貸倒引当金の設定と差額補充法|必要残高と調整額は別物

① このページで学ぶこと

このページでは、決算日に将来の貸倒れを見積もって、貸倒引当金の残高を調整する処理を学びます。

  • 貸倒引当金とは何か、なぜ決算で見積もるのか
  • 貸倒引当金という「資産の控除項目」の性質
  • 必要な貸倒引当金残高 = 期末債権残高 × 設定率
  • 差額補充法 ── 決算整理前の残高との差額だけを調整する
  • 不足しているときの追加繰入(貸倒引当金繰入・費用)
  • 多すぎるときの戻入(貸倒引当金戻入・収益)
  • 必要残高と、当期に動かす調整額は別の金額であること

この単元を貫く一行は次のとおりです。

必要な残高まで「差額だけ」を調整する。

なお、債権が実際に回収不能になったときの処理(貸倒損失、貸倒引当金の取崩し、不足額の処理)は、C06-T01「貸倒れと貸倒損失」で学びました。ここで扱うのは、まだ貸し倒れていない債権について将来を見積もる処理です。


② 貸倒引当金とは ── 実際の貸倒れとの違い

決算日に売掛金などの債権が残っているとき、その中には来期になって回収できなくなるものが、経験上ある程度含まれています。

そこで決算では、「このくらいは回収できないだろう」という金額をあらかじめ見積もって準備しておきます。この見積額を入れておく勘定が貸倒引当金です。

C06-T01 で学んだ処理との違いを、最初にはっきりさせておきましょう。

C06-T01(実際の貸倒れ) C06-T02(本単元・見積り)
いつ 回収不能が確定したとき 決算日
対象 特定の債権(この得意先の売掛金) 問題で設定対象とされた期末債権の残高
事実か見積りか 実際に回収できなくなった まだ貸し倒れていない。将来を見積もる
使う科目 貸倒損失/貸倒引当金(取崩し) 貸倒引当金繰入/貸倒引当金/貸倒引当金戻入

「得意先が倒産した」「売掛金が回収不能となった」という実際に起きた出来事は、この単元の処理ではありません。C06-T01 の内容です。


③ なぜ決算で見積もるのか

「実際に貸し倒れてから費用にすればよいのでは」と思うかもしれません。

理由は、費用を、その原因となった売上と同じ期間に載せるためです。

期末に残っている売掛金は、当期の販売活動から生まれたものです。その一部が回収できないなら、それは当期の商売のコストのはずです。来期に倒れてから費用にすると、当期の利益が実態より良く見え、来期の利益が悪く見えてしまいます。

そこで決算整理で見積額を当期の費用として計上し、備えを用意しておきます。そして来期、実際に前期分の債権が貸し倒れたら、費用を立てるのではなく、用意しておいた貸倒引当金を取り崩します(この取崩しの処理はC06-T01で扱いました)。


④ 貸倒引当金の性質と記録方向

貸倒引当金は、少し変わった勘定です。

売掛金という資産の金額を直接減らさずに、「ここから ¥20,000 くらいは回収できない見込みです」と差し引いて見せるための勘定で、資産の控除項目(評価勘定)と呼ばれます。貸借対照表では、売掛金などから控除する形で表示されます。

勘定科目 性質 増えるとき 減るとき
貸倒引当金 資産の控除項目(評価勘定) 貸方 借方

貸倒引当金は、資産から控除して表示する評価勘定であり、通常の資産勘定とは記録方向が逆です。増えるときは貸方、減るときは借方と整理してください。

また、貸倒引当金を設定するときに、売掛金そのものを直接減額する仕訳は行いません。 売掛金はまだ回収不能になっていないからです。減らすのは、実際に貸し倒れたとき(C06-T01)です。


⑤ 貸倒引当金繰入と貸倒引当金戻入

引当金の残高を動かすとき、相手勘定として次の2つを使います。

勘定科目 5要素 使う場面 記録する側
貸倒引当金繰入 費用 引当金を積み増すとき 借方
貸倒引当金戻入 収益 引当金を戻すとき 貸方

名前がよく似ているので、次のように整理してください。

繰入=入れる(費用・借方)/戻入=戻す(収益・貸方)


⑥ 必要な貸倒引当金残高を求める

最初にすることは、決算整理後にいくら残っていればよいかを確定することです。

必要な貸倒引当金残高 = 期末の対象債権残高 × 設定率

設定率(たとえば 2%)は、3級では問題文で与えられます。

:期末売掛金残高 600,000円、電子記録債権残高 400,000円、設定率 2%

(600,000 + 400,000)× 2% = 20,000円

掛ける対象は、問題文で指定された債権です。「売掛金および電子記録債権の合計額に対して」と書いてあれば合計に掛け、「売掛金の期末残高に対して」と書いてあれば売掛金だけに掛けます。指定されていない債権を自分で加えてはいけません。


⑦ 差額補充法 ── 差額だけを調整する

ここが、この単元の中心です。

⑥で求めた 20,000円は「決算整理後に必要な残高」であって、「今から動かす金額」ではありません。

貸倒引当金には、決算整理前の時点ですでに残高があることがあります。前期に設定した分の残りです。したがって、

調整するのは、必要残高と決算整理前残高の差額だけ

です。この方法を差額補充法といいます。

手順は3つです。

  1. 必要残高を求める ── 期末債権残高 × 設定率
  2. 決算整理前残高を確認する ── 問題文に与えられます
  3. 差額だけ調整する ── 大小を比べて、繰入か戻入かを決める
大小関係 調整の向き 調整額
必要残高 決算整理前残高 追加繰入 必要残高 − 決算整理前残高
必要残高 決算整理前残高 戻入 決算整理前残高 − 必要残高

