この単元の標語:数えたお金は動かせない。ズレが出たら帳簿を実際有高に合わせ、原因が分かるまで現金過不足という仮の勘定に入れておく。
① このページで学ぶこと
- 簿記でいう「現金」の範囲(通貨だけではないこと)を説明できる
- 現金と預金が別の勘定科目であることを説明できる
- 帳簿の現金残高と実際有高が合わないときの仕訳が切れるようになる
- 過不足の原因が判明したときの振替仕訳が切れるようになる
- 原因判明時に現金をもう一度動かさない理由を説明できる
② 基礎概念
簿記の「現金」は財布の中身より広い
簿記で現金勘定として扱うのは、通貨(紙幣・硬貨)だけではありません。受け取ればすぐに換金できる証券類(通貨代用証券)も現金に含めます。
3級で扱う代表例は次のとおりです。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 通貨 | 紙幣・硬貨 |
| 普通為替証書 | ゆうちょ銀行(郵便局)で換金できる送金手段 |
| 配当金領収証 | 株式の配当金を受け取るための証書 |
| 期限到来後の公社債利札 | 債券についた利息の引換券のうち、支払期限が来たもの |
「受け取ればすぐ換金できる紙は現金の仲間」と押さえておけば、暗記の負担は大きくありません。
【2026年度(~2027年3月)受験の方】
上記に加えて、他人振出小切手(取引先などが振り出した小切手)と送金小切手も現金として扱います。
問題文に「小切手を受け取った」とあれば、借方は現金です。自分が振り出した小切手と取り違えないでください(自分が振り出したときに動くのは当座預金です)。
【2027年度(2027年4月~)受験の方】
紙媒体の小切手を用いる取引は、3級の出題対象から外れます。この節は読み飛ばして構いません。
なお、当座預金という勘定科目そのものは2027年度も出題対象です。 小切手が範囲から外れたことと、当座預金が無くなることは別の話です。
現金と預金は別の勘定科目
現金・普通預金・当座預金は、どれも資産ですが別々の勘定科目として記録します。
「どれも会社のお金だから現金でまとめてよい」とはなりません。手元にあるのか、どの口座にあるのかを分けて管理するためです(預金の処理は C04-T02 で学びます)。
現金過不足とは
現金は毎日出入りするため、記帳漏れ・書き間違い・釣り銭ミスなどで、帳簿上の残高と実際に数えたお金(実際有高)が食い違うことがあります。
このズレを一時的に受け止めるのが、現金過不足という勘定です。
現金過不足は仮の勘定(仮勘定)です。 原因が判明したら正しい科目へ振り替えて消します。C05-T08 で学ぶ仮払金・仮受金と同じ「一時的な箱」の発想です。
③ 仕組み・理由
なぜ帳簿を実際有高に合わせるのか
ズレが出たとき、簿記では帳簿を実際有高に合わせます。
理由は単純です。目の前で数えたお金の枚数は動かせない事実であり、疑うべきは帳簿の側だからです。
したがって、発見時の仕訳では必ず現金勘定が動きます(不足なら貸方、過剰なら借方)。
なぜ現金過不足という仮の勘定を使うのか
ズレが出た時点では、それが損失なのか収益なのか、まだ分かりません。記帳漏れかもしれませんし、単純な数え間違いかもしれません。
原因が分からないうちに損益として確定させないために、いったん現金過不足へ入れておきます。原因が判明したら、正しい科目へ振り替えます。
判明時に現金を動かさない理由
原因が判明したとき、現金はすでに発見時の仕訳で実際有高に合わせてあります。
たとえば「通信費の支払を記帳し忘れていた」と判明した場合、本来あるべき仕訳は「(借)通信費/(貸)現金」ですが、現金側は発見時に減らし済みです。
残る作業は、現金過不足に入れておいた金額を通信費へ振り替えることだけです。ここでもう一度現金を減らすと、二重に減らしてしまいます。
④ 基本例
×1年10月15日、青森商事が金庫の現金を数えたところ、実際有高は ¥48,000 であったが、帳簿残高は ¥50,000 であった。原因は不明である。
×1年10月22日、調査の結果、不足額のうち ¥1,500 は通信費の記帳漏れと判明した。
⑤ 仕訳例:思考の手順つき
場面1:不足を発見したとき(×1年10月15日)
- 取引を読む:実際のお金が帳簿より少ない。
- 金額を計算する:50,000 − 48,000 = ¥2,000 の不足
- 方針を確認する:帳簿を実際有高(¥48,000)に合わせる → 帳簿の現金を ¥2,000 減らす。
- 勘定科目を決める:減らす現金は貸方/相手は原因不明なので現金過不足。
- 5要素と増減を確認する:現金(資産)の減少 ¥2,000。
- 貸借一致を確認して記入する:借方 2,000 = 貸方 2,000
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金過不足 | 2,000 | 現金 | 2,000 |
これで帳簿残高は ¥48,000 になり、実際有高と一致します。ズレの ¥2,000 は現金過不足の借方に「原因調査中」として置かれた状態です。
