取引と取引の8要素

① このページで学ぶこと

このページでは、会社で起こる出来事のうち、簿記で記録する対象となる 取引 と、その取引によって何が増えたり減ったりするのかを学びます。

学習目標は次の4つです。

  • 簿記上の「取引」がどのようなものか説明できる
  • 1つの取引を一方向だけで捉えず、関連する変化をあわせて捉えるという考え方を理解する
  • 取引の8要素を説明できる
  • 取引を見て、5要素のうち何が増減したかを大まかに判断できる

この単元では、まだ借方・貸方や具体的な仕訳方法は扱いません。

まずは、

取引を見たら「何が増えて、何が減ったのか」を考える

という簿記の基本的な見方を身につけます。


② 基礎概念

簿記上の「取引」とは

日常会話で「取引」というと、商品を売ったり買ったりすることを思い浮かべるかもしれません。

しかし、簿記でいう 取引 は、それより広い意味で使います。

簿記上の取引とは、会社の資産・負債・純資産・収益・費用に変化を生じさせ、その変化を金額で記録できる出来事です。

たとえば、

  • 銀行からお金を借りた
  • 家賃を支払った
  • サービスを提供して代金を受け取った
  • 株主から会社へ資金が払い込まれた

といった出来事は、会社の財産や経営成績に変化を生じさせるため、簿記上の取引になります。

「簿記上の取引」の3つの特徴

特徴 内容
商品売買だけではない 借入れ・家賃の支払い・資金の払込みなども取引です
現金が動かなくても取引になり得る 商品を掛けで販売した場合など、現金が動かなくても資産や収益に変化が生じていれば取引です
会社の内外どちらで生じた出来事でも対象になり得る 取引先とのやり取りだけでなく、会社の中で生じた出来事でも、5要素に金額で表せる変化があれば記録します

ただし、会社で何か出来事が起きれば、そのすべてが簿記上の取引になるわけではありません。

たとえば「商品を注文した」「従業員を採用することを決めた」といった段階では、まだ5要素に金額で表せる変化が生じていないため、この時点では簿記上の取引にはなりません。

5要素に、金額で表せる変化が生じているかどうか——これが判断の分かれ目です。


1つの取引を一方向だけで捉えない

簿記では、1つの取引を一方向からだけ見ません。

たとえば、銀行から500,000円を借りて普通預金口座に入金されたとします。

このとき会社では、

  • 普通預金という資産が500,000円増える
  • 借入金という負債が500,000円増える

という変化が同時に起こります。

「お金が500,000円増えた」という一面だけを見るのではなく、

そのお金がなぜ増えたのか

まで一緒に記録するのが簿記です。

このように、1つの取引を一方向だけで捉えず、相互に関連する変化をあわせて捉えるのが複式簿記の基本です。

この単元の基本例では、2つの変化として表せる取引を扱います。 ただし、取引によっては3つ以上の勘定科目が関係することもあります。「取引の変化は必ず2個だけ」と決めつけないでください。複数の科目が関係する取引の記録方法は、後続単元で学びます。


