学習のポイント
① 仕損と減損
前の段階では、投入した数量がすべて完成品か期末仕掛品になる場合の計算を学びました。ここでは、途中で良品にならなかった数量がある場合を学びます。
- 仕損:品質上の不適合などにより、良品にならなかった数量をいいます。仕損になったものは仕損品として残ることがあります。
- 減損:蒸発や収縮などにより、数量そのものが減少したものをいいます。減損は物として残りません。
どちらも「投入した数量のうち、完成品にも期末仕掛品にもならなかった分」という点は共通です。違いは、物が残るかどうかです。この違いは、後で述べる仕損品評価額の有無につながります。
② ここで扱う範囲
仕損・減損には、通常の作業のなかで避けられない範囲で生じるものと、そうでないものがあります。ここで扱うのは、通常の作業のなかで避けられない範囲で生じたもの(正常仕損・正常減損)だけです。
そうでないものの処理は、ここでは扱いません。
③ 数量の流れ
まず数量の関係を押さえます。良品にならなかった分が加わるため、前の段階の式に項目が1つ増えます。
期首仕掛品数量 + 当期投入数量 = 完成品数量 + 期末仕掛品数量 + 正常仕損・正常減損数量
たとえば当期投入1,000個、完成品820個、期末仕掛品120個であれば、正常減損は 1,000-820-120=60個です。
数量の流れは、負担区分がどちらであっても同じ形です。負担区分によって変わるのは、原価をどう配分するかです。
④ 度外視法
正常仕損費・正常減損費の処理には、いくつかの考え方があります。ここで学ぶのは度外視法です。
度外視法では、正常仕損・正常減損を独立した原価の配分先として扱いません。仕損・減損の分をいったん別に集計して、それから完成品や期末仕掛品へ振り分ける、という手順を踏まないということです。
代わりに、単価を求めるときの分母の取り方によって、正常仕損費・正常減損費がどこに含まれるかを決めます。ここが度外視法の中心です。
⑤ 負担区分は問題文で示される
正常仕損費・正常減損費を誰が負担するかを負担区分といいます。2つあります。
- 完成品だけに負担させる
- 完成品と期末仕掛品の両者に負担させる
負担区分は問題文で示されます。 発生点や期末仕掛品の進捗度から自分で決めるものとして扱わず、問題文の指定に従ってください。発生点と進捗度は、指定と資料が食い違っていないかを確かめるために読みます。
⑥ 完成品だけに負担させる場合
期末仕掛品には正常仕損費・正常減損費を負担させません。そのため、単価を求める分母に、正常仕損・正常減損の換算量を含めます。
単価 = 投入原価 ÷(完成品数量 + 期末仕掛品換算量 + 正常仕損・正常減損の換算量)
期末仕掛品原価 = 単価 × 期末仕掛品換算量
完成品原価 = 投入原価合計 - 期末仕掛品原価 - 仕損品評価額
分母に仕損・減損の分を含めるので、その分だけ単価は低くなります。低い単価で評価された期末仕掛品には仕損・減損の分が入りません。残りをすべて完成品原価とすることで、正常仕損費・正常減損費が完成品原価に含まれます。
完成品原価は差額で求めます。
⑦ 完成品と期末仕掛品の両者に負担させる場合
こちらは逆に、正常仕損・正常減損の数量を換算量の計算から除きます。
単価 = 投入原価 ÷(完成品数量 + 期末仕掛品換算量)
期末仕掛品原価 = 単価 × 期末仕掛品換算量
完成品原価 = 投入原価合計 - 期末仕掛品原価
分母から仕損・減損の分を除くと、その分だけ単価は高くなります。高い単価は完成品にも期末仕掛品にも同じように使われるので、正常仕損費・正常減損費が両方に自動的に配分されます。仕損・減損の分をあらためて按分する計算は行いません。
⑧ 発生点と進捗度
発生点は、仕損・減損が工程のどこで生じたかを示します。期末仕掛品の進捗度は、期末仕掛品がどこまで進んでいるかを示します。