どちらの場合も、調整が終わったあとの残高は必要残高にぴったり揃います。これが検算になります。


⑧ 不足しているとき ── 追加繰入

:⑥の続き。必要残高 20,000円、決算整理前の貸倒引当金残高 5,000円

必要残高のほうが大きいので、追加繰入です。

20,000 − 5,000 = 15,000円

借方科目 金額 貸方科目 金額
貸倒引当金繰入 15,000 貸倒引当金 15,000
  • 借方の理由:貸倒引当金繰入という費用が発生した
  • 貸方の理由:貸倒引当金という資産の控除項目が増えた(増加は貸方)

検算:5,000 + 15,000 = 20,000(=必要残高)✓


⑨ 多すぎるとき ── 戻入

:必要残高 20,000円、決算整理前の貸倒引当金残高 26,000円

今度は決算整理前残高のほうが大きいので、戻入です。

26,000 − 20,000 = 6,000円

借方科目 金額 貸方科目 金額
貸倒引当金 6,000 貸倒引当金戻入 6,000
  • 借方の理由:貸倒引当金を減らす(減少は借方)
  • 貸方の理由:貸倒引当金戻入という収益が発生した

検算:26,000 − 6,000 = 20,000(=必要残高)✓

⑧とは借方・貸方が完全に逆になります。まず大小を比べる、という一手を省かないでください。

なお、多すぎる分を減らすからといって貸倒損失を使ってはいけません。貸倒損失は、債権が実際に貸し倒れたときの費用です(C06-T01)。ここでは債権は何も減っていません。


⑩ 必要残高と調整額は別の金額

この単元でいちばん注意したい区別です。

意味 ⑧の例
必要残高 決算整理にあるべき引当金の残高 20,000円
決算整理前残高 調整にある引当金の残高 5,000円
調整額(繰入額/戻入額) 今回の仕訳に書く金額 15,000円

仕訳に書くのは 15,000円 であって、20,000円ではありません。20,000円を繰り入れてしまうと、残高が 5,000 + 20,000 = 25,000円 になり、見積りを超えてしまいます。

同じことを逆から言うと、

貸倒引当金繰入額と、決算整理後の貸倒引当金残高は、同じ金額とは限らない。

決算整理前残高がちょうど 0 のときだけ、両者は一致します。


⑪ 間違いやすいポイント3つ

1.必要残高をそのまま繰り入れてしまう

差額補充法という名前のとおり、動かすのは差額だけです。「必要残高 − 決算整理前残高 = 調整額」を、手が覚えるまで繰り返してください。区別が身につくまでは、⑩の表を毎回書き出すのが確実です。

2.貸倒引当金の増減の向きを取り違える

貸倒引当金は資産から控除して表示する評価勘定なので、増えるときが貸方、減らすときが借方です。通常の資産勘定とは記録方向が逆である点に注意してください。「繰入(費用)が借方に来るから、引当金は貸方」とセットで整理すると判断しやすくなります。

3.大小を比べずに繰入と決めつける

必要残高が決算整理前残高より小さいこともあります。その場合は戻入で、借方・貸方が逆になります。必ず最初に大小を比べてください。


⑫ この単元と他の単元の境界

内容 扱う単元
当期発生債権の実際の貸倒れ(貸倒損失) C06-T01「貸倒れと貸倒損失」
前期以前発生債権の実際の貸倒れ(貸倒引当金の取崩し) C06-T01
貸倒引当金が不足する場合の貸倒損失 C06-T01
当期に貸倒処理した債権を同じ期の中で回収した場合 C06-T01
決算時の見積り・必要残高の算定・差額補充法・追加繰入・戻入 本単元 C06-T02
前期以前に貸倒処理した債権を当期に回収した場合(償却債権取立益) C06-T03「償却債権取立益」
貸倒れ・引当金設定・取立益を横断する総合問題 C06-CH「貸倒れ 章末総合問題」
精算表・財務諸表の表完成 EXAM2/第3問系の単元

用意しておいた引当金を実際の貸倒れに使う場面(取崩し・不足)は、C06-T01 で扱います。 この単元は「決算日にいくら用意しておくか」に集中してください。


⑬ 問題での確認ポイント

仕訳問題では、まず必要残高を計算し、決算整理前残高と比較して、追加繰入か戻入かを判断する流れを確認します。最終答案が仕訳であっても、中間計算の差額を正しく求めることが必要です。

決算を含む総合問題では、期中の未処理事項などを反映した後の対象債権残高を基礎に、貸倒引当金の必要残高を求める形へつながることがあります。精算表や財務諸表そのものを完成させる形式は、本単元ではなく第3問系の成果物で扱います。

年度差について:貸倒引当金の設定と差額補充法は、本教材では2026年度・2027年度の両方の受験者に共通する学習対象として扱います。本単元では対象債権を売掛金と電子記録債権に限り、年度によって扱いが変わる紙媒体の手形は使用していません。


⑭ まとめ

場面 借方 貸方 ポイント
必要残高 > 決算整理前残高 貸倒引当金繰入 貸倒引当金 差額だけを繰り入れる(費用)
必要残高 < 決算整理前残高 貸倒引当金 貸倒引当金戻入 多すぎる分を戻す(収益)

計算の式は2つだけです。

必要残高 = 期末の対象債権残高 × 設定率 調整額 = 必要残高 と 決算整理前残高 の差額

そして、この単元を貫く一行は次のとおりです。

必要な残高まで「差額だけ」を調整する。


⑮ 2級への接続

2級では、貸倒引当金について個別評価と一括評価を扱い、営業債権・営業外債権に対する貸倒引当金繰入額の損益計算書上の区分など、より詳しい論点へ広がります。

3級で身につける、

必要残高を先に確定し、既存残高との差額だけを調整する

という手順は、そのまま2級の前提になります。


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