取引の8要素とは

これまで学んだ5要素の変化を整理すると、取引は次の8種類の要素に分けて考えることができます。

# 要素
1 資産の増加
2 資産の減少
3 負債の増加
4 負債の減少
5 純資産の増加
6 純資産の減少
7 収益の発生
8 費用の発生

これを 取引の8要素 といいます。

収益と費用については、初学者向けには「増加・減少」よりも、

  • 収益が発生した
  • 費用が発生した

と考えると理解しやすくなります。


③ 仕組み・理由 ― なぜ8要素で考えるのか

会社で起こる取引は数多くあります。

しかし、どれだけ取引の種類が増えても、その結果を5要素の変化として見ると整理しやすくなります。

たとえば、次の3つの出来事を考えます。

銀行から300,000円を借りた

会社では、

  • 普通預金が増える → 資産の増加
  • 借入金が増える → 負債の増加

という変化が起こります。

当月分の事務所家賃50,000円を現金で支払った

会社では、

  • 家賃というコストが生じる → 費用の発生
  • 現金が減る → 資産の減少

という変化が起こります。

サービスを提供し、手数料20,000円を現金で受け取った

会社では、

  • 現金が増える → 資産の増加
  • サービス提供による成果が生じる → 収益の発生

という変化が起こります。

出来事そのものは異なりますが、

5要素のどれが、どのように変化したか

という見方をすれば、同じルールで整理できます。

この考え方を身につけると、後に仕訳を学ぶときも、借方・貸方を丸暗記するのではなく、取引の意味から判断できるようになります。


④ 基本例

次の取引について、何が増減したのかを考えてみましょう。

例1 銀行から借り入れた

4月10日、銀行から500,000円を借り、普通預金口座に入金された。

起きた変化 8要素
普通預金が500,000円増えた 資産の増加
借入金が500,000円増えた 負債の増加

例2 借入金を返済した

5月20日、借入金100,000円を普通預金から返済した。

起きた変化 8要素
借入金が100,000円減った 負債の減少
普通預金が100,000円減った 資産の減少

例3 サービスの対価を現金で受け取った

6月15日、サービスを提供し、手数料30,000円を現金で受け取った。

起きた変化 8要素
現金が30,000円増えた 資産の増加
受取手数料という成果が生じた 収益の発生

例4 当月分の家賃を支払った

7月31日、当月分の事務所家賃80,000円を普通預金から支払った。

起きた変化 8要素
支払家賃というコストが生じた 費用の発生
普通預金が80,000円減った 資産の減少

例5 会社へ資金が払い込まれた

会社の設立時に、株主から600,000円が普通預金へ払い込まれ、その全額を資本金とした。

起きた変化 8要素
普通預金が600,000円増えた 資産の増加
資本金が600,000円増えた 純資産の増加

このように、1つの取引について関連する変化をあわせて見つけることが、これから学ぶ仕訳の第一歩になります。

上の5例はいずれも2つの変化で表せる取引ですが、これは取引を分解する練習として選んだ例です。 実際には3つ以上の科目が関係する取引もあります。


⑤ 仕訳例

この単元では仕訳を扱いません。

C01系では、借方・貸方を書く前に、

  1. 取引で何が起こったか
  2. 関係するものは5要素のどれか
  3. それぞれが増えたのか、減ったのか
  4. 収益・費用が発生したのか

を考えられるようにすることを優先します。

たとえば、

「銀行から借りて普通預金に入った」

と聞いたら、

普通預金という資産が増えた

だけで終わらず、

借入金という負債も増えた

と、関連する変化まで見つけられることが目標です。

借方・貸方への記入方法は、後続単元で学びます。


⑥ 間違いやすいポイント3つ

1.取引は「現金が動いたときだけ」ではない

簿記上の取引は、現金の受払だけではありません。

現金が動かなくても、資産・負債・純資産・収益・費用に金額で表せる変化が生じれば、簿記上の取引になることがあります。

「現金が動いたかどうか」だけで判断しないことが重要です。


2.1つの取引を1つの変化だけで見ない

銀行から借入れをしたとき、

「普通預金が増えた」

だけでは取引全体を表せません。同時に、

「借入金が増えた」

という変化もあります。

1つの取引では、関連する変化をあわせて探すという習慣をつけましょう。

なお、変化が必ず2つだけとは限りません。 取引によっては3つ以上の科目が関係します。大切なのは「2つ見つける」ことではなく、関係する変化を漏らさず捉えることです。


