【情報セキュリティマネジメント】クラウドの責任共有モデル、サービス形態だけで決めない|IaaS・PaaS・SaaS・責任分界

「クラウドを使えば、セキュリティ対策は事業者に任せられる」と考えてよいのでしょうか。

クラウドでは、事業者が提供・保護する範囲と、利用組織が設定・運用する範囲があります。しかも、その境界はIaaS・PaaS・SaaSという分類だけで完全に決まるわけではありません。

この記事では、どの層の話か誰が実際に設定・更新・確認するのかという二つの軸から、責任分界を整理します。

読み終えるころには、事例の対象が事業者側か利用者側かを層と主体から判断でき、サービス形態だけで決めていないかを確認できるようになります。

1.SGシラバスでの位置付け

SGシラバス Ver.4.1では、情報セキュリティ管理の用語例として「クラウドサービスの責任共有モデル」が明示されています。

また、システム構成やソリューションサービスの用語例には、クラウドコンピューティング、SaaS、PaaS、IaaSがあります。

本記事はクラウドの責任分界を正典とします。IaaS・PaaS・SaaSの構成そのものは「システム構成と信頼性」の記事が正典なので、ここでは責任分界を判断するために必要な範囲だけ説明します。

先に結論:設備は事業者、データ・ID・設定は利用者に残りやすい

管理対象 一般的な責任の考え方 判断の手がかり
データセンター・物理設備 クラウド事業者 利用者が直接管理する対象ではない
物理サーバ・物理ネットワーク・仮想化基盤 クラウド事業者 クラウド基盤を構成する層
ゲストOS・ミドルウェア IaaSでは利用者、PaaS・SaaSでは主に事業者 サービス形態と追加サービスを確認する
利用者が開発・配置したアプリケーション 利用者 自社が作成・配置した部分かを見る
SaaSとして提供されるアプリケーション本体 主にクラウド事業者 利用者独自の設定・連携は別に考える
利用者アカウント・アクセス権・共有設定 利用者 誰に何を許可するかを利用組織が決める
登録するデータ 利用者 分類・利用目的・共有範囲を判断する
接続端末 利用者を中心に管理 端末保護まで自動的に事業者へ移らない

これは一般的な整理です。最終的な責任分界は、サービス仕様、契約、利用する機能、追加オプション、利用者が構築した部分によって変わります。

2.責任共有モデルは責任を押し付け合う仕組みではない

責任共有モデルは、事故が起きた後に「どちらの責任か」を争うためだけの考え方ではありません。

利用開始前に、

  • 誰が設定するか
  • 誰が更新するか
  • 誰が監視するか
  • 誰が異常へ対応するか
  • 誰が実施結果を確認するか

を整理し、対策の抜けを防ぐために使います。

双方が「相手が実施する」と思い込めば、必要な対策が実施されない責任の空白が生じます。一方、実際に操作できる主体だけで責任を機械的に決めるのも適切ではありません。最終的にはサービス仕様や契約で確認します。

