃率 - 製造間接費の原価標準 =
製品1個当たり標準作業時間 × 標準配賦率
3つを合計したものが、製品1個当たりの原価標準です。
④ 完成品の標準原価
完成品は最後まで加工が終わっているので、完成品数量をそのまま掛けます。
完成品標準原価 = 製品1個当たり原価標準 × 完成品数量
⑤ 期末仕掛品の標準原価
期末仕掛品はまだ加工の途中なので、原価要素ごとに換算量を分けて計算します。材料が始点で投入される場合は次のとおりです。
- 直接材料費:期末仕掛品数量をそのまま用います(始点で全量が投入済みのため)
- 直接労務費・製造間接費:
期末仕掛品数量 × 加工進捗度を用います
期末仕掛品200個・加工進捗度50%、原価標準が材料400円・労務300円・間接費300円であれば、
| 原価要素 | 計算 | 標準原価 |
|---|---|---|
| 直接材料費 | 400×200 | 80,000円 |
| 直接労務費 | 300×(200×50%) | 30,000円 |
| 製造間接費 | 300×(200×50%) | 30,000円 |
| 合計 | — | 140,000円 |
⑥ 当期標準製造原価
期首仕掛品がない場合は次のとおりです。
当期標準製造原価 = 完成品標準原価 + 期末仕掛品標準原価
上の例では 800,000 + 140,000 = 940,000円 です。
⑦ パーシャル・プラン
記帳の方法は2つあり、どちらを用いるかは問題文で示されます。
パーシャル・プランでは、仕掛品勘定を次のように記入します。
- 借方:実際原価
- 貸方:標準原価(完成品標準原価と期末仕掛品標準原価)
借方が実際、貸方が標準なので、差額が仕掛品勘定の中に現れます。この差額が総差異です。総差異は仕掛品勘定から 標準原価差異 勘定へ振り替えます。
⑧ シングル・プラン
シングル・プランでは、仕掛品勘定を次のように記入します。
- 借方:標準原価
- 貸方:標準原価
借方も貸方も標準原価なので、仕掛品勘定の中に差異は現れません。差異は、材料・賃金・給料・製造間接費といった費目勘定の側で把握します。
費目別の投入仕訳では、借方の 仕掛品 をその費目の標準原価とし、貸方を実際原価とします。その差額を 標準原価差異 の借方または貸方に示します。
⑨ 差異を把握する場所の違い
| 項目 | パーシャル・プラン | シングル・プラン |
|---|---|---|
| 仕掛品勘定の借方 | 実際原価 | 標準原価 |
| 仕掛品勘定の貸方 | 標準原価 | 標準原価 |
| 差異が現れる場所 | 仕掛品勘定 | 費目勘定の側 |
| 差異の把握単位 | 総差異 | 費目ごと |
⑩ 有利差異と不利差異
差異の向きは、実際原価と標準原価の大小で決まります。
総差異 = 実際製造原価 - 当期標準製造原価
- 実際原価が標準原価を超える場合:不利差異。借方に記入します
- 標準原価が実際原価を超える場合:有利差異。貸方に記入します
目標より多くかかったのが不利差異、少なくて済んだのが有利差異です。
⑪ 両プランの共通点と相違点
同じ資料であれば、完成品標準原価・期末仕掛品標準原価・総差異の最終額はどちらのプランでも一致します。
- 完成振替は、両プランとも
製品 / 仕掛品を完成品標準原価で記入します - 期末仕掛品標準原価は、両プランとも仕掛品勘定の残高として残ります。別の振替仕訳は行いません
- 異なるのは、差異をどの勘定で把握するかという場所だけです
⑫ 確かめ方
3段階で確かめます。
- 標準フロー:
完成品標準原価 + 期末仕掛品標準原価 = 当期標準製造原価(期首仕掛品がない場合) - 差異の調整:
実際製造原価 = 当期標準製造原価 + 不利差異、または実際製造原価 + 有利差異 = 当期標準製造原価 - 勘定残高:パーシャル・プランでは差異振替後の、シングル・プランでは標準記入後の仕掛品残高が、期末仕掛品標準原価と一致する
⑬ 確かめ方の限界
標準フローの一致は、当期標準製造原価を完成品と期末仕掛品の合計として定義している以上、定義上必ず成立します。 原価標準や換算量が誤っていても、その誤った金額どうしで一致します。
差異の調整の一致も、総差異を実際原価と標準原価の差として求めた以上、定義上必ず成立します。 どのような実際原価であっても、差として求めた金額を足し戻せば元に戻ります。
したがって次の誤りは、これらの確認を通過します。
- 標準消費量や標準単価を誤る:原価標準が変わり、標準原価も総差異も変わりますが、3つの確認はいずれも成立します
- 期末仕掛品の換算量を誤る:たとえば材料費にも加工進捗度を掛けてしまうと期末仕掛品標準原価が変わりますが、同じく成立します
- 記帳方法の選択を誤る:パーシャル・プランとシングル・プランのどちらで解いても、完成品標準原価・期末仕掛品標準原価・総差異の最終額は同じです
- 差異の借方・貸方を取り違える:仕訳の貸借合計と差異の調整式は一致したままです(勘定残高の確認とは別です)
合計の一致は、標準消費量、標準単価、実際数量、進捗度、記帳方法の選択のいずれの正しさも証明しません。 問題文に戻って一つずつ確かめる必要があります。
一方、ほかの記入が正しいという条件のもとでは、勘定残高の確認により、差異振替の漏れによる残高不一致を検出できます。パーシャル・プランで差異を振り替えないままだと、仕掛品残高が期末仕掛品標準原価と食い違います。ただし、残高が一致したことだけでは、差異振替という手続を実際に行ったことや、ほかの記入が正しいことまでは証明できません。
⑭ ここで扱わないこと
総差異を、単価面の差と数量面の差、賃率面の差と作業時間面の差といった要因別に分解する計算、材料の配合や歩留まりに関する差、原価標準を期中に改訂した場合の差、および仕掛品勘定の借方を一部だけ標準原価とする記帳方法は、ここでは扱いません。
ここでは、差異を費目ごとまたは総額で把握するところまでを対象とします。
⑮ 年度注記
ここで学ぶ内容は、2026年度・2027年度のどちらにも共通して適用されます。工業簿記・原価計算の出題区分に年度による変更はありません。