3.「お金が増えた=収益」とは限らない

借入れでも普通預金は増えますが、これは収益ではありません。

一方、サービスを提供して代金を受け取れば、資産の増加と収益の発生が同時に起こります。

同じ「お金が増える」という出来事でも、もう一方の側面が何かによって意味は変わります。 片方だけを見て判断しないでください。


⑦ 試験での問われ方

取引の8要素は、仕訳を考えるための基礎です。

当サイトの第1問形式

第1問形式の仕訳問題では、問題文を読んだら最初に、

  • 何が増えたか
  • 何が減ったか
  • 収益や費用が発生したか

を判断します。この判断ができると、その後の借方・貸方の決定がしやすくなります。

当サイトの第2問形式

勘定記入では、取引によって各勘定がどのように動いたかを追う必要があります。その前提として、取引の関連する変化を読み取る力が必要です。

当サイトの第3問形式

試算表や財務諸表の問題でも、元をたどれば日々の取引の積み重ねです。取引の8要素を理解していると、残高がなぜ増減したのかを考えやすくなります。

なお、第1問・第2問・第3問という区分は当サイトの演習設計です。 公式に出題形式が固定されているわけではありません。試験全体の構成は C17-T01「本試験形式の全体像」で扱います。


⑧ まとめ

取引の8要素を1つの表にまとめます。

取引の要素 意味
資産の増加 財産や権利が増える 普通預金が増える
資産の減少 財産や権利が減る 現金が減る
負債の増加 将来の支払・返済義務が増える 借入金が増える
負債の減少 将来の支払・返済義務が減る 借入金を返済する
純資産の増加 正味の財産にあたる部分が増える 資本金が増える
純資産の減少 正味の財産にあたる部分が減る 配当などにより純資産が減少する
収益の発生 事業活動などの成果が生じる 受取手数料が生じる
費用の発生 事業活動のコストが生じる 支払家賃が生じる

この単元で最も大切なのは、

1つの取引を一方向だけで捉えず、関連する変化をあわせて捉える

という考え方です。

取引を見たら、いきなり記入方法を覚えるのではなく、

「何がどう変わったのか」

を漏らさず見つけるようにしましょう。


⑨ 関連問題への導線

この単元を読み終えたら、一問一答で、

  • 簿記上の取引の意味
  • 取引の8要素
  • 1つの取引に関連する変化をあわせて捉えること
  • 資産・負債・純資産の増減
  • 収益・費用の発生

を確認します。

  • 一問一答:C01-T05「取引と取引の8要素」
  • 前のテキスト:C01-T04「貸借対照表と損益計算書」
  • 次のテキスト:C02-T01「勘定科目と借方・貸方」

次の C02-T01 から、いよいよ取引をどのような科目に分け、借方・貸方へどう記録するのかを学びます。

この単元で扱わないこと

この単元は、取引を見て「何がどう変化したか」を捉えるところまでを扱います。次の内容は、それぞれの単元が扱います。

内容 扱う単元
簿記の目的、記録から財務諸表までの全体像 C01-T01「簿記の目的と役割」
資産・負債・純資産の意味と代表的な勘定科目 C01-T02「資産・負債・純資産」
収益・費用の意味、利益・損失の求め方 C01-T03「収益・費用と損益」
貸借対照表・損益計算書の様式と作成 C01-T04「貸借対照表と損益計算書」
その変化を借方・貸方のどちらへ記録するか C02-T01「勘定科目と借方・貸方」
仕訳の書式と作成手順 C02-T02「仕訳の基本」
借入金の発生と返済、利息の処理 C05-T04「貸付金・借入金」
資本金の計上(株式会社の設立・増資) C10-T01「株式会社の設立と株式の発行」
剰余金の配当による純資産の減少 C10-T03「剰余金の配当と利益準備金」
支払家賃・受取手数料など主要な費用・収益の処理 C09-T01「主要な費用の処理」/C09-T02「主要な収益の処理」
支払時期と費用の期間がずれる場合の調整 C09-T03「費用の前払い(繰延)」ほかC09系
試験全体の構成と当サイトの演習設計 C17-T01「本試験形式の全体像」

この単元で挙げた勘定科目は、取引によって5要素のどれがどう変化したかを判断するための例です。それぞれの処理方法は、上の各単元で学びます。


⑩ 2級への接続

2級では取引の内容が複雑になり、1つの問題で複数の処理を組み合わせる場面が増えます。

それでも基本は、取引を分解して「何が増え、何が減ったのか」を判断することです。

3級の段階で、取引を一方向だけで捉えない見方と8要素を理解しておけば、2級でも仕訳を暗記だけに頼らず、取引の意味から組み立てられるようになります。


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