情報技術を利用するとき、法令に違反していないことだけで判断を終えることはできません。
誤った情報、AIの出力、システムによる判断は、利用者の安全、財産、プライバシー、評判、意思決定へ影響します。科目Bでは、情報の内容と発信意図を分け、一次情報へさかのぼり、AIの出力を人が検証・承認するという順序で判断します。
この記事を読み終えると、事例を見て「どこで確認が止まっているか」を判断できるようになります。
先に結論:四つの問いで判断する
| 問い | 確認すること |
|---|---|
| どの偽・誤情報か | 内容は誤りか、事実か。害を与える意図があるか |
| 何を根拠に判断するか | 一次情報、日付、版、対象範囲、文脈を確認したか |
| 生成AIをどう使うか | 入力してよい情報か。出力を人が検証・承認したか |
| 適法なら十分か | 安全、権利、公平性、社会への影響を検討したか |
「法律に禁止されていない」「多数が共有している」「AIが自信をもって回答した」という事情だけでは、正しさや適切さの根拠になりません。
1.SGシラバスでの位置付け
SGシラバス Ver.4.1では、情報倫理・技術者倫理、フェイクニュース、マルインフォメーション、ディスインフォメーション、ミスインフォメーション、デジタルタトゥー、ファクトチェックが用語例に明示されています。
また、システム活用促進の用語例には、AI(生成AIほか)が明示されています。
したがって、本記事の主要論点はシラバス非明示の補助論点ではありません。一方、特定団体の倫理綱領の条文暗記やAIガイドラインの細かな項目暗記までは求めず、科目Bの行動判断に必要な範囲で参照します。
2.技術者倫理では法令の先にある影響も考える
法令遵守は重要ですが、それだけで倫理上の判断が完了するわけではありません。
| 観点 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 法令・契約・規程 | 法律、契約、守秘義務、社内規程に反しないか |
| 安全と公衆の利益 | 生命、健康、財産、社会基盤へ危険を生じさせないか |
| 権利と公平性 | プライバシー、知的財産、人格、差別への影響はないか |
| 事実と信頼性 | 根拠となるデータ、一次情報、技術の限界を確認したか |
| 説明責任 | 誰が判断・承認し、誤りをどう訂正するか明確か |
情報処理学会の倫理綱領も、安全・財産、人格・プライバシー、知的財産、事実とデータ、情報技術が社会へ与える影響などを考慮する姿勢を示しています。
倫理綱領は、個別事例の答えを自動的に決める法律ではありません。複数の利益が衝突する場面で、専門家が根拠を示して判断するための参考になります。
3.偽・誤情報は内容と意図で分類する
三類型では、発信媒体ではなく、内容の真偽と害を与える意図を見ます。
| 類型 | 内容 | 意図 | 例 |
|---|---|---|---|
| ミスインフォメーション | 誤った情報 | 害を与える意図はない | 誤った避難所情報を正しいと信じて共有する |
| ディスインフォメーション | 虚偽・操作された情報 | 害を与える意図がある | 虚偽の数字を作り、信用を落とす目的で拡散する |
| マルインフォメーション | 事実に基づく情報 | 害を与える目的で利用する | 非公開の個人情報を嫌がらせ目的で公開する |
この三類型は、Council of Europeが公表したInformation Disorderの枠組みでも整理されています。
作成者と共有者の意図を分ける
最初の作成者が虚偽と知って作った情報を、別の利用者が正しいと信じて共有した場合、両者の行為を同じ意図として扱いません。
また、誤りがあっただけで悪意を断定しません。作成経緯、利益関係、訂正への対応、反復性など、確認できる事実から判断します。
4.ファクトチェックは検証可能な主張へ分解する
真偽不明の投稿を見つけても、投稿全体を直ちに「全て正しい」「全て虚偽」と決めません。
- 日付、人数、発言、仕様、原因など、検証可能な主張へ分ける
- 法令、公式発表、原記録、統計、ログなどの一次情報を確認する
- 情報の日付、版、地域、製品、適用条件を確認する
- 原文と前後の文脈、複数の証拠を照合する
- 確認済み、未確認、推測を区別する
- 誤りが判明したら、訂正内容と周知先を決める
拡散数、検索順位、多数意見、単一のスクリーンショットは、単独では正しさの証明になりません。
確認できない事項が残る場合は、その状態自体を明示します。調査中の推測を確定した事実として公表しないことも、情報の信頼性を守る対応です。
5.デジタルタトゥーを前提に対応する
デジタルタトゥーは、インターネット上の情報が、元の投稿を削除しても転載、スクリーンショット、検索結果、保存データなどに残り続ける性質を表す言葉です。
自社に関する真偽不明の情報が拡散した場合は、証拠を保存し、原記録やログで事実を確認し、法務・広報・情報セキュリティ・経営層で連携します。
「誤りと断定できるまで何もしない」ことも、「検証前に全て虚偽と発表する」ことも適切ではありません。確認できた事実と未確認事項を分けて説明し、削除後も複製・転載の残存を確認します。