場面2:原因が判明したとき(×1年10月22日)
不足のうち ¥1,500 は「通信費を支払ったのに記帳していなかった」ことが原因でした。
現金はすでに場面1で調整済みなので、現金過不足を通信費へ振り替えるだけです。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 通信費 | 1,500 | 現金過不足 | 1,500 |
- 借方の理由:通信費(費用)の計上(記帳漏れの取り戻し)
- 貸方の理由:現金過不足の借方残高 ¥1,500 分を取り崩す
これで現金過不足の残りは ¥500。引き続き原因調査中です。
参考:過剰の場合は向きが逆になる
×1年11月8日、実際有高が帳簿残高より ¥3,000 多いことが判明した。 ×1年11月20日、調査の結果、全額が受取手数料の記帳漏れと判明した。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 3,000 | 現金過不足 | 3,000 |
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金過不足 | 3,000 | 受取手数料 | 3,000 |
現金過不足は現金の相手側に立つ——不足なら借方、過剰なら貸方です。この関係さえ押さえれば、向きを暗記する必要はありません。
決算まで原因が分からなかったら(予告)
決算日になっても原因が分からなかった残額は、不足(借方残)なら雑損、過剰(貸方残)なら雑益へ振り替えて、現金過不足を消します。仮の勘定を決算をまたいで持ち越さないというルールです。
この決算整理は C14-T09「一時的な勘定等の決算整理」で扱います。 本単元では、期中の発見と原因判明までを確実にできるようにしてください。
⑥ 間違いやすいポイント3つ
1.実際有高のほうを帳簿に合わせようとする
逆です。動かせないのは目の前のお金であり、帳簿を実際有高に合わせます。
発見時の仕訳では現金勘定が動きます(不足なら貸方、過剰なら借方)。「現金過不足を借方に書くか貸方に書くか」を先に考えるのではなく、まず現金をどちらに動かすかを決めてください。
2.発見時にいきなり雑損・雑益を使ってしまう
発見の時点では、原因調査はこれからです。
まず現金過不足に入れます。雑損・雑益は決算まで原因が分からなかった場合の処理(C14-T09)であり、順番を飛ばさないでください。
3.判明時の仕訳で現金をもう一度動かしてしまう
場面2で「(借)通信費 1,500/(貸)現金 1,500」としてしまう誤りです。
現金は発見時に調整済みです。判明時は現金過不足と正しい科目の振替だけで、現金には触りません。ここで現金を動かすと二重に減ってしまいます。
⑦ 試験での問われ方
当サイトの本試験形式では、主に第1問対策(仕訳問題)に位置づけています。
第1問対策
発見時・判明時の仕訳が問われます。帳簿残高と実際有高が与えられ、差額を自分で算定する形もあります。
第2問対策
過不足の原因が複数判明する推定問題(不足のうち一部は費用の記帳漏れ、一部は収益の記帳漏れ…)という形があります。現金過不足という「箱」の出し入れの理解がそのまま効きます。
第3問対策
決算整理として、現金過不足の残額を雑損・雑益へ振り替える処理が扱われます(C14-T09)。
⑧ まとめ
| 場面 | 借方 | 貸方 | 学ぶ単元 |
|---|---|---|---|
| 不足を発見(帳簿>実際) | 現金過不足 | 現金 | 本単元 |
| 過剰を発見(実際>帳簿) | 現金 | 現金過不足 | 本単元 |
| 原因判明(費用の記帳漏れ) | 費用の勘定(通信費など) | 現金過不足 | 本単元 |
| 原因判明(収益の記帳漏れ) | 現金過不足 | 収益の勘定(受取手数料など) | 本単元 |
| 決算まで不明(借方残) | 雑損 | 現金過不足 | C14-T09 |
| 決算まで不明(貸方残) | 現金過不足 | 雑益 | C14-T09 |
処理の順序は次のとおりです。
① 帳簿を実際有高に合わせる(現金過不足へ) → ② 原因が判明したら正しい科目へ振り替える → ③ 決算まで残った分を雑損・雑益へ(C14-T09)
⑨ 関連問題への導線
- 一問一答:C04-T01「現金と現金過不足」(全12問)
- 仕訳問題:C04-T01「現金と現金過不足」(全7問・初級5問/標準2問)
- 前のテキスト:C02-T04「試算表」
- 次のテキスト:C04-T02「普通預金・当座預金」
- 決算整理:C14-T09「一時的な勘定等の決算整理(現金過不足・仮払仮受・当座借越振替)」
⑩ 2級への接続
現金過不足の「帳簿と実際のズレを突き止めて調整する」という発想は、2級で学ぶ銀行勘定調整表(当座預金の帳簿残高と銀行残高証明書のズレを調整する手続)へ直接つながります。
ズレの原因を一つずつ分類して処理するという型を、3級のうちに現金で身につけておいてください。

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