3.サービス形態にかかわらず利用者側に残りやすいもの

サービス形態が変わっても、次の三つは利用組織側に残りやすい領域です。

データ

事業者が保存や暗号化の機能を提供していても、利用組織には次の判断が残ります。

  • クラウドへ登録してよい情報か
  • 個人情報・機密情報を含むか
  • どの目的で利用するか
  • 誰と共有してよいか
  • どの期間保存するか

「クラウド上に保存したので、データ管理も全て事業者の責任」とは考えません。

ID・アカウント・アクセス権

一般に利用組織は、利用者の登録・削除、権限付与、管理者権限、外部共有、多要素認証などの設定を管理します。

事業者が強い認証機能を提供していても、利用組織が有効化せず、過大な権限を付与すれば十分な効果は得られません。

接続端末と利用方法

PCやスマートフォンの更新、マルウェア対策、画面ロック、紛失時対応、私物端末の利用可否なども利用組織側の管理事項です。

クラウド基盤が保護されていても、感染端末や盗難端末から正規アカウントが悪用される可能性があります。

4.IaaS・PaaS・SaaSで責任分界はどう変わるか

事業者が提供する範囲が広がるほど、利用者側に残る範囲は狭くなります。ただし、なくなるわけではありません。

IaaS

IaaSでは、事業者が物理設備、物理サーバ、ネットワーク、仮想化基盤などを提供します。

一般に利用者側には、ゲストOS、その修正プログラム、ミドルウェア、自社アプリケーション、仮想ファイアウォール等の設定、アカウント、データの管理が残ります。

したがって、「IaaS上の仮想サーバなので、ゲストOSの更新も事業者が行う」とは限りません。

ただし、OS管理を代行するマネージドサービスなどを追加すれば、担当範囲が変わることがあります。

PaaS

PaaSでは、OS、実行環境、ミドルウェアなどを事業者が管理する範囲が広がります。

一方、利用者が開発・配置したアプリケーション、コード、アクセス制御、サービス設定、アカウント、処理するデータなどは利用者側の管理対象です。

事業者が実行環境を更新しても、利用者が作成したアプリケーションの脆弱性や認可設定まで自動的に修正されるわけではありません。

SaaS

SaaSでは、事業者がアプリケーション本体を含む広い範囲を提供・保守します。

それでも、利用者アカウント、管理者権限、データのアクセス権、外部共有設定、セキュリティ機能の設定、登録するデータ、接続端末などの管理は利用組織側に残ります。

SaaS本体が仕様どおり動作していても、利用者が共有範囲を誤って公開すれば、情報漏えいにつながる可能性があります。

5.最終的な分界は仕様と契約で確認する

IaaS・PaaS・SaaSは責任分界を考える出発点ですが、分類名だけで最終判断しません。

確認する資料の例は、

  • サービス仕様
  • 利用規約・契約
  • SLA
  • 責任分担表
  • 管理者向けガイド
  • セキュリティ設定の説明
  • 追加オプションの提供範囲

です。

同じサービス形態でも、バックアップ、監視、OS管理などを追加サービスとして委託できる場合があります。

ISMAPの公式FAQでも、情報セキュリティインシデントの報告対象を判断する際、責任共有モデルの考え方とクラウドサービス契約に基づく責任範囲を確認する整理が示されています。

6.クラウドのログも「提供する側」と「使う側」を分ける

クラウド事業者がログ機能を提供していても、利用者側で取得を有効化したり、必要なログを利用したりする場合があります。

ただし、クラウドのログを取得・保管できるサービスかを選定時に評価する論点は「クラウドサービスの選定と評価」の記事が正典です。ログの分析・監視そのものは「ログ管理と監視」の記事で扱います。

なお、「監査ログ」という用語名はSGシラバス Ver.4.1には明示されていません。本記事では、責任共有を考えるための補助例としてのみ扱います。

7.科目Bでの使われ方

事例にクラウドサービスが登場したら、次の順で確認します。

  1. データ、アカウント、設定の話か
  2. 物理設備・仮想化基盤の話か
  3. ゲストOS・実行環境・アプリケーションのどの層か
  4. IaaS・PaaS・SaaSのどれか
  5. 仕様・契約・追加サービスで一般的な分界が変わっていないか
事例の記述 一般的な判断
SaaSの共有範囲を全員公開にした 利用者側の設定管理
退職者のクラウドアカウントが残っていた 利用者側のアカウント管理
IaaSのゲストOSを更新していない 一般には利用者側のOS管理
PaaS上の自社アプリに脆弱性があった 利用者側のアプリケーション管理
データセンターの入退室管理 事業者側の物理的管理
仮想化基盤の修正プログラム 事業者側の基盤管理

迷ったときは、「クラウドだから事業者」と決めず、その対象を誰が管理する設計になっているかを確認します。

担当者としては、責任の所在が不明な項目を見つけたら、その場で「事業者側だろう」と判断せず、サービス仕様や契約条件で確認します。仕様書に記載がない場合や、追加サービスの契約が必要と判断した場合は、独断で決めず、契約担当者や上位者へ報告して指示を仰ぎます。

よくある取り違え

誤った考え方 正しい整理
クラウドなら全て事業者が管理する サービス形態・仕様・契約で責任を分ける
SaaSでは利用者アカウントも事業者が管理する 登録・削除・権限付与は利用者側に残る
IaaSのゲストOSは必ず事業者が更新する 一般には利用者が管理する
PaaSなら自社アプリの脆弱性も事業者が修正する 利用者が作成したアプリは利用者側
SaaSアプリ本体の更新を利用者が行う 提供される本体は主に事業者が保守する
責任分界はサービス形態だけで確定する 仕様・契約・追加サービスまで確認する

まとめ

  • 「クラウドサービスの責任共有モデル」はSGシラバス Ver.4.1の明示用語
  • IaaS・PaaS・SaaSで事業者が管理する技術範囲は変わる
  • データ、ID、アカウント、アクセス権、利用者側設定は利用組織に残りやすい
  • IaaSでは一般にゲストOS・ミドルウェア・自社アプリを利用者が管理する
  • PaaSでも利用者が作成したアプリケーションと設定の管理は残る
  • SaaSでもアカウント・共有設定・登録データの管理は残る
  • 実際の責任分界は、サービス仕様、契約、追加サービスで確認する
  • クラウドログの選定評価は「クラウドサービスの選定と評価」の記事、ログ分析・監視は「ログ管理と監視」の記事へ委ねる

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本記事は、2026年8月3日時点のSGシラバスVer.4.1を基準に作成しています。

参考資料

  • IPA「情報セキュリティマネジメント試験(レベル2)シラバス Ver.4.1」
  • ISMAPポータル「ISMAPクラウドサービス登録規則・ISMAP-LIUクラウドサービス登録規則に関するFAQ」

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