この単元の判断軸:前渡し・用度係の支払い・会計係への報告・補給を、別の段階として読む。
① このページで学ぶこと
- 小口現金がどのような資金かを説明できる
- 定額資金前渡法(インプレスト・システム)の基本的な流れを説明できる
- 小口現金を設定したときの仕訳ができる
- 用度係から支払報告を受けたときの仕訳ができる
- 報告後に小口現金を補給したときの仕訳ができる
- 定額・使用額・報告直前残高・補給額の関係を計算できる
小口現金では、誰が現金を持っているかと、会計係がいつ帳簿へ記録するかを分けて考えることが大切です。
② 基礎概念
小口現金とは
小口現金は、交通費・郵便料金・文房具代などの日常的な少額支払いに備えて、用度係などの担当者へ前渡ししておく資金です。
担当者の手元へ移しても、会社が保有する資産であることに変わりはありません。そのため、小口現金は資産として処理します。
なぜ小口現金を設けるのか
少額の支払いが発生するたびに会計係が現金を渡して処理すると、事務が細かくなります。
そこで、
- 会計係が一定額を担当者へ前渡しする
- 担当者が日々の少額支払いを行う
- 一定期間ごとに支払内容を会計係へ報告する
という役割分担を行います。
担当者は支払い内容を小口現金出納帳に記録します。小口現金出納帳そのものの完成・集計は、次のC04-T07「現金・預金関係の補助簿」で詳しく扱います。
③ 定額資金前渡法の基本サイクル
日商簿記3級で扱う代表的な管理方法が、定額資金前渡法(インプレスト・システム)です。
本教材の基本問題では、次の流れで考えます。
- 前渡し:会計係が一定額を担当者へ渡す
- 支払い:担当者が少額の経費を小口現金から支払う
- 報告:担当者が一定期間の支払内容を会計係へ報告する
- 補給:会計係が資金を補給し、設定した定額へ戻す
支払時点と報告時点を分ける
本教材では、会計係が一定期間ごとの報告に基づいて仕訳する方式を扱います。
この方式では、担当者が個々の支払いをした時点では、会計係側の仕訳は行わず、担当者が小口現金出納帳へ記録します。
その後、会計係が支払報告を受けた時点で、報告された内容を旅費交通費・通信費・消耗品費などへ分類して帳簿に記録します。
補給額の考え方
本教材の基本問題では、
- 小口現金の設定額を変更しない
- 報告対象の支払い以外に小口現金の増減がない
- 現金の不足・超過などの差異がない
ものとして扱います。
この前提では、報告された使用額と同額を補給すると、補給後の残高が元の定額へ戻ります。
④ 基本例
4月1日、小口現金の定額を50,000円とし、普通預金から同額を担当者へ前渡しした。
その後、担当者が次の支払いを行い、期日に会計係へ報告した。
- 電車代:5,000円
- 郵便料金:3,000円
- 文房具代:7,000円
支払総額は、
5,000円 + 3,000円 + 7,000円 = 15,000円
です。
報告直前の手元残高は、
50,000円 − 15,000円 = 35,000円
です。
報告後に15,000円を補給すると、
35,000円 + 15,000円 = 50,000円
となり、元の定額へ戻ります。
⑤ 仕訳の流れ
1.小口現金を前渡しした
普通預金から50,000円を前渡しした場合です。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 小口現金 | 50,000 | 普通預金 | 50,000 |
小口現金という資産が増加し、普通預金という資産が減少します。
2.支払報告を受けた
報告内容は、電車代5,000円、郵便料金3,000円、文房具代7,000円です。
- 電車代 → 旅費交通費
- 郵便料金 → 通信費
- 文房具代 → 消耗品費
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 旅費交通費 | 5,000 | 小口現金 | 15,000 |
| 通信費 | 3,000 | ||
| 消耗品費 | 7,000 |
会計係は、報告内容に基づいて費用を記録し、小口現金の帳簿残高を15,000円減少させます。
3.報告後に補給した
報告された使用額15,000円を普通預金から補給した場合です。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 小口現金 | 15,000 | 普通預金 | 15,000 |
小口現金が15,000円増加し、普通預金が15,000円減少します。
⑥ 報告と補給を同時に処理する場合
問題によっては、支払報告を受け、その報告額と同額を同時に補給した取引を1本の仕訳で処理することがあります。
たとえば、
- 旅費交通費:9,000円
- 通信費:5,500円
- 水道光熱費:3,000円
- 雑費:500円
合計18,000円の報告を受け、同額を普通預金から補給したとします。
報告だけなら貸方に小口現金18,000円、補給だけなら借方に小口現金18,000円となります。
これらを1本にまとめる場合、小口現金の借方・貸方が同額で相殺されるため、
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 旅費交通費 | 9,000 | 普通預金 | 18,000 |
| 通信費 | 5,500 | ||
| 水道光熱費 | 3,000 | ||
| 雑費 | 500 |
と表せます。
報告と補給を別々に仕訳する問題では、小口現金をそれぞれの仕訳に記録します。 問題文がどの時点・どの処理を求めているかを確認します。
⑦ 主な間違いやすいポイント
支払時点と報告時点を混同しない
本教材の定期報告方式では、会計係側の費用仕訳は支払報告を受けたときに行います。担当者の日々の支払いは小口現金出納帳へ記録します。
補給額を定額そのものと取り違えない
定額50,000円、報告直前残高35,000円で、ほかに増減・差異がない場合、補給額は15,000円です。
50,000円を新たに加えるのではなく、元の定額へ戻すために不足する額を補給します。
支払い内容を費用科目へ分ける
小口現金は支払い方法を表す資産です。支払報告を受けたときは、電車代・郵便料金・文房具代などの内容に応じて費用科目へ分類します。
⑧ まとめ
| 段階 | 本教材の基本処理 |
|---|---|
| 前渡し | (借)小口現金 / (貸)現金・預金など |
| 担当者の日々の支払い | 小口現金出納帳へ記録 |
| 会計係が支払報告を受ける | (借)各費用 / (貸)小口現金 |
| 報告後に補給する | (借)小口現金 / (貸)現金・預金など |
| 報告+同額補給を1本で処理 | (借)各費用 / (貸)現金・預金など |
定額資金前渡法では、前渡し・支払い・報告・補給のどの段階を処理しているかを先に確認すると、借方・貸方を整理しやすくなります。
⑨ 関連問題への導線
本単元には、次の問題を用意しています。
- 一問一答:9問 ―― 意味・役割・報告時点・補給額
- 仕訳問題:7問 ―― 前渡し・報告・補給・同時処理
- 計算問題:5問 ―― 定額・使用額・残高・補給額の逆算
小口現金出納帳の完成・科目別欄の集計・日次残高は、C04-T07「現金・預金関係の補助簿」で扱います。
⑩ 2級への接続
2級でも、現金・預金の管理や、支払内容を適切な費用科目へ分類する考え方は続きます。
3級の小口現金では、
資金を担当者へ渡す
→ 担当者が支払内容を記録する
→ 会計係が報告を受けて会計処理する
という役割分担を理解しておくと、取引を「誰が行ったか」「帳簿へいつ反映するか」に分けて考える練習になります。

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