この2つは、問題文が示す負担区分と資料が整合しているかを確かめるために比較します。発生点が期末仕掛品の進捗度より後であれば、期末仕掛品はまだその点を通過していないため、完成品だけに負担させる資料と整合します。発生点が期末仕掛品の進捗度より前であれば、期末仕掛品もその点を通過しているため、完成品と期末仕掛品の両者に負担させる資料と整合します。発生点と進捗度が同じ値の場合は、この比較だけから読み取れることは限られます。
ただし、この関係だけから負担区分を決めることはしません。 計算では問題文に明示された負担区分に従います。比較結果と問題文の指定が食い違う場合は、別の負担区分を自分で選ぶのではなく、資料や指示に誤りがないかを確認します。
発生点は、負担区分とは別に計算そのものにも使います。完成品だけに負担させる場合、分母に含める仕損・減損の加工費換算量は 数量 × 発生点 で求めるからです。
⑨ 仕損品評価額
仕損品に売却価値や利用価値が残ることがあります。この金額を仕損品評価額といいます。評価額の分だけ、正常仕損費の正味の負担は小さくなります。
控除する位置は負担区分によって違います。
| 負担区分 | 評価額を控除する位置 |
|---|---|
| 完成品だけに負担 | 完成品原価から控除する |
| 両者に負担 | 投入原価から控除してから、完成品と期末仕掛品へ配分する |
完成品だけに負担させる場合は、評価額の恩恵も完成品だけが受けます。期末仕掛品へ配分しません。両者に負担させる場合は、控除した後の原価を配分するので、評価額の恩恵も両方が受けます。
なお減損は物が残らないため、評価額を考えません。ここで扱う減損の問題では評価額は0円です。
⑩ 材料費と加工費を分ける
前の段階と同じく、材料費と加工費は分けて計算します。換算量の求め方も同じです。
- 材料が始点で投入される場合、期末仕掛品の材料換算量は数量どおりです。
- 材料が工程を通じて投入される場合、期末仕掛品の材料換算量は
数量 × 材料進捗度です。 - 加工費の換算量は
数量 × 加工進捗度です。
仕損・減損についても同じ考え方で換算量を求めます。材料が始点投入であれば、仕損・減損の材料換算量は数量どおりです。加工費の換算量は 数量 × 発生点 です。
どの投入形態かは問題文で示されます。 換算量が変わるので、必ず確認してください。
⑪ 確かめ方とその限界
計算後に次の関係を確かめます。
- 数量:
期首 + 当期投入 = 完成品 + 期末仕掛品 + 正常仕損・正常減損 - 原価:
完成品原価 + 期末仕掛品原価 + 仕損品評価額 = 投入原価合計
ただし、この確かめ方では見つからない誤りがあります。
原価の一致は、完成品原価を差額で求めた以上、定義上必ず成立します。 期末仕掛品原価が正しいかどうかは、この確認では分かりません。
負担区分を取り違えても、合計は保たれます。 完成品だけに負担させる場合と両者に負担させる場合とでは、期末仕掛品原価も完成品原価も変わりますが、両者の合計は同じです。
発生点・進捗度・材料投入形態を取り違えた場合も同じです。 単価が変わって配分が変わるだけで、合計は保たれます。
評価額を控除する位置を間違えた場合も同じです。 完成品だけに負担させるべき問題で投入原価から控除してしまうと、期末仕掛品原価まで小さくなりますが、合計は保たれます。
総額の一致は、負担区分・発生点・進捗度・材料投入形態・評価額の控除位置のいずれの正しさも証明しません。 問題文の指定に戻って一つずつ確かめる必要があります。
⑫ 次に学ぶこととの境界
正常仕損・正常減損を独立した原価の配分先として集計する方法、通常の範囲を超えて生じた分の処理、主となる製品とあわせて生じる別の産出物の処理は、ここでは扱いません。
⑬ 年度注記
ここで学ぶ内容は、2026年度・2027年度のどちらにも共通して適用されます。工業簿記・原価計算の出題区分に年度による変更はありません。