投稿削除や発信者情報開示の法的手続は「通信・電子取引に関する法律」で扱います。
6.生成AIへ入力する前に情報の扱いを確認する
生成AIへ入力した情報の保存、サービス改善への利用、管理者による制御などの条件は、サービス、契約、プラン、設定によって異なります。
入力前に、少なくとも次を確認します。
- 組織が承認したサービス・アカウント・設定か
- 個人情報、顧客情報、営業秘密、ソースコードを入力してよいか
- 契約上の守秘義務や社内規程に反しないか
- 必要な情報だけへ削減、匿名化、マスキングできないか
業務品質を上げる目的であっても、未承認の外部サービスへ機密情報を入力してよい理由にはなりません。
7.生成AIの出力は人が検証し、承認する
生成AIの出力には、もっともらしい誤り、存在しない出典、古い情報、偏りなどが含まれる可能性があります。
業務へ採用する前に、
- 数字、日付、固有名詞、引用、法令、仕様を一次情報と照合する
- 出典が実在し、主張を正しく支えているか確認する
- 著作権、個人情報、プライバシー、秘密情報への影響を確認する
- 差別的・不公平な表現や危険な手順を含まないか確認する
- 権限を持つ人が最終版を承認する
という手順を取ります。
AIサービス提供者側にも契約・法令上の責任が生じる場合はありますが、利用組織が自らの業務成果物として採用する以上、確認せずに採用してよいことにはなりません。
誰が入力し、誰が検証し、誰が採用を決め、誰が最終承認したかを追跡できる形にします。
8.科目Bでの使われ方
| 事例 | 判断の方向 |
|---|---|
| 善意で誤情報を共有した | 内容と意図を分けてミスインフォメーションか判断する |
| SNSで発信されたので三類型に該当しない | 発信経路は分類基準ではない |
| 誤りと断定できるまで対応を待つ | 証拠保全と検証を開始する |
| 投稿削除だけで対応を終了する | 複製・転載が残る可能性を確認する |
| AI出力の体裁だけ直して提出する | 正確性・出典・権利・情報管理を人が確認する |
| 法令に違反していないので実施する | 安全、権利、公平性、社会的影響も検討する |
判断の順序は、法令・規程 → 内容と意図 → 一次情報 → 影響 → 検証・承認です。
担当者としては、確認が済んでいない情報を確定した事実として伝えず、確認済み・未確認・推測を分けて記録します。生成AIへ業務情報を入力してよいか、出力を社外へ出してよいかは担当者限りで判断せず、上位者や情報システム・法務の担当部署へ確認します。
よくある取り違え
| 誤った考え方 | 正しい整理 |
|---|---|
| 法令に違反していなければ倫理上の問題はない | 安全、権利、公平性、社会的影響もあわせて検討する |
| 拡散量が多い情報ほど害意がある | 三類型は発信経路や拡散量ではなく、内容の真偽と意図で判断する |
| マルインフォメーションは虚偽情報の一種 | 事実に基づく情報を、害する目的で利用する類型 |
| 投稿を削除すれば情報は消える | 複製・転載が残るため、削除後も残存を確認する |
| 生成AIの出力は根拠付きなら検証不要 | 出力は人が検証し、承認したうえで使う |
| 社内利用なら生成AIへ何を入力してもよい | 入力してよい情報の条件を先に確認する |
まとめ
- 法令遵守だけでなく、安全、権利、公平性、社会的影響を検討する
- ミスインフォメーションは害意のない誤情報、ディスインフォメーションは害意を伴う虚偽情報
- マルインフォメーションは事実に基づく情報を害する目的で利用する類型
- 三類型は発信経路ではなく、内容の真偽と意図で判断する
- ファクトチェックでは一次情報、日付、版、対象、文脈を確認する
- 調査中は確認済み・未確認・推測を区別する
- デジタルタトゥーを前提に、削除後も複製・転載の残存を確認する
- 生成AIへの入力条件を確認し、出力は人が検証・承認する
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本記事は、2026年8月3日時点のSGシラバスVer.4.1を基準に作成しています。
参考資料
- IPA「情報セキュリティマネジメント試験(レベル2)シラバス Ver.4.1」
- 情報処理学会「倫理綱領」(2022年6月27日改訂)
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」
- IPA・AIセーフティ・インスティテュート「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」
- AIセーフティ・インスティテュート「AIセーフティに関する評価観点ガイド(第1.20版)」
- Council of Europe, Information Disorder: Toward an interdisciplinary framework for research and policy making (